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一章 裏側世界の入り口~グロリアスゲート~

『洞窟の中に広がる美しい世界』

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 冒険は安全なものではない。
命を落とす事もあるし、帰る為に必要な足を失う時もある。
冒険家は命と隣り合わせの危険な職業だ。


   * * * * * * * * * * * * *


 小さなランプに灯る炎が周囲を仄かに照している。
このランプは僕の命を守ってくれる相棒だ。
湿った黒い岩の洞窟が奥へ奥へと続いている。

 僕はアビス鉱山の最深部を目指して奥へと進んでいる。

     * * * * * * * * * * * *


 随分と洞窟の深部に進んできた頃、広い広い大きな空間に辿りついた。
周囲の岩が綺麗に煌めいている。

ーーーこれは、宝石だ!

 アメジストやエメラルド、ダイヤモンドから水晶まであらゆる宝石が光輝いている。
足元は水で覆われて転々と大きな岩が転がっている。
大きな岩を足場にして更に奥へと進んでみる。

     
僕は自分の目を疑う光景に出会った。


 ーーーまるで星空だ。


 満点の星が洞窟の遥か頭上で輝いている。
星のような光によって、もうランプ無しでも見渡せるようになった。

 これが最高に美しいと称えられるスターライトと呼ばれる宝石だろう。
古い文献にしか記載されてなく、幻とされている宝石だ。   


 
 ーーーここには沢山の冒険家が訪れた筈だ。
どうしてこんな美しい世界が広がっていることを綴ってある文献がないんだ?   
  


 アビス鉱山に関する情報は何もない。
この鉱山に入って帰ってきた者は誰一人としていないからだ。
ここは通称:Death Abyssと呼ばれている。

 僕はどうしてが帰ってきた者がいないのかすぐに理解した。
足元の水中をよく見てみると大量の髑髏が沈んでいる。
この洞窟には何かが潜んでいる。
凶悪な生き物が侵入者を狙っているかもしれない。
 


 ーーー引き返して様子をみよう。



 そう思って、後ろを振り返ると足場にしてきた大きな岩が見当たらない。
ざわざわと水の波紋があちらこちらで広がっている。



ーーー何かが岩を破壊して獲物を探している!? 



 僕は急いで奥へと進んだ。
足場にしてきた岩の数が極端に少なくなっている。
はやくしないと最深部まで辿り着けないかもしれない。
奥に進むにつれて岩と岩との間隔が大幅に広がっていく。

 冒険家になる為に鍛えた身体能力で何とか次の岩に飛び乗ることが出来る状況だ。
乗っていた岩は即座に水中に潜む何かに壊されていく。
 


ーーー何だよ!この巨大な生物は?!
 


 隣の岩が破壊された時、水中に潜む巨大生物の姿が見えてしまった。
ウナギのような黒く長い胴体にムカデのような無数の長い足が生えている。
 こんな生物、見たことがない。
体長はおそよ15m。
岩を破壊した衝撃が伝わり、足場の岩が揺れて不安定になる。


ーーー怖い!!


 全身に鳥肌が立った。
竦んでしまい足を叩き、無理やりにも奥へと進む。


    * * * * * * * * * * * * *


 もう随分と化物から逃げている。
水中に沈む髑髏も見当たらない。
ここまで者は少ないのだろう。
岩には苔がこびり付いていて、足場の不安定さが増している。

 そして、とうとう僕は失態を起こす。

 目の前には陸地が広がる。
あと一歩の所で足を滑り、水面に落ちた。
巨大な黒い影がゆっくりと近づいてくる。

 プロの冒険家としてこんな序章で死ぬ訳にはいかない。
親父はきっと最深部まで辿り着いた筈だ。

ーーーあれを試してみるしかない!!

 水中で必死にバックの中を漁る。
手に取ったのは強力な閃光玉。
特殊なゴーグルを着けて、閃光玉を起動させた。
 
 閃光玉は猛烈な光を放った。
特殊なゴーグル無しでは失明してしまうレベルだ。
巨大生物は四方八方に暴れている。

ーーー効いたみたいだ。

 荒立つ波の中、陸地に上がれる場所を探す。
水面から地上まで10mもある。
岩肌はつるつるとしていて、登ることが出来ない。
もう時期、巨大生物の混乱も治まるだろう。

 ーーーもう一度、閃光玉を投げてここを抜けられる穴を探すしかないか。

  バックの中にある残り1つの閃光玉を水深の深い所で光らせる。
猛烈な光で水中の隅々まで確認できる。
 

ーーーー見つけた!


 水の流れが収束している大きな穴が底の方に見える。
僕は息を止めて、一気に潜った。

 大きな穴まであと8m。
水泳の修行もしていたお蔭で水中でも素早く移動できる。


ーーーやばい!巨大生物が追いかけてきた。



 ムカデの様な無数の足が高速に蠢いている。
みるみる内に僕とあいつの距離は縮まり、追いつかれてしまった。



 ーーーっぎゃあああ?!



  巨大生物は強力なハサミの様な口で僕の左手を噛み千切った。


 幻想的な色を放つ水中が真っ赤に染まる。
意識が遠のきそうな痛みの中、巨大生物の姿を目で必死に追いかけた。


 ーーーまた何処か喰われたら出血多量で死んでしまう。
 一か八か水中爆弾ならこのピンチを切り抜けられるかもしれない。
衝撃波は僕にも伝わるから自殺行為に等しいけど、やるしかない!!

 
 僕はバックの中から水中爆弾を取り出した。
起動後、5秒間で大爆発を起こす。
衝撃波で心肺停止になる可能性も充分有り得る。
 
 僕は水中爆弾を起動させてそっと地上に向かって手放した。
巨大生物は爆弾とは知らずに、喰らいつてくれた。

 ーーー5・・4・・3・・2・・1・・0!!


 強烈な衝撃と共に、巨大生物は内部から破裂した。 


ルアスにも強烈な衝撃が伝わる。
いつしか、心臓の鼓動は止まっていた。      


   * * * * * * * * * * * * *
 

 破裂した巨大生物のお腹から小さな宝石が姿を表した。
巨大生物の肉片はみるみる内に小さくなっていく。
それは、まるで魔法が解けた様だった。

 小さな宝石はまるで意識を持つようにルアスの口の中に入っていった。


 ルアスは意識を完全に失った状態で穴の奥深くへと流れていった。


  * * * * * * * * * * * * *



 穴は深く深く地球の中心に向かって続いている。
ルアスが辿り着いた場所は地上から遥か地下の世界だった。


ーーー・・・ん。げほっげほっ!!


 ルアスは目覚めると同時に思いっきり体に含んだ水を吐き出した。
止まっていた心臓は元気良く鼓動を打っている。
千切れてしまった左手が綺麗に生えている。
全身の傷も疲れも全て癒えている。


ーーーどういう事だ?僕の体に何が起こったんだ!? 


 訳がわからないが、とにかく生きていて良かった。
命があって良かった。
左手が生えたことも恐怖に感じるけど今は前に進みたい。

 この洞窟いっぱいに黄金の建物がたっている。
周りを見渡すとここは入り口の様だ。
黄金で出来た階段が続いている。

 階段の一段一段に七色に輝く不思議な文字が刻まれている。
ルアスは体を起こして黄金の階段を登っていく。
階段を頂上まで登ると、大きな広間が広がっている。
壁にはまた不思議な文字が刻まれている。
広間の中央には巨大な宝石が飾られている。
見たことがない種類の宝石だ。
まるで虹の様な様々な色と光を放っている。

 僕はその宝石の前に立ちすくみ
床に刻まれている不思議な文字を見つめた。
「グロリアスゲート」という言葉が頭の中に流れた。

ーーーえ?!この文字を読めたのか??

言葉は更に続く。
「我々、人類は滅びる運命だ。宝石の力による魔法でもその運命に逆らう事は出来ない。だから人類は裏側世界に逃げる為に転移魔法の宝石の力を使う。地球は今、星の雨と噴き出す炎により崩壊してきている。グロリアスゲートを産みだす宝石からグロリアスワールドへ転移する」


  ーーー親父はよく話していた。
生涯をかけて探しているのは七色の宝石だと。
 親父がまだ冒険家を目指す前の時代に一人で洞窟を探検して絶体絶命の瀕死状態に陥った事があった。
落石により、両足が複雑に折れていて右目は光を失った。
 そんな絶望的な状況の中、七色に輝く宝石がすぐ傍に転がっていた。
その宝石に触れるとたちまち傷は癒えて足の骨は再生し、右目は光を取り戻した。
それはまるで魔法みたいだった。
もう一度、七色の宝石を見たくてずっと冒険を続けていると親父は語っていた。
 
 床にこの文字を書いたのは恐らく旧人類だろう。
6900万年前頃、隕石と噴火で地球上の殆どの生物は絶滅した。
 星の雨と噴き出す炎から隕石と噴火が想像出来る。

 僕の予想では旧人類は地球が崩壊してしまうと予測して、地球を離れる手段を選んだのだろう。  
親父はこの宝石に触れる筈だ。
人生を捧げて探してきた宝石に触れて裏側世界も見たいと思った筈だ。

 親父が待っているかもしれないこの先の世界に行ってみたい。

 ーーー親父。今、会いに行くよ!


 僕はそっと七色の宝石に手を沿えた。
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