「果てなき意志への忠誠は誰がために」

NAO.T

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第一章

はじまり

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西暦2073年。

人々は荒廃した地球を捨て、宇宙へとその住処を変えようとしていた。
世界各国から宇宙移住計画が開始され、人々は地球の外へと旅立っていくのであった。


時はさらにそこから6年後の西暦2079年の地球。

ドノバ地区。

よく手入れされた子気味良いモーター駆動音が特徴的な人型バトルスーツ(モタリー)に身を包んだセウ(S.E.U.)総隊長のケインが、AIである通称メイソンからの報告を受けこう言った。

「クレイ!お前の言った通りだ!ザニバ区域の座標にエミ(EMI)を発見だ!」

「ケイン!アタシの勘は実践に基づくからねぇ!!」

クレイはコンプレックスでもある自身の赤い巻き毛を指でクルクルしながら色っぽい目線を投げた。

「やるねぇ!!」

と一回り大きなモタリーに搭乗した大柄な髭面の男イーライが言う。

「イーライ!終わったら一杯奢んなよ!!」

ケインとイーライはやれやれ、といった表情で口の横で笑った。

三人が乗っているモタリー(バトルスーツ)は、半AI知能搭載の人型バトルスーツで、パイロットに運動能力や反射神経などに差があっても戦闘力が平均化する様にAIが管理している。
その性能は乗る人を選ばず、子供だろうが老人だろうが皆同じ性能を発揮でき、均等な戦闘力になるため世界で最も恐れられている戦闘バトルスーツである。

これはセウ(S.E.U.)第一小隊隊員でもあるサキが開発したシステムである。
戦闘中でもパイロットのお互いの表情が見える様に、中腰で前かがみに座る座席を、無骨な鉄パイプの様なフレームがパイロットの周りを囲い、それを中心に特殊な強靭なメタルで作られた手足がしなやかに伸びている。
フレームには、これもまた特殊なバリヤー(ライフライブシールド L.L.S.)がドーム型に貼られており、敵の弾丸やレーザーなどを湾曲させて衝撃をやわらげる構造になっている。

ライフライブシールド(L.L.S.)は背中の2つのボックスからそのエネルギーを供給しており、一つは更に強靭な金属で外装を固めている予備ボックスである。
総重量を軽減する為の配慮である。

手足の構造は見た目は人間にほぼ近く、実際の人間よりは少し長く、腕の先には掌があり五指になっている。
パイロットの意思がそのまま反映されそうな生々しい形をしているが、色はガンメタに近く、特殊な変わった光沢をしている。

半AIの意味は、常に搭乗中はAIはパイロットを監視しており、戦闘中も常にアドバイスや作戦の補助をよき相棒として対話し作戦を勝利へと導いてくれるが、最終的な判断はパイロットに託され、操作は指示が無い限りは完全なマニュアル操作になる。

しかし搭乗員が何らかのショックで気絶、もしくは失神、絶命の危険が及んだ時にはAIが強制的に戦闘もしくは帰還出来る様にプログラムされている。

このAIシステムは「メイソン」という愛称で親しまれ、モタリーに搭載されているものではなく、パイロットが常に身につけておりウェアラブル端末としてパイロットの左腕二の腕内側に埋め込まれている。

モタリー搭乗時にはメイソンは直ちにシンクロし、パイロットとメイソン、そしてモタリーが完全に一体化する仕組みとなっている。

メイソンの形は、長方形の四角で簡単な操作ボタンが一つと小型カメラとディスプレイという構成になっている。
操作ボタンが一つしか存在しないのはメイソンの性能の高さを示す事にも繋がっている。

万が一メイソンがオーバーロード及びシャットダウンした際には、このボタンが精神制御式のコントローラーとなる仕組みだ。


モタリーのパイロットになるには、まずこのメイソンの埋込み手術を受けなければいけない。
その際にはAIによるシンクロテストと脳のメモリー(ブレインセル)の摘出に1日を要する。
しかし、これが済めば人体への埋込みの施術はわずか2分で終わる。

モタリーは見た目は無骨ながらその性能は世界トップクラスの戦闘スーツである。

開発者のサキは、世界で初めての人体埋込みウェアラブルAIで名を馳せた「ゼメキス システムコーポレーション」のチーフエンジニアであった父、ブライアン・ハワードと、総責任者でもある人工遺伝子操作研究者の母、ジェシカ・ルイスの間に生まれた。
幼い頃からプログラムに慣れ親しんでいたこともあり、10歳になる頃には現在使用されているメイソンシステムの半分を既に完成させていた。

モタリー本体を製造するには「モタリナイゼーションシステム」という高さ2メートル強の縦型の半透明のカプセルに人が入り、後はAIが自動的にスーツの大きさを決める。

パイロットの身長や体格によってモタリーの大きさも変わってくるが、モタリナイゼーションシステムに入る前の事前のメイソン埋込みによる解析で、パイロットの特技を生かした仕様にもなる。

但し、この特別仕様のモタリーを製造できる許可を得るには総隊長でもあるケインが判断を下すことになっている。
特別仕様なこのモタリーの事を「エースモタリー」と呼んだ。

因みにモタリーに使用されている手足のパーツは、サキの母親であるジェシカが開発した人工培養皮膚の進化版でそれにサキが特殊な合金を加えた物になる。

ケインのセウ第一小隊は総隊長ケイン、副隊長クレイ、イーライ、トム、スコット、サキの総員6名で構成されている。
無論、彼らの搭乗するバトルスーツは全てエースモタリーである。


話を少し前に戻そう。
これはこの物語を語る上でとても大事な話なのだ。


まだ戦争が始まる前の西暦2073年。

人々が移住先としてもっとも望んだ惑星が「惑星リコリス」だった。

「惑星リコリス」には豊富な資源や人類が生きていく上で相応しい水や食料などが豊富にあり、それは地球がまだ美しかった時代と同じような環境であった。

しかし、惑星リコリスの人口増加に伴い、宇宙移住計画の発端でもある世界機関「ワンスペースコーポレーション」は、この人口増加を思わしくないとし、ある日を境に移住民の受け入れを半ば強制的に遮断し、移住希望者への反感を買うこととなった。


この騒動とは関係なく、宇宙移住に対して最初から反対する団体も存在した。

彼らは自らを「セーブジアースユナイテッド」S.E.U.通称「セウ」と呼んでいた。

小規模ながら130数名だが、元軍人や地球への想いが強い者、ワンスペースコーポレーションに対して疑念を抱いている者などが多く、デモ行進や、署名運動、メディアを利用した抗議、など、世間からは反社会派と受け止められる事も多く、その活動はあまり人々の関心を惹かなかった。

セウが一気に脚光を浴びたのは、惑星リコリスへの移住を強制的に遮断した事件がきっかけになる。

セウはこの事態を「人類の自由を奪うことは何人たりとも許されない事」と深く受け止め移住反対派団体にも関わらず、志は同じとし惑星リコリスへの移住を強制的に絶たれた者達と共に、ワンスペースコーポレーションに抗議する活動を展開した。

セウの代表で総団長でもあるシヴィル・バックは、移住の自由性を訴え続ける者たちを集め、大規模な演説を行った。


シヴィルの演説内容は大まかに言うとこうだ。

移住のプロジェクトは、ワンスペースコーポレーションの富裕層をターゲットにした、ただの金儲け移住ビジネスであり、最初からこの計画は政府や重要人物しか受け入れないプロジェクトである。

と、ワンスペースコーポレーションを蔑み罵る内容であった。

そして最後に声高らかにこう言い放った。


「惑星移住などそもそも夢物語だ!富裕層だけに与えられた特権である!我々は騙されている!目を覚ませ!そして共に立ちあがろう!」


この時点でのプロジェクトに対する真意は定かではなかったが、シヴィルの自信に満ちた言葉に絶望と怒りに満ちた移住希望者たちは驚きと力強さに共感。

会場は大声援のセスとシヴィルのコールが響き渡った。

この演説が行われた後(のちに反移住の日となる)セスの団員が大幅に増員するきっかけとなるのであった。
その数は、およそ1万4千人にものぼった。

セウの規模が大きくなるにつれ、政府やワンスペースコーポレーションも黙っていはいなかった。
政府とワンスペースコーポレーションは、秘密裏に反セウ同盟を結び「エミグレイター」という暗躍する組織を結成。
通称「エミ(EMI)」と呼ばれるその組織には、犯罪者や所謂ならず者達が起用されており、セウ撲滅のためなら手段を選ばなかった。

「反移住の日」から数ヶ月後、後ろ盾の強さもありエミはセウ団員を暗殺、またその関係者などを無差別に殺害していった。

当時、政府やワンスペースコーポレーションは知らぬ存ぜぬを貫き通し、まるで他人事の様にメディアに振る舞い、そのニュースは世界中の人々にとって、更に疑念を膨らませる結果となった。

これにより更にデモや抗議がヒートアップし、それを制圧する政府が軍隊を出動させるのは日常化し、セウの死傷者は多数に上り、一時は増えた団員だったが恐怖のあまり退団やその身を隠す者が増え続けた。


最も団員を減らす事件があったのは翌年の6月。

セウの総団長であったシヴィル・バック総団長が2074年の6月13日、エミの暗殺により死去。

はっきりとその死に際を見た者はおらず、疑念が膨らむ訃報だったが、政府は全世界へ向けてこれを繰り返し、プロパガンダの様に報道し続けた。

一途、騒ぎが収まったかに思えたが、訃報に疑念を抱く団員がシヴィル死亡の証拠を見せろ!と更に激化。

団員は暴徒化し、政府やワンスペースコーポレーションからも死者が多数出た。

この日を境に、セウと政府、ワンスペースコーポレション、エミとの対立が激化し、戦いは戦争へと向かっていくのであった。



西暦2076年5月6日。

シヴィル暗殺疑惑から約2年後にセウは団体を解散。

その後、残った団員がシヴィルの意思を受け継ぎ、セウは正式に軍隊となった。


そして現代。

セウが軍隊となって3年後の2079年。

ザニバ地区は砂漠と化しており、風も強く視界の悪い区域で有名だ。

モタリーに乗ったケイン達はクレイとイーライの三人で資源調達で基地へ帰る途中だったが、最短ルートを辿るにはこのザニバを通らないといけなかった。



ケインは少し曇った表情を見せた。

(やっぱりクレイのいう通りだったな…)

と頭の中でボヤいた。
すると人体埋込式ウェアラブルAIのメイソンがケインの頭の中の思考を読みとる。

「ケイン、女性の勘は当たるものですよ」

とてもAIとは思えないほどの流暢な口調で応えた。

「ザニバ区域に入ったぞ!メイどんな感じだ?」

と、お節介なメイソンの言葉を遮るようにケインは言った。
ケインはメイソンに親しみを込めて「メイ」と呼んでいた。

「ケインの希望に沿えるようなお相手は見つかりませんでした」

「おいおい、メイ、お前には緊張感がないのか?」

「ケインには言われたくありませんね...。では一応お伝えしますね、2つ先のビル影に敵ジャンブラー2機発見、SPM※をオンにします」

※SRM...Space Pereception Mapの略

目の前のドーム型に湾曲した大きなスクリーンと自分との間に浮かぶように3D化されたマップがパイロットの見た目と重なる様に表示される。

「クレイ!お前は裏を取ってくれ、位置情報を転送する!メイ頼んだ!」


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