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6 俺の悪魔は優秀です

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 紹介してもらった安宿は大部屋が300ラグで、個室が600ラグという事で、俺は個室を一泊だけ泊まることにした。

 安宿だっけあって従業員も愛想が悪く、スレ違いう客も人相が怪しいのばかりだ。

 中には俺の身なりを見てニヤつく奴も居て正直気持ち悪い。

 部屋もジメジメしていて、ベッドは板に薄い布が敷いてあるだけだ。
 王城の与えられた部屋に比べれば正に天国と地獄。

「グザファン出てきていいよ」

 そういうと、何のない空間から出てくる。

「主、こんなクズ宿にお泊りになる必要があるのです?」

「正直俺もここまで酷いとは思わなかったよ。
まあ今日だけ雨風を凌げればいいよ。
それじゃあグザファン、君の事を教えてよ」

「畏まりました。
私はルシフェル様の元で天使をしておりましたが、ルシフェル様が天に叛逆した時に私はルシフェル様と共に行動をしていました。
私が天界を猛炎に焼く前に神と天使達に敗れ我が身はルシフェル様とその仲間たちと共に地獄へ落ちました。
地獄では業火の1つを担っております。
消したい人間が居りましたら私の地獄の炎で焼き消してご覧に入れましょう」

 グザファンはそういうと俺に跪いた。

「俺に逆らう事は出来るの?」

「否です。
召喚に応じた時点で私は主の配下となりました。
元より主に危害を加えるなど御座いません。
また、危害を持って攻撃しようとしても触れる事は叶いません。
証拠をご覧に入れましょう」

 グザファンは黒く尖った爪で俺を貫こうとすると、俺の目の前で見えない壁に阻まれソレに触れた手は消滅している。

 消えた手は黒い霧に包まれ、その霧が消えると手は元通りになっていた。

「ご覧の様に害意をもって主に触れる事は叶いません」

「そ、そうか……。
急に来られたから驚いた。
ステータスを教えてもらえるか?」

「申し訳ありません。
我が身、我が存在は地獄にありました。
この世界に存在するであろう悪魔とは違う存在です。
ステータスとは何でしょうか?」

「別世界から来たという事か?」

「そうなります」

 う~ん。
 地獄には地獄の世界があるのか?
 よく分からん……。

「タブレットアペアレエンスって唱えてみて」

 俺の言うとおりにし唱えると、グザファンの手には黒い光沢のあるスマホサイズの板が現れた。

「ふむ、なるほど。
この世界ではこの様にして情報が見れるわけですね。
それでは読み上げます」

 それがこれだ。

 HP:12390/12390 MP:58500/58500

 筋力S 魔力SS 耐久力S
 知力S 俊敏S 幸運S

「強いな」

「恐れ入ります」

 その後は地獄の事を聞きいたりした。
 グザファンが居た地獄の世界はこことは別の世界の裏側に位置し、表の世界の生命の憎悪といった負の感情を吸い取りバランスを保っていた世界らしい。

 元々天使だった者や強大な力を持つ支配者達はいたずらに世界を侵略し覆そうとはしないが負の感情、負のエネルギーで発生した最下級の悪魔は本能で行動し、力ある者に抑えつけられないと勝手な事ををするという。

 そういう荒廃した世界だったと語ってくれた。
 単純に力が全て。
 簡単でわかりやすくて正直俺好みだ。

「とっ、誠司に事情を話すんだた。
グザファンはこの部屋ん中だけなら好きにしてていいよ」

「畏まりました」

 俺はタブレットをだして誠司に連絡を入れた。
 少しして、タブレットから誠司の声が聞こえてくる。

『もしもし?晴貴か?』

「俺だよ俺、オレオレ」

『また古いネタだな。
それで、今回の件はどういう事だ?』

「ん~。まぁ結論からいうと悪魔は召喚した。
俺のスキルに悪魔召喚てのがあってさ、どうすれば召喚できるのか知りたくてイジってたら召喚しちゃったんだよ」

 タブレットから深いため息が聞こえた。

『だろうと思ったよ。
でも、なんで隠してたんだ?
俺達は別に気にしないぞ?』

「誠司達が気にしなくても貴族共は違うだろ。
あのまま誰にも気付かれなかったら誠司達だけに話して穏便に出来たけどそっこーバレたし無理だった」

『そういう事か。
王様は酷く気にしてたからお前のスキルで今度なんか良いもんでも送ってやれよ』

「あ~、そうだな。
王様には色々してもらったしな。
それぐらいはやらないとな。
それで、そっちの様子はどう?」

『俺達はお前が城を出てって少し雰囲気が暗かったな。
逆に城の奴は活き活きしてたけど。
お前の方はどうよ』

「冒険者ギルドで早速絡まれたわ。
のしてやったけど」

 俺の応えに誠司は盛大に吹き出す。

『ゲホッゲホッ、はー久しぶりにこんな笑ったわ。
お前相変わらず行く先々で絡まれるな。
それもう才能だわ』

「うっせ!!今さぁ、ボロ宿に居るんだけど王城とは雲泥の差だわ。
カメラ機能があったら見せたい」

 またタブレットから爆笑する声が聞こえる。

「落ち着いたか?」

『あ、あぁ。もう想像しただけで笑えるわ。
それで、晴貴はこれからどうすんの?』

「俺は冒険者しながら気ままにポイント集めかな」

『なんかそっちの方が良い暮らししそうだな。
付いて行きたいわマジで』

「救世主よ、頑張りたまえ!!
それじゃなんかあったら連絡するわ。
あとポイント貯まったら一回そっち行く」

『了解。
皆にはそう言っとくわ』

 その後は他愛ない話をして長引いてしまった。

 誠司との楽しい会話を終わらせ部屋の中を見てみると心なしか綺麗になってるような気がする。
 ジメッとしていた部屋の雰囲気は一掃され自分の部屋のような過ごしやすさがあり、壁や床等の汚れも消えていて、木目の風合いが良く出ている。

 テーブルにはクロスが敷かれどこにあったのかティーポットとカップが……。

 明らかにおかしい。

「グザファン……、これは?」

「はい、僭越ながら私と私の眷属とで部屋を綺麗にさせて頂きました。
楽しそうにお話をされていましたので事後報告になります。
お茶のご用意も出来ておりますのでどうぞコチラへ」

 促されるままに席に座り、カップにお茶が注がれ目の前に置かれる。
 洗練された無駄のない動作に目を奪われてしまった。

 ティーカップから強く香るいい匂いに心奪われなんの疑いも持てずにお茶を口にする。

「……美味しい……」

 口の中一杯に広がる不思議ないい匂いに精神が安らぎ、次に舌から伝わる味わったことの無いどう表現したらいいのかわからない極上の味に体が痺れる。

 また一口と飲み、ため息が溢れる。

「満足していただけたようで何よりです」

「悪魔だと偏見を持ってたけどこういう事も出来るんだな。
これはどうやって用意したんだ?」

「私は元天使ですので、その時の嗜みをしたまでです。
悪魔になってからはたまに一人で楽しむくらいですね。
これらの物は地獄の私の住処から眷属に持ってこさせました」

「なるほどな。
悪魔になったからって天使であった時の記憶や経験は失われる訳じゃないんだな。
あと眷属も居るんだな。
その召喚?ってのは俺の悪魔召喚と同じなのか?」

「その通りでございます。
眷属召喚については、配下の悪魔を呼び出すだけの物です。
地獄で出会い、配下とした悪魔しか呼び出せません」

「ふ~ん。
因みに配下はどれくらい居るの?」

「200の弱き悪魔を従えております」

 ほお~。
 それは凄い。
 それで低級なら上級だとどんだけだ?

 そう考えながらまったりと時間を過ごす。

 お茶を口にする度に気持ちがリラックスされて警戒心が緩み、微睡む。

 こんないい気分にされるのは天使なのか悪魔なのかよく分からなくなってくる。

「主、お食事はどう致しますか?」

「ん~。そうだな~。
美味しいお茶を用意してくれたお礼に今度は俺の世界の食事をご馳走するよ」

 椅子に凭れかかり異世界マーケットを表示するとポイントが180しかない。

 そういえば昨日、明久達とパーッと使ったんだった。
 この180Pで買える美味しい物はなんだろう。

 和食欄で色々見てみると、100Pで牛丼の並が1杯。
 特選牛使用の高級物で180Pだ。
 とりあえず今日はこれで我慢してもらおう。

 それを注文し、目の前のテーブルに出す。
 立ち込める久しぶりに嗅ぐ匂いに食欲がそそる。

「これが俺が元いた世界の庶民的な飯だよ。
ポイントが少なくて今出せる精一杯がコレだけどポイントが貯まったらもっと美味しいの食べさせてあげるよ」

「楽しみにしております。
それでは失礼して、頂きます」

 一緒に現れた箸を器用に使い口に運び、もぐもぐと咀嚼する。

「ほう、これは中々美味しいですね。
天界では味わえない味ですし地獄ではこんな美味しい物は口に出来ませんでした。
主、ありがとうございます」

 なごやかに時間は過ぎていく。

 因みに俺はお茶をたくさん飲んでお腹がタプンタプンである。






 翌日

「んん~!ベッドが硬いから体中がバキバキで痛むな……。
今日は稼いでいい宿に泊まりたい」

 窓板の隙間から溢れる朝日が部屋を薄く照らす。

 簡易ベッドから降りて窓を開ければ優しい朝日に体が包まれる。
 部屋も明るくなり清々しい気分になる。

 グザファンは何もない空間から黒い霧とともに現れ、俺に跪く。

「主、おはようございます。
今日のご予定はございますか?」

「今日はこの後ギルドに行ってなんか討伐クエストを受けたら、それをこなしながら狩りだな。
ポイント貯めたいしレベル上げもやっておきたい。
それとポイントを入手するメカニズムも調べておきたいかな」

「畏まりました。
お供いたします」

 カウンターで鍵を返しギルドに向かう。

 ギルドはそこそこの冒険者で賑わっていた。
 大きなクエストボードの前には人だかりが出来ている。

 ギルドに入ってきた黒髪黒目の俺の姿に、付近の冒険者から注目される。
 グザファンは翼と尻尾と角は認識出来なくする事が出来るという事で付いてきている。
 まあ別に困ることもないかと好きにさせといたがそれがいけなかったようで執事を連れたボンボンの道楽と間違われ、また絡まれてしまった。

「おいおい、俺達を冷やかしに来たのか?
ここはお前のようなひょろっちい坊っちゃんが来るような所じゃないぞ」

 周囲の野次馬共は野次を飛ばす。

 昨日、俺の戦いを見ていたであろう奴等は俺の事を見てみぬ振りをしたり、野次馬を馬鹿にするように笑ってる奴もいる。

 俺はこの絡んできた男を無視して脇を抜けようとしたら、その男が俺の肩を掴もうとしてグザファンにその手首を素早く掴まれる。
 強く掴まれたのだろう、黒く鋭い爪が少し食い込んで血が若干滲んでいる。
 痛みに悲鳴をあげて振り払おうとするがビクともしない。
 グザファンはこの男を底冷えするような冷たい目で見つめている。
 その様子と気配に周囲の野次馬が息を呑む。

「主、ゴミを始末してまいります。
少々お時間をください」

 男を引きずってギルドを出ようとしていたので止める。

「いいよ別に。
それよりクエストだクエスト。
どんなのがあるか興味あるんだよ。
早く行こう」

「畏まりました」

 俺の様子にクスッと笑い、その手にしているものを小道に捨てるように払う。

 俺達が進むと野次馬達の集団は割れて俺に道を譲る。
 実は加勢するような奴が居たら即座に捕縛できるように自分の影に魔力を仕込んでいたが、そこまで根性ある奴は居なかったようだ。

 俺とグザファンはそんな事などどうでもいいようにクエストボードに近づく。

 クエストは討伐、護衛、採取と雑用がある。

 俺はその中でもFランクが受けられる物を見ていく。

「討伐はFランクだとゴブリンしかないな。
ウルフやコボルトはEからか~。
護衛はDからで採取はやれそうなのが多いな」

 ゴブリンの討伐報酬は達成で1000ラグで、買い取りは一体100ラグ。
 討伐証明部位は右耳と書いてある。

 周りの様子を見てみると、カードをクエストボードの受けたいクエストの紙にふれさせている。

 俺も真似してみると、冒険者カードにゴブリン討伐受注中の文字浮き上がる。

「これは便利だな。
俺のFランクカードではEランクのクエストに触れても受注されないし、ちゃんとしているな」

 カードにか[ゴブリン10匹討伐クエスト受注中]とある。

 もう一つ、ポーションの原料になるヒール草の採取も受注して、空いているカウンターでヒール草の見本を見せてもらい、ギルドを出た。









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