ヤンデレ彼女は浮気なわたしを舌ピの中に閉じ込める

西園寺 亜裕太

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なぜかまた会ってる

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カフェを出て、すぐに咲良さんとは別れた。咲良さんには寄り道して帰るから、と伝えて、別方向に歩く。本当は別に寄るところなんてない。ただ、これ以上咲良さんと一緒にいると、また透花に尋問されたときにボロが出そうだから。

『紅葉見に行く日、決めたら教えてね~😉』
カフェから出てすぐにメッセージが入る。

「遊びに行く約束しちゃった……」
そそのかされた、と言っても良いのだろうか。いや、違うか。わたしは自分の意志で咲良さんと遊びに行くことを決めてしまった。

なんて弱い意志なのだろうか……。

スマホのSNSアプリのタイムラインを見ると、透花の新しい画像が投稿されていた。今日はいつも通り。以前、わたしと透花で一緒に遊び行って、わたしが撮影した透花の写真。わたしがすでに見ている写真。

「ほんと、綺麗だよね……」
最低限の加工しかしていないけれど、透花は本当にきれいだった。わたしとは違う。これが、みんなから愛されるビジュ。

わたしだけではない、みんなから……。

帰りの電車は、人が少なくて随分と静かだった。電車の走行音と、西日が心地よくて、ずっと乗っていたくなってしまった。

もうちょっと遠出しても良かったかな……

もっと微睡まどろみたかったのに、残念ながら、わたしの乗車可能区間は3駅のみ。あっという間についてしまった。

「もう着いちゃった」
最寄り駅のアナウンスを聞いて、降りる。なんとなく足取りが重いのは、虫の予感だったのだろうか。

トボトボと、気だるげな足取りで歩いていき、そのまま駅を出たら、背後から声がする。

「ねえ……」
背後から聞こえてくる冷たい声。振り向くまでもなく、当然誰の声かわかる。

毎日聞いてる透花の声。

普段は電車に乗ることなんてほとんど無いから、駅の周辺を歩くことなんてお互いに無いはずなのに、今日に限って透花とばったり駅前で出会うなんて、タイミングが悪いな。

今日はやましいことをしていたわけじゃないけれど、透花は咲良さんのこと嫌いみたいだから、勝手に気まずい感じになってしまう。

咲良さんと会っているのがバレているはずがない以上、どうして透花が冷たい声を出しているのかわからなかった。振り向きながら、透花の表情を確認する。感情の読めないクールな表情をしているけれど、どことなく苛立ちが見え隠れしている。

造り物の冷静さ。クールな表情の仮面は、できれば剥がさないでおいてほしい。

「どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩……」
「電車を使う散歩って、何?」
「べ、別にわたしがどこに行ってても勝手だと思うけど……」

そうだよ。別にわたしがどこに行っても、透花には関係のないこと。そう思って強気に出ようと思ったけれど、透花はわたしよりもずっと冷静だった。

「そのとおりよ。別にわたしはなずのことを責めてなんてないわ。でも、なずはなぜか必死にごまかそうとしているのね。やましくないなら、ありのままのことを言えば良いのに」
ジトッとした目で透花がわたしのことを見てくる。

「じゃ、じゃあ、なんで、さっきから喧嘩腰なのさ……」
呼び止める声が苛立っていたことに気が付かないような鈍いわたしじゃない。誰よりも透花のことをよくわかっているのだから、そこは自信がある。

透花は、はじめからある程度確信しているのだ。わたしを見つけた瞬間から、わたしが咲良さんと、こそこそと会っていたことを。

やられたな。透花が苛立った声で尋ねてきたから、完全に怒っていると思って、勝手に身構えて、言い訳をしまっていた。また、透花の手のひらの上で支配されてるみたい。わたしの逃げ道は、透花には完全にお見通しだ。

「で、どこで、誰と、何してたの?」
透花が顔をグッと近づけてくる。ムッとして、眉間に皺を寄せているのに、美人さは変わっていない。

「別に、咲良さんと会ってただけなんだけど……」
口に出して思う。わたしがどこで誰と会おうとも、勝手じゃん、と。

「やっぱりピンク髪と会ってたのね!」
透花がキッとわたしを睨みつける。
「あ、会ってたけど、別に何もやましいことしてないからね?」

「どこ行ってたのよ?」
「スタバ」
「カフェなんて、この辺にいっぱいあるのに、わざわざそんな遠くまで? なんで?」
「新作のフラペチーノ出たから、飲みたくなって」
「なら、ピンク髪じゃなくて、わたしのこと誘ってほしかったんだけど。わたしとデートしてもつまらないとか、そういことかしら……?」

透花が寂しそうな顔でわたしに訴えかける。下手に怒られるよりも胸がキュッとなってしまうから、慌てて付け加える。

「さ、咲良さんが必修の中間試験の過去問譲ってくれるって言ってたから。それもあって。ていうか、それが本命で……」
透花は法学部で、わたしと咲良さんは経済学部。テストの手伝いは透花にはできないから、理由としては問題ないはず。

「それなら仕方ないけど……」
「会いたくて会ったというより、咲良さんのこと利用させてもらってる感じかなぁ」

嘘、本当は透花の相談をするために、咲良さんのことを呼び出しました……

それでも、わたしの言葉を聞いて、透花が悩みながらも、小さく頷いた。とりあえず、わたしの言い分を受け入れてくれるみたい。

「本当なのよね……?」
「透花は疑い深いね」
「だって、わざわざ電車に乗って待ち合わせしてるって、なんだかわたしにバレないように逃げてるみたいにも思えるから……」
ジトッとした目でわたしのことを見てくる。

さすが透花、鋭いな……

確かに、今日は透花のことを相談しに行ったわけだから、バレないようにという意図はあった。

冷や汗がでていることが透花にバレないように、作り笑いをしておく。

「別にそういう意図じゃないって。透花にバレたら困ることなんてないことなんて無いから、大丈夫だって」
わたしは軽く笑ったのに、透花は表情を崩さない。

わたしと咲良さんの関係、かなり疑ってるんだろうなぁ……

今日に関しては、疑われるのは心外だと言いたいけれど、出会った日の一夜のことを考えたら、正直心外と言い切ることもできない。

そんなふわふわとした気持ちでいると、透花は静かに小さく頷いた。まるで、わたしと透花の周囲の音が消えたみたいに、静かに感じられた。

ジッとこちらを見つめる透花の唇がゆっくりと開いていく。

「もう、これが最後よ?」
そんな意味深な言葉を発し終えてから、ゆっくりと口を開けた。

綺麗なピンク色の舌の上で、キラリと光るピアスの主張が激しくて、とってもまぶしく感じられてしまったのだった。
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