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序章
序章 * ココナッツカクテルの夜
しおりを挟む暖色系の煌びやかな照明に、絨毯のしかれた広いロビー。成田空港近くのホテルは思っていたよりもずっときれいで、わたしは動揺を隠せなかった。
前乗りって、質素なホテルでするものなんじゃないのか。
前乗り=とにかく眠れる場所であればいい、というわたしの常識が音を立てて崩れる。想像していたホテルと今目の前にしているホテルは、おんぼろアパートとオートロック付きのマンションぐらいの差がある。
通された部屋は、秘密基地のような、奥行きのある部屋だった。ブラウン管のテレビを覚悟していたのに、ここにあるのは大きな壁掛けテレビだ。掘りごたつテーブルもある。ただの前泊にしては贅沢すぎる、ただ寝るだけなのに。
興奮して部屋の様子を撮影するわたしの横で、妹と弟は冷静な顔のままだった。引いているのかと思ったら、どうやら眠いだけらしい。それもそうだ、この二人は今日の夕方までバイトに行っていて、ホテルに来る車中でもずっと眠っていた。放っておけば、すぐにでも布団にもぐりこみそうな顔をしている。
だけど、こんなにきれいなホテルなのに、すぐに寝てしまうのはもったいないではないか。どうしても眠ければ、明日、飛行機の中で寝ればいい。旅行の前夜祭、楽しまなければ損だ。
最上階にバーがあると父が言うので、みんなで行くことにする。本当なら、まだ到着していないもう一人の妹(と、その彼氏)が来てから行きたかったのだが、妹(と、その彼氏)は仕事を終えて十一時すぎに来ることになっているので仕方ない。この場にいる五人だけでエレベーターに乗り、最上階へ上がった。
大きな窓からは、控えめにきらめく夜景が見えていた。注文したココナッツカクテルには、カットフルーツと、つまようじで作られた番傘が乗っている。さすが空の玄関口、日本らしさを演出するのを忘れていない。
バーで軽く飲んだら部屋に帰り、あとはもう寝るだけとなった。しかし、眠れば旅行が始まってしまう、という妙な感情でなかなか布団に入れずにいた。寝ない方が旅行が長くなるんじゃないかなどと子供みたいなことを考えてしまう。
いや、三泊四日に様々な予定を詰め込んだこの旅行が、体力勝負になることは十分にわかっている。スマホやカメラの充電を確認し、おとなしく布団の中に入った。明日は早く起きて、ふだんはしない化粧をしっかりしなければならない。
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