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92 初対面
しおりを挟む(キィ―――! この野郎! 全部避けやがった!)
私が心の中で悪態を吐きながらダンスを終えるころには、肩で息をしていた。
一度も足を踏み抜けず、怒りが収まらない。まことに遺憾の意。一度でいいから盛大に踏ませろ。
「疲れたね。一度テラスで休もうか」
一度のダンスで息が上がっているのは体力がないからじゃなくて水面下で足を踏もうと戦っていたからよ。華麗に避けていたこの男が憎いわ。
ギリギリしながら睨み付けるけど、にっこり笑顔で封殺される。笑えって? この野郎! にっこり笑ってやったわ! 口元が引きつっていた気がするけど!
「殿下」
エスコートするスタンの腕をギリギリ抓っていると、渋い男性の声が滑り込んできた。
スタンが立ち止まり、振り返る。一緒に声のした方向を見て、ひょろりと細長い男性が立っているのを見た。
後ろに撫で付けた金髪。温度のない碧眼。背が高い、ひょろっとした印象の中年男性はスタンを呼んで…私を見ていた。
目が合う。
温度のない目が私を値踏みするように見た。
…何よ喧嘩売ってんの? 今虫の居所が悪いから言い値で買うわよ!?
今にも噛みつきそうな私だったけど、スタンがそっと寄り添って来たことで意識がそれた。続いて彼の発言で勢いが止まる。
「エフィンジャー公爵」
(…こいつが?)
スタンの呼びかけに、私は咄嗟に笑顔を作った。
正直睨み付けたかったけど、本命の獲物なら誘い出さなくてはならない。知らないふりで笑っていろと指示された通り、私は笑った。
「久しぶりだね。最近は互いに顔を合わせることもなく、本当に久しぶりに感じるよ」
「…多忙のためご尊顔を拝する機会を逃したこと、誠に残念です」
「気にしないで。公爵が忙しいことは私も十分理解している…しかし手が回っていないようだが、それについて何かあるかな」
「いいえ。近いうちに滞りなく、片付きますので」
「そうか。ならばもうしばし静観することとしよう」
「ご配慮ありがたく存じます」
主語使って話せ!
何の話してんだか全然わかんない! ちゃんと通じ合ってる!?
笑顔のまま聞いててもよくわからなかったわ。お貴族様の会話って皆こうなの? 主語どこいってんのよ。有耶無耶な会話してんじゃないわよ鬱陶しい!
あー合わない。合わないわ。庶民にこのふわふわした会話は合わないわ。まどろっこしい! って叫びたくなるもの。
ちょっとやさぐれかけたところに、公爵が視線を流す。
「ところで殿下、こちらのご令嬢とはどこでお会いになったのでしょう」
「公爵が夫人以外の女性に興味を持つとは珍しい」
「私の関心は妻にのみ注がれていますが、イヴァンジェリン王女以外をエスコートしてこなかった殿下が初めて夜会に連れて来た令嬢は、流石に気になりますね」
「詳しく知りたいなら時間がかかるが、どうする?」
「…本日はやめておきましょう。日を改めてお伺いします」
「そうか。では後ほど」
…これって約束を取り付けられたと思っていいの?
目的達成!?
でもなんだろう。
立ち去る私達を見る公爵の目は、相変わらず温度がなく寒々しかった。
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