7 / 10
7 守り方、模索中
しおりを挟むそして始まった、レアンドルとの護衛の心得指導。
「護衛対象が襲われた時、確かに敵を倒すのは大事だ。だが護衛として一番大事なことは何だ」
「御身の守護。護衛対象を危険から遠ざけ、守る事」
「その点に関しては問題ないようだな」
当然だ。何より大事なのはイヴァンジェリン王女を守る事。エマはその為の槍だ。
「しかし長物か…室内ではどうしていた。屋外ならともかく、槍は室内では不向きだろう」
「室内では、短剣を使う。槍は一番得意だが、護衛の時に持つのは牽制や威圧目的だ。ならず者を近づかせない為、相手を近づかせないための長物だ」
「その辺りは考えているな。なら、やはり問題はその血の気の多さか」
血の気が多いと言われ続けているが、そこまでか?
エマは内心首を傾げた。今まで護衛に向いていないと指摘されたことはない。
イヴァンジェリン王女が公務の時も、プライベートの散歩の時も、お傍に控えて適度な距離を保ち、危険に目を光らせていた。実際襲われたことは何度かあるが、大事に至る前に対処できたと思っている。血の気が多い、忍耐が足りないなどと言われたことはない。
「それは、守られていたからだろう。護衛はお前一人ではないし…外敵に対処出来ても、内側の敵…武力だけで解決できない問題に初めて直面したのではないか?」
「…そう、か?」
そうかもしれない。
何せ最高権力者からの命令だ。今まで王女を守っていたはずの最高権力者からの命令。しかも的外れでどうしようもない。その命令から王女を守るため、自分では最善だと思ったが思い返せば暴走していた気がする。
…王女も、引き止めていた。
王太子殿下は…うん、彼にとってはイヴァンジェリン王女が一番だ。彼はおそらく時間稼ぎがしたかっただろうし、エマとは利害が一致していたので見送ったのだろう。殺って来いのポーズだって本気じゃない。いや二割くらい本気かもしれない。いやいや三割…?
そもそもエマが立候補したのだから、全てはエマの責任だ。そこは変わるまい。
言われてみれば、今まで不届き者の対処はしたことがあったが権力者への対処はしたことが無かった。何せ王女以上の存在と争ったことが無い。王女はもともと和を尊重する方だったので、微笑みながら上手く社交を熟しておられた。反感を持たれるほどのことも、飛びぬけた好意を持たれるほどのこともしていない。自分に何が出来るか模索している最中だったのだ。
だからこそ、待つのとは違う忍耐が必要なことはほぼなかった。そもそも王女という肩書が、あの方を守っていた。
…そうか、私は暴走していたのか。
でもこの方法以外の時間稼ぎも思いつかない。最善でなかったが、間違いでなかったと思いたい。何より暴走した後なので、あとは突き進むしかない。うん、お覚悟。
血の気が多いらしいことは認める。忍耐が必要なこともわかった。
つまり、我が姫に仇なす敵は即ではなく様子を見て突き殺せと言うことだ。
「…何か違う気がするが、忍耐を覚えておけ。それを今鍛えるのは難しいから、とにかくお前の実力を伸ばす」
「結局は個人の能力か」
「本来なら、対象を守る護衛と敵を倒す騎士と複数で警護するものだが…俺とお前だけでは連携は学べない。単騎で対象を守りながら逃走する能力を鍛える」
「滅多にないことだが、ないとも言えないな」
「令嬢の誰かに協力を仰ぎ、実際に守れ。全力で俺から逃げろ」
「安全地帯を複数決めてくれ。あと、時間制限。援軍が来るか否かも決めたい」
この獅子から一人で護衛対象を守り切るのは至難の業だぞ。あと場所が庭園なのがよくない。見晴らしがよく、隠れる場所も少ない。そんな場所で逃げ切れる安全地帯を決めないと、この強敵からは守り切れない。
単騎ならば援軍を求めなければならない時もある。そのための合図だってあるのだから、どれだけの時間を凌げば援軍を望めるのかも決めたい。
そんな不満が顔に出たのか、レアンドルは小さく目元を和らげた。
「敵に向かう蛮勇はしないようだな。安心した」
「私は護衛騎士だ。足止めならともかく、守る方が居るのにお前の様な魔物に挑むわけがないだろう」
「魔物」
なんだそれは初めて言われたと言わんばかりにきょとんとした顔をされた。しかしこいつの強さは人外だと思うので間違っていないはずだ。獅子だと?まだ対処法が浮かぶが、対処法が浮かばないからこいつは人外だ。
それに師事してもらいながら何だが、言い聞かせるような態度が少し気に障る。確かに実力差が象と蟻だが、蟻であることが悪いのではない。象がやば過ぎるだけだ。
その後、エマはレアンドルに何度も何度も転がされることとなる。
護衛対象の王女役は暇を持て余した令嬢たちが進んで協力してくれた。むしろ一種のスリルとして受け入れられている。
何せ仮想敵がレアンドル。どう考えても強敵。そんなレアンドルから護衛騎士のエマと逃げて安全地帯に辿り着くまでのスリルは暇を持て余していた令嬢たちを虜にし、時にトラウマを産んだ。
その時々で設定が凝っていて、本気で守り切ろうとするエマの気迫と「王女を守る凛々しい女騎士」の顔がお姫様になったような気分にさせてくれるのだ。襲い掛かるレアンドルは恐ろしいが、敵の動きを予想して遭遇しないよう逃げ回り、時には身を挺して護衛対象を守るエマに令嬢たちは胸をときめかせていた。
「いけませんわ…わたくし、まだ胸の高鳴りが止まりません」
「わかります。わかります。わたくしの時は『お茶会の集まりから外れたところでならず者に襲われる』設定でしたが、レアンドル様が扮する暗殺者の影に気付いてすぐ、エマ様がわたくしを庇うように立ち廻られて…すぐ身を隠しながら逃げることになり、その間ずっと『大丈夫です』『必ずお守りします』とお声を掛け続けてくださって…はうっ」
「レアンドル様が強すぎるから、まず身を隠すことを前提となさるの…だから、こう、狭い影にお互い身を寄せあって…エマ様のお身体と密着して…ああ、目が眩むほどいい匂いでした。女性の汗の香りにときめくことになるなんて…!」
「わたくしの時は安全地帯に辿り着く前にレアンドル様に見つかってしまい…エマ様は昏倒させられ、わたくしも捕まってしまいましたの。その瞬間、横たわりながら悔し気に、わたくしに向かって『姫様』とエマ様が…!」
「わかります…!こう、胸が、ぎゅううううっと締め付けられるような切なさが…!」
「レアンドル様が御強くて、滅多に成功できないことを悔やんでいらして…その分、成功した時のエマ様の達成感に満ちた笑顔が眩しいのです。ボロボロなのに『姫が御無事で何よりです』とおっしゃって…ああ!滅多にない爽やかな笑顔!!」
令嬢たちは胸をときめかせていた。
「レアンドル様は怖い」
「御姿を見たと思ったらエマ様と戦闘に入っておられました」
「いなくなったと思ったのに背後に現れた時は気を失うかと」
「エマ様に抱えられて逃げた時肩越しに見えたレアンドル様の追いかけてくる御姿はまさしく獅子」
「いいえ悪魔」
「わかる」
「手加減なさっていると分かっていても捕まった瞬間死を覚悟しました」
「エマ様が本当に殺されたかと思って本気の悲鳴を上げました」
「わかる」
「レアンドル様は怖い」
同時に恐怖を刷り込まれた。
「勝率は二割と言ったところか。これでは王女を守り切れないぞ」
「く…っ!」
「対象の安全が確保できるまで倒れるな。凌ぐことを優先しろ。倒せると判断出来ないなら斬りこむな」
「血の気の多さを自覚した。まさかこんなに、反撃の手が制御できないなんて…」
制限時間を凌がなければならないと分かっているのに、レアンドルの見せる僅かな隙につい踏み込んでしまう。勿論それは罠で、毎回転がされて終わる。悔しい。
「自分より強い奴に、急所に一撃でも入れられるようになれ。そうすれば少しでも時間を稼げる」
「結局は実力不足か…分かっている。私はまだまだ未熟…だがお前を倒すためにも止まりはしない。その胸をお借りする!」
「ああ、来るがいい!」
そして護衛戦の後は、ひたすら二人で打ち合う。それが、ここ最近の庭園での流れだった。
そんな二人を、令嬢たちはうっとりと観戦している。
ここ最近、二人が打ち合えば途端に二人だけの世界になる。それを令嬢たちは感じ取っていた。庭園の空は常に青空だが、彼らの背後だけ夕焼けに見えないこともない。
―――そう、まさしく、夕日の河原で殴り合うような一体感。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
悪役令嬢は殿下の素顔がお好き
香澄京耶
恋愛
王太子の婚約者アメリアは、 公衆の場で婚約破棄される夢を見たことをきっかけに、自ら婚約解消を申し出る。
だが追い詰められた王太子、ギルバートは弱さと本心を曝け出してしまい――。
悪役令嬢と、素直になれない王太子の“逆転”ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる