眠れる塔の美…?

こう

文字の大きさ
8 / 10

8 問題解決の一手

しおりを挟む


「まあまあまあまあ」
「あらあらあらあら」
「もしかしてもしかして」
「ありえる?ありえちゃう?」

 令嬢たちはわくわくどきどきそわそわと、何やら関係性が変わってきている二人を観察していた。野次馬ともいう。

 今まで庭園の奥から姿を見せなかったレアンドルが、当然のようにエマと稽古を繰り返す。護衛戦で恐怖を改めて植え付けられた令嬢も多いが、もともと戦う男。今まで欝々としていたのが日に日に生き生きと輝いているような気がする。ああやって打ち合っている間もだが、何気に外敵役でエマを追い詰めるのが楽しそうだ。やはり獅子。狩りが楽しいのかもしれない。
 あれ、エマが獲物?いや、彼女も狩人の目つきなのでレアンドルが狩り甲斐のある獅子に見えているかもしれない。
 エマもまた、いつでもどこでもレアンドルを仕留めようとしていたのが少し落ち着いた。やっぱり仕留めようとはしているが、レアンドルを標的だけでないモノへと認識し直した気がする。
 …やっぱり標的扱いだったのですね。

「もしやお似合いでは?」
「これは可能性があるのでは?」
「情は育まれているはずですわ!」

 きゃいきゃいと期待交じりの歓声を上げる令嬢たちの声を、ローラは苦虫を噛み潰したような顔をしながら聞いていた。令嬢としてお外でしてはいけない表情である。

「楽観が過ぎますわ。お互いの距離が縮まったのは見て取れますが…どう見ても騎士同士の友愛です」
「エマ様がぞんざいな口調を貫く所為か、騎士を目指す甥っ子と厳しくしつけるおじさんにも見えますよね」
「ジェーン・ジェニー。それはお二人に失礼よ」

 二人とも、それほど若くも老いてもいない。
 嗜めるマリアに、ジェーン・ジェニーはぺろりと舌を出した。

「わかってますよう。でもインスピレーションを得た方はいらっしゃるようです」
「楽しいお話を聞かせてくれる方々だとは思っていたけれど、ご自分で筆を取られるのね」
「あの二人を見ていると創作意欲が湧くらしいです」

 二人の話題から、ローラは鬼気迫る表情でペンを走らせる令嬢たちの一角をチラ見した。彼女たちは血走った目で今日もレアンドルとエマのやり取りを観察しては声にならない歓声を上げ、取り寄せた真っ白いノートとペンで迸る想いを書き殴っている。
 この空間、記憶にないものは呼び出せないが、呼び出したものから新しいものを作り出すことは可能である。この空間で書いたのだから、他の令嬢も目を通すことが出来た。

 新作が読めないなら新作を書けばいいじゃない!!

 最も、その生み出したモノが目覚めてどういう扱いになるのかは不明。深く考えると発狂ものなので考えてはいけない。

「ちなみに私、『魔王レアンドルが勇者エマと繰り広げるドタバタコメディ』が好きです」
「あれは楽しかったわね。私は『王女様しか見ていない女騎士エマに執着して嫉妬して護衛騎士として活動できなくなるくらいぐちゃぐちゃにするレアンドル様』がほの暗くてよかったわ」
「ええー、私まだ最後まで読めてませんよー。ちょっと覚悟が必要で…確実に人気出る作品だとは思いましたけど」
「あとは『男の子エマ』ね」
「王女と男の子エマとレアンドル様の三角関係に滾りました」
(性別を変えなくてもそう見えるのはわたくしだけかしら)

 ローラは詳しくないが、王道担当とアブノーマル担当がいるらしい。エマの凛々しい騎士服…男装姿。レアンドルとの攻防。令嬢たちには丁寧なのに、レアンドルにだけは不遜な対応をする姿などから、一部の令嬢たちは新しい扉を開いているらしい。ジェーン・ジェニーは全ての創作に目を通し、全ての作者と連絡先を交換している。目が覚めたら本を書いて欲しいそうだ。商魂たくましい。
 ちなみにローラは『エマがレアンドルの配下となり共にレオニハイドを守りながらお互いに惹かれあう』王道ストーリーが好みだ。程好く甘酸っぱいのが良い。

 だが、現実はそう甘くない。

 確かにエマはレアンドルに対して考えを改め…た…の、かも?しれないが、それは上官に対する信頼や尊敬の様に思える。どこから見ても汗臭い、夕日の似合うスポ根的やり取りに見えてならない。
 創作ではいくらだって愛を語らい合わせられるのに、現実は愛のときめきでなく汗のきらめき。どっちにしろちょっと眩しい。

 令嬢たちの娯楽は増えたが、問題はまだ解決していない。

「…エマ様、真実の愛チャレンジはやっぱりしてくださらないのかしら」
「マリア様、諦めませんねぇ」

 マリアはテーブルに両肘を置き、組んだ手に自分の顎をくっつけるという令嬢らしからぬ姿勢で何度目かもわからぬ呟きを落とした。ジェーン・ジェニーは軽く、ローラは呆れたように受け流す。しかし今日は、言葉を濁すマリアも話を続けた。

「そもそも…エマさまは、現実世界でレアンドル様に出会う前にこちらに来たとおっしゃられていました」
「そうだったわね」
「ありえるんですか?そういうの」
「聞いたことはありません。いえ、眠り病の様な呪いは滅多にないのでわかりませんが…こちらに来た条件が他と異なっているのはわかります」

 言いながら自分に言い聞かせているのか、マリアは深く頷いた。

「もしかしたらエマさまは、誰よりもレアンドル様と波長が近いのかもしれません」

 波長とは何ぞ。
 首を傾げたジェーン・ジェニーに対し、ローラははっとした。

「そういえばマリア様。あなた『福音』が…」
「ええ。『福音』があるので解呪も出来ると驕った結果がこちらです」

 実際は福音の研究などしていなかったのだから、宝の持ち腐れ。役に立つわけがなかった。
 そもそも『呪いが使える力』なのであって、儀式を通さないと何の意味もない力である。

「波長が近いとはどういう事です?」
「人には相性というものがありまして…『福音』関係なく、付き合いやすい人や行動が似ている人、嗜好が一致する人が存在します。そういった人と『波長が合う』と言います」
「まあそうです、ね?」

 一般的にも使用する言葉だ。しかし今回は、より深い意味で使ったらしい。

「近づいただけで干渉し、精神が重なり合うほど波長が近い…つまりお二人は、運命の相手と言っても過言ではないのではないでしょうか」
「「「きゃー!」」」

 耳を傾けていた周囲の令嬢たちが歓声を上げた。
 きゃいきゃいと嬉しそうな彼女たちを横目に、ジェーン・ジェニーは首を傾げた。

(それってエマ様が呪いに全く耐性がなかったとかもあり得ない?)

 武力全振りしているような御方なので、呪いに全く免疫がなかった可能性も無きにしも非ずと思ったが―――それはちょっとロマンを感じなかったので、マリアの意見を全力で応援することにした。

 しかしその時。

 ガツンと鈍い音が響き―――庭園の青空がぐにゃりと歪んだ。

「え」

 誰かが呟き空を見上げ。
 一拍の間で、青空は元に戻る。

 静寂。間。

 次の瞬間、令嬢たちのざわめきが爆発した。

「なんですの!?今のは一体なんですの!?」
「空が、空が極彩色の渦を!」
「いいえ玉虫色に蠢きましたわ!」
「まさか呪いが解ける前兆!?」
「そんな!何故一瞬だけ!」
「今一体何が」
「わたくし見ましたわ!」

「エマ様がレアンドル様に一撃を入れたのです!!!!」

 ざっと全員の視線が鍛錬を行っていたエマとレアンドルに向かう。呆然と立っていた二人はその勢いにぎょっとした。
 そこには、槍の石突き部分でレアンドルの肩に一撃を与えた体制のまま固まるエマと、反撃の為に槍の柄を握ったまま動かないレアンドルの姿が――――…。
 鍛錬でも受け流されいなされるばかりのエマの、初めての一撃。
 その瞬間に歪んだ空。

 …え、なに、つまり。
 ジェーン・ジェニーは驚愕の声を上げた。

「本当にレアンドル様を倒さないと呪いは解けないってことですかぁあああああ!?」
「「「ナ、ナンダッテ――――!?」」」


 暴論と思われたエマ、まさかのアイデアクリティカル大正解



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢は殿下の素顔がお好き

香澄京耶
恋愛
王太子の婚約者アメリアは、 公衆の場で婚約破棄される夢を見たことをきっかけに、自ら婚約解消を申し出る。 だが追い詰められた王太子、ギルバートは弱さと本心を曝け出してしまい――。 悪役令嬢と、素直になれない王太子の“逆転”ラブコメディ。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...