眠れる塔の美…?

こう

文字の大きさ
9 / 10

9 呪いを解く方法は

しおりを挟む

 素早く足払いをかけ、巨体を転がす。受け身を取りながら転がった相手の胴体に飛び乗り、マウントを取って拘束した。
 がっと勢いよく確認。

「どうです!?」
「だめです。揺らぎ一つありません!」
「青々と広がる気持ちよい青空です!」

 レアンドルに馬乗りになったエマ。
 そんな二人を囲み庭園の空を確認する令嬢たち。

「十回転がしても異変無し…先程の揺らぎはレアンドル様に一撃入ったことと関係が無いのでは…?」
「そもそも揺らぎが呪いの解ける前兆かどうかも不明ですわ」
「でもなんかこう身体が引っ張られる感覚が…」
「まああなたも?実はわたくしも」
「わたくしも」
「となるとやはり、前兆ではなくて?…となれば原因は…」
「…レアンドル様への一撃…」

 早くも見慣れた訓練風景だったはずだが、エマがレアンドルに一撃入れた瞬間に精神世界の空が揺らいだ。今までなかった変化に、令嬢たちは呪いが解ける前兆ではないか、きっかけは何かと精力的に確認を取り出した。
 そして心当たり…レアンドルへの一撃がまさかの、呪いを解く一歩ではないかと言うことで検証中である。
 精力的な令嬢たちから、エマに転がされてくれとお願いされたレアンドルは虚無の顔をしていた。完封するまでが任務と思っているのか、毎度毎度エマにマウントを取られる。エマにそんなつもりはないが、強引に押し倒されているようにしか感じられない。思わず虚無になってしまう。おそらきれい。
 令嬢たちは気にせず意見交換を行っている。
 エマはまだレアンドルを拘束中だ。
 …退いていいと思う。

「どうしましょう。やはり武器の使用が重要なのでは?」
「ですが武器を見るとレアンドル様は手加減が出来ませんわ」
「武器を向けられた瞬間感覚で動いてしまうらしく…」
「流石辺境伯…戦場の男ですわ」
「ですが恐らく本気度が関わります。本気で転がされてくださいませ!」
「でもレアンドル様が本気になればエマ様では転がせないわ」
「そう、それが眠り病の難解な理由なのですわ」
「マリア様?何かご存じ?」

 今まで物静かだったマリアが何やら強気で発言している。
 昔読んだらしい呪いの本を片手にキリッとした目つきで発言するマリア。しかし手にしている本は呪いの本「基礎編」である。「基礎編」である。
 ちょっと不安になる。

「眠り病が難病…いいえ難解な呪いと言われるのは、感染する上に解き方が不明だからです。ですがその感染がそもそも呪いを解くために必要なプロセスなのだとしたら…?呪いは強力であるほど犠牲が伴います。この呪いは呪いを解く方法がセットだからこそ強力なのやもしれません」
「マリア様、研究はせずとも呪いの勉強はしていたんですね~」
「福音があるので。儀式自体はしたことがありませんがどんな行動が儀式に繋がるかは確かめていました…魅了の魔女のようにはなりたくありませんし」

 魅了の魔女…それは魅力的になるお呪いを魅了の呪いに変えてしまった魔女の絵本だ。福音を持つ者は、自覚しないと事故を起こすという戒めの長年愛されている絵本である。愛されているのだ。自然と子供たちが呪いについて注意するようになるので。

「そう、呪われた人と呪いを解こうと動いた人…この呪いは、呪いを解こうと行動した人を巻き込むようにできているのではないでしょうか。そうして精神世界に閉じ込められれば、敵対することはまずありません。一緒に呪いを解く方法を模索するはず。相手を打ち倒そうと思う人の方が希少ですわ」

 希少か…エマはちょっと遠い目をした。レアンドルと同じ目だ。おそらきれい。
 というか呪いを解こうとしているのに呪われている奴に襲い掛かる奴はまずいない。
 いやしかし、目を覚ませって殴りかからないか?エマはちょっと首を傾げた。
 一般の令嬢はそんなことしない。

「精神世界に招かれるのが令嬢ばかりなのは真実の愛チャレンジの所為かと思いますわ。部下の方々も呪いを解く研究はなさっていると思いますけど、流石に部下のかたはそういった触れ合いをなさらないでしょう?」

 医者も検診を行ったが、健康状態の確認と呪いを解く行動は結び付かなかったのだろう。塔への移動も同じ理由で適応外。
 マリアの発言に一部令嬢がそわっとしたが黙殺された。それどころではない。ステイステイ。

「呪いを解く為には精神世界で戦う必要があったのです。呪いの要が夢…夢を見ているのは呪われた本人。現実世界で起こそうとすればこちらに招かれ、起きている本人と相対します。叩き起こすと言いますでしょう?眠り病の対策は精神世界で相手を叩き起こすことなのです。多分きっと」
「ちょっと不安が残りますわね…」
「…呪いながら呪いを解く方法も一緒になっていることから、この呪いは強力なのです。仕組みに気付いても、本気で相手を打ち倒すのは難しいことですもの。叩き起こすと言っても本人が夢の要なので、夢に打ち勝たねばなりません」
「本気で戦わないといけないとなれば、女性が呪われている場合も大変ね。相手を打ち倒すなんて…」
「レアンドル様の場合強すぎて勝てないけれど、女性相手と戦わねばならない場合も悲惨なのね」
「とにかくレアンドル様は程好く本気で程好くエマ様に負けてくださいませ!!」
「それって呪い解けますかね?」

 寝ているんだから叩き起こせと言われたら確かにシンプルでわかりやすいが、寝ている本人が本気で抵抗しないといけないとはどういうことだろうか。

 変化の無い空を見上げていたエマは、ご令嬢の考察にちょっと納得がいかない。

 本気で打ち倒せと言われるならば、エマは容赦なく槍を握り当初の目的を遂行したく思う。だが、そこにレアンドルの本気の抵抗が必須だと言われると意味が分からない。しかし十回はレアンドルを転がしても変化がないことから、成すがまま叩かれるだけでは夢から醒めないようだ。
 確信があるわけではないが、空が揺らいだのはお互いが本気で取り組んでいた訓練の最中。確かにエマは我ながら良い一撃を入れられたと思っている。かすった程度だが、蟻が象にかすり傷を負わせたと考えれば快挙である。
 本気のレアンドルを転がす…望むところだが、一朝一夕で出来る事ではない。周囲を囲む令嬢たちの期待に応えたいが、何度も言うが、今すぐ出来る事ではない。
 とても悔しいが。とても腹立たしいが、訓練を重ねてエマはより正確にレアンドルとの実力差を痛感している。
 しかしやり遂げねば呪いは解けない…当初の予定通りなのだからやる事変わりないのでは?とエマが察し始めたところで、今まで為すがままだったレアンドルが軽く首を動かした。未だエマが拘束したままなので、地面に転がされたままである。

「呪いを解く方法も一緒になっているから強力な呪いなのだと、言ったか?」
「は、はい」

 声を掛けられたマリアはキリッとしていた表情を崩して慌てる。この精神世界では、どの令嬢も普段の冷静沈着ポーカーフェイスが剥がれ落ちて表情豊かだ。レアンドルはそんな令嬢を気に留めず、床に倒されたまま、何やら考えていた。

「呪いの効果でありながら、それが呪いを解く方法の一手である…これが本当なら大きな発見になる。何を犠牲にして威力を上げるのかという話だ。だが精神世界と現実の時間の流れの違いを鑑みれば、こちらの方法の方が理にかなっているかもしれない」
「え?」

 抑え込むエマの下で、レアンドルが動く気配がした。
 惰性で押さえていたエマはいい加減に移動しようとして…伸ばされた手が頤に触れ、頬を包み、ぐっと伸びあがった上体が迫り―――エマは全力で右に転がった。
 きゃあっと黄色い悲鳴が響いたが、それどころではない。エマは目を剥いて槍を構えた。

「何をする!?」
「こちらの方が手っ取り早く理に適っているはずだ」
「は?」
「俺も考えていた。何故、触れた者と精神世界に閉じ込められるのか」

 急に語り出したレアンドルに、エマは胡乱な目を向ける。
 それとさっきの行動が繋がるのか?さっきの…まるで口付けるような行動と。

「それが呪いを解く為の一手と考えれば、こうも考えられる―――」

 ゆらりと起き上がった獅子は、やけに真っ直ぐな目でエマを見て、こう言った。

「これは、愛を育むための時間なのだと」
「…は?」




 は?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢は殿下の素顔がお好き

香澄京耶
恋愛
王太子の婚約者アメリアは、 公衆の場で婚約破棄される夢を見たことをきっかけに、自ら婚約解消を申し出る。 だが追い詰められた王太子、ギルバートは弱さと本心を曝け出してしまい――。 悪役令嬢と、素直になれない王太子の“逆転”ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...