回帰した最強の敗者──世界の理すら変える力で、今度は神をも跪かせて支配から自由を取り戻す──

よいち

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第0章 エピローグ

神に支配された世界で目覚める力

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 この世界では、神々が全てを支配していた。空を覆う星々、動植物、人々の命さえも、神々の意志に従っているとされていた。神々はその力を使い、物理法則を歪め、自然の摂理を操り、あらゆる命の行く先を決定していた。それは、無限の力を持つ神々の遊びに過ぎなかった。

 神々はその力を使い、各々が支配する領域を作り、そこに住まう者たちにその支配を強制した。ある神は天空を支配し、天候を操り、ある神は海を支配し、大地を震わせてその命を管理していた。さらに、時を操る者、死を支配する者、さらには人間そのものを操る神々まで存在していた。

 神々の支配下において、人間たちはその命を守るために戦うしかなかった。神々の使者である「使徒」と呼ばれる者たちは、神々の意志を実行するために選ばれ、力を授けられる。しかし、その力は神々に従うための道具に過ぎなかった。使徒たちは神々の命令を忠実に守り、戦いに明け暮れることを強いられた。だが、使徒であっても、決して自由を手に入れることはなかった。

 そして、人間たちはその支配に従い、絶え間ない戦争を繰り返していた。人間は無力であり、神々の意志に逆らうことができる者など、ただの一人もいなかった。だが、その中でも何人かは、神々に抗おうと試みた。俺らの名は歴史に残ることはなく、ただ命を散らしていった。フィリアスもその一人だった。

 フィリアスは、かつて貴族の家、アストラフィム家に生まれ育った。貴族はその血筋に従い、命を守るために神々から授けられた「力」を持って生まれるのが常だった。しかし、俺が持っていた力は、神々から与えられたものではなく、フィリアスの家系に伝わる能力でもなかった。フィリアスが持っていた力は、どこか他の者たちには理解されにくい、不完全で弱い力だった。

 フィリアスの家は、かつて栄華を誇る貴族だったが、いまや没落し、貧しい生活を余儀なくされていた。父親は死に、母親は病に倒れ、家計は破綻し、フィリアス一人だけが生き残った。そんな中で、俺は唯一残された選択肢である傭兵として生きていくことを決意する。

「使徒」と呼ばれる者たちは、神々の意志を実行するために力を与えられる者たちだ。フィリアスは決して使徒として選ばれることはなかった。そのため、フィリアスは傭兵として生きるしかなく、その力を戦場で発揮して生計を立てていた。

 だが、その力がどうしても使いこなせなかった。フィリアスは、自分が風を操ったり、雷を使ったりできると思っていた。だが、それは単なる誤解だった。俺は、戦場で自分の力を使うたびにその限界を感じ、無力感に苛まれ続けていた。

 その日も、俺は戦場にいた。炎のような日差しの中、血と汗が交じり合う大地で戦い続けていた。前線で必死に戦っていた俺は、戦場を駆け抜ける兵士たちとともに、また一つの大きな戦闘に挑んでいた。だが、どこか心は晴れなかった。

「また、こんな戦いか……」

 俺は心の中で呟く。戦争が終わることはない。誰かが死ねば、その分だけ戦う者が増えるだけだった。戦いに勝っても、負けても、どちらも同じ結果が待っていた。神々の支配は変わらない。そんな無力感を感じながら、俺は戦うことに生き甲斐を見出すしかなかった。

 その時、前方に現れたのは、神の使徒――アルトリアだった。

 アルトリアは神々から力を授かった使徒の一人であり、その力は絶大だった。アルトリアの剣は、ただ一振りで数十人を斬り伏せるほどの威力を持っていた。俺の存在は、神々の意志そのものだった。

「フィリアスト……お前がここまで戦ったことは認める。だが、お前の力では俺を倒すことはできない。」

 冷徹な声で、アルトリアが言った。その言葉に、俺は何の感情も抱くことなく答える。

「分かっている……だが、俺はもう引き下がれない。」

 二人の戦いが始まった。俺は、アルトリアの一撃をかわしながら、剣を振るった。だが、どれだけ斬りかかっても、アルトリアには通じなかった。俺の剣はどこまでも鋭く、力強かった。

 そして、アルトリアの剣が振り下ろされる。その刃が俺の胸に向かって迫る。

「……俺は、ここで終わるのか。」

「終わらせてやる」

 俺は心の中で呟いた。その瞬間、俺の中にかすかな変化が訪れる。何か、長い間眠っていた力が、ふと目を覚ましたような感覚。

「風を……」

 俺の手が自然と動き、風を感じ取ろうとした。風は俺の周りを渦巻き、次第にその力を増していく。しかし、その力はまだ不完全で、制御することができなかった。だが、それでも俺は必死で力を引き出し、風を歪めようとした。

 その瞬間、風が一瞬にして俺の周りで渦を巻き、アルトリアの剣がわずかにずれた。

「──!」

 俺はそれを利用し、ギリギリでアルトリアの剣を避けることができたかに見えた。しかし、その力は完全ではなく、結局、アルトリアの剣が俺の胸に深々と刺さった。

 俺はその痛みに顔を歪め、倒れ込んだ。

 だが、俺が死にゆくその瞬間、突如として異世界のような空間が現れた。周囲には何もない。無音、無色、無の世界。

「ここは……?」

 俺は目を開け、周りを見渡した。その空間の中で、何かが動く気配を感じ取った。

「お前が戦った相手……アルトリアのことを知っている。」

 その声に俺は驚いて顔を向ける。現れたのは、まるで別次元から来たかのような存在だった。

「お前は……誰だ?」

 俺はその存在に問いかけた。だが、相手は無表情で答える。

「お前が持っていた力、それを知りたくはないか?」

 その問いに、俺は何も言えなかった。だが、その存在が続けた。

「お前が持つべき力、それは風や雷を操る力ではない。お前の本来の力は、世界そのものを歪める力だ。」

 俺はその言葉に、何も答えられなかった。ただ、心の中でその力を感じ取ることができた。それは、今まで感じたことのない力だった。

「お前はこれから、その力を使いこなすことになる。」

 俺は、その言葉を聞いてもなお、現実感を抱くことができなかった。胸に突き刺さった剣の痛み、そしてその後に広がる無音の空間──。俺は目の前の異世界的な存在をただ見つめていた。

「お前は死んだわけではない。」

 その声が再び響く。俺は驚きと混乱の入り混じった表情でその存在を見つめ返す。

「死んだわけではない?それなら、俺は……」

「お前はただ、この世界の理から一時的に解放されたに過ぎない。だが、死が完全に訪れる前に、私はお前を助けることができる。」

 その存在が言うと同時に、俺の身体はゆっくりと浮かび上がる。周囲の空間は静寂の中で歪み、俺は一瞬にして別の場所へと移動する感覚を覚えた。目の前に現れたのは、巨大な玉座の前に立つ一人の人物だった。黒い鎧をまとい、まるで漆黒の影のように存在感を放っている。

「魔王……?」

 俺はその人物を見つけ、思わず声を漏らした。魔王の姿は、俺が聞き知っていたものと全く異なっていた。伝説や噂で語られる魔王とは違い、俺の存在は静かで威圧感を感じさせるものだった。だが、どこか穏やかな雰囲気も漂っていた。

「私が魔王だ。お前が持つ本来の力を覚醒させる者だ。」

 魔王はゆっくりと、しかし力強く言葉を紡ぐ。その声には不思議な力が宿っており、俺の心に直接響いてくるような感覚があった。

「お前が持っている力、それは風や雷を操るものではない。お前が使っていたそれは、ただの力を使うための引き金に過ぎない。」

 俺は目を見開いた。今まで俺が信じていたものが、まるで砂のように崩れ落ちていくのを感じた。

「お前は、世界そのものを歪める能力を持っている。それが、お前の本来の力だ。」

「世界を歪める……?」

 俺は震えながら、再びその言葉を繰り返した。

「その通りだ。お前の能力は、現実や時間、物理法則を改変する力だ。それを正しく使うことで、どんな戦闘でも、どんな問題でも解決できる。だが、お前は今までその力を誤解していた。」

 魔王の言葉は重く、俺の心にじわじわと浸透していった。俺はこれまで、風や雷を操る能力を持っていると思い込んでいた。だが、それがただの幻想であり、実際には俺が持っている力はもっと巨大で恐ろしいものだということに、ようやく気づき始めた。

「だが、今はその力をうまく使いこなせていない。それが問題だ。お前が風を歪めることができたのは、無意識にその力を引き出したからだ。でも、それでは本来の力を発揮することはできない。」

 俺は悔しさと恐怖が入り混じった表情を浮かべた。自分が持つ力を理解できず、ただ力任せに戦い続けてきた結果が今の惨状を招いたのだ。だが、魔王はそれを冷静に受け入れるように促す。

「お前の力は、もっと深いところから引き出すことができる。しかし、それにはまず、自分の力の源泉を理解する必要がある。」

 俺は魔王の言葉を必死に飲み込みながら、問いかけた。

「どうすれば、それができる?」

「まずは、自分が何者なのかを思い出すことだ。」

 魔王は一歩、俺に近づく。その目は深く、計り知れないものを感じさせる。

「お前が生まれた場所、育った家族、そして、お前が失ったすべてのもの。お前は、それらすべてを乗り越えなければならない。そして、自分が本当に望むものを選ぶのだ。」

 その言葉に、俺はしばらく沈黙していた。自分が生まれ育った家族、没落した家族、そして、戦い続けてきた傭兵としての人生。俺はそのすべてを思い出すことができた。だが、同時にそれが自分にとって重荷であることも理解していた。

「お前は、過去を引きずっていては前に進むことはできない。だが、過去を捨てるわけではない。それを乗り越え、次へ進む力に変えるのだ。」

 魔王の声は冷徹だが、どこか優しさを含んでいるように感じられた。

 その言葉に、俺はようやく理解した。自分が持っている力は、ただの戦闘力ではない。これは、戦争を終わらせるため、そして、神々の支配に抗うための力だった。そして、それを使いこなすためには、自分の過去を乗り越え、新たな自分を見つけなければならない。

「お前は、学園時代の自分を覚えているか?」

 突然、魔王が尋ねた。その問いに、俺は驚いたように目を見開いた。

「学園時代……?」

「お前がまだ、家族とともに平和に過ごしていた頃だ。お前はその頃、何をしていたか覚えているか?」

 俺はその質問に答えることができなかった。幼少期の記憶は、俺にとっては遠い過去であり、消えかけていた。しかし、魔王の言葉が響くと、俺の心の中に一つの閃光が走った。

「……戻る?」

「そうだ。お前が本当に変わるためには、過去に戻り、その時の自分を受け入れることだ。そして、そこから始めるのだ。」

 俺はその言葉を深く心に刻んだ。俺は、過去を変える力を手に入れるために、まずはその力を受け入れる覚悟を決めなければならなかった。

「お前が変われば、この世界も変わる。お前が持つ力は、世界を変える力だ。だが覚えておけ、大いなる力には大いなる代償が伴う。」

 その言葉を最後に、魔王は静かに俺に微笑んだ。そして、俺の周囲の空間がゆっくりと歪み始めた。俺の体が再び、過去の時間へと引き寄せられていく。

「行け。お前の旅は、これから始まる。」

 その声を最後に、俺は完全に消え去った。俺の目の前に広がるのは、かつてのあの懐かしい場所──あの日々が、再び始まろうとしていた。
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