回帰した最強の敗者──世界の理すら変える力で、今度は神をも跪かせて支配から自由を取り戻す──

第2章 未来を変える学び舎

消えた神の気配と新たな試験の幕開け

　訓練を続けている最中、突如として俺の背筋を走るような寒気が走った。まるで全身が凍りつくかのような圧倒的な存在感。それに気づいた瞬間、俺の体は自然に動きを止めた。目の前の風を操る手も緩み、体が警戒モードに入る。

「これは……何だ？」

　感覚が鋭くなる一方で、何かが近づいてくるような気配が感じられた。その力の源は、神のように強大で、まるでその気配に引き寄せられるかのように体が反応していく。しかし、すぐにその圧倒的な存在感は消えた。あまりにも早すぎて、まるで最初から何もなかったかのように、周囲は静寂を取り戻していた。

　俺はその場に立ち尽くし、周りを見渡す。息を呑むような静けさだけが広がっていた。

「まさか、試験前に感じた……あの神の気配か？」

　心の中で疑問が渦巻く。しかし、その答えを求めて風を操ってみるが、どんなに風を感じようと、その気配を捉えることはできなかった。風は普段通り流れているだけで、何も変わりはない。まるで何かが意図的に気配を消しているかのようだ。

　俺はしばらく立ち尽くしていたが、足元から不安がじわじわと広がってきた。あんな強い気配が消えた理由がわからない。その原因を探ろうとするが、答えは一向に見つからない。

　その時、ふと背後から足音が近づいてきた。振り返ると、クラウザー教授が静かに歩み寄ってきていた。

「フィリアス君、何をしているんだ？」

　教授の目が俺に注がれ、冷静な声で問いかけてきた。だが、その目にはわずかな鋭さが感じられた。

「少し特訓を。そんなことより教授、今、ものすごい気配を感じました。神のような……」

　俺は思わず駆け寄り、そのまま感じたことを口にする。教授は黙って俺の話を聞き、短くため息をついた。その目が、まるで俺の言葉を確かめるようにじっと俺を見つめていた。

「そうか。君も感じたか……」

　教授の言葉に、俺は少し驚き、だが納得もした。あの気配は、どう考えても普通のものではない。

「教授も感じたんですか？」

「もちろんだ。」

　教授は静かに答える。

　君が感じた通り、あれは神の気配に間違いない。私もあの気配を感じた。おそらく、ただの気配の乱れではなく、意図的に消されたものだろう。」

　その言葉に、俺は一瞬言葉を失った。あんなに強い気配が、何も掴めないほどに早く消えるのは、普通では考えられない。

「入学試験前に同じような気配を感じました。その時は学園の外だったのですが今回は学園内でした。神のような存在がこんな近くにいるなんて……」

「君が感じた通り、あれは恐らく神やその使徒の存在だろう。」

　教授の目が再び鋭くなる。

「だが、あんな気配を感じたからといって、深く追求することは危険だ。あの気配が消えたということは、何かしらの理由があるはずだ。私が君に言いたいのは、安易にその気配を追わない方がいいということだ。」

　その言葉に、俺は重くうなずいた。だが、心の中ではその気配がどうしても気になってしょうがない。何かが引っかかっている。

「でも、どうしてあんな気配を消す必要があったんでしょうか？」

　俺が疑問を口にすると、教授は短く首を振り、冷静に答える。

「それは私にもわからない。ただ、そういった気配を消す力を持つ者は少ない。私が知る限りでは、それほど強大な存在はこの学園の中にはいないはずだが……」

　その言葉に、俺の胸の中でさらなる疑念が湧き上がる。あの気配が本当にただの偶然で消えたものなのか、それとも何か別の力が関わっているのか。

「わかりました、教授。気をつけます。」

「良い心がけだ。」

　教授は穏やかに微笑み、そして少しだけ考え込みながら、俺に言った。

「だが、君の成長のためにも、まずは目の前の試験に集中することだ。」

　俺はその言葉を胸に刻みながら、再び訓練に戻る。しかし、心の中ではあの気配が消えた理由がどうしても気になって、頭の中から離れなかった。

「絶対に、あの気配の正体は解明しないと。」

　その決意を胸に、再び風を操り始める。しかし、心の中であの神の気配への疑問は残る。

　寮に戻ると、心の中であの「神の気配」のことがしばらく離れなかった。訓練を再開したものの、集中出来なかった。だが、試験のことを考えると、気を抜いている暇はない。圧倒的な成績を残すには実力を見せつけなければならない。

　翌日、朝早くに目を覚ました俺は、必要最低限の準備をして寮を出る。今日は試験当日だ。全ての1年生がグラウンドに集められるという知らせを受け、急いで向かう。

　グラウンドに到着すると、すでに大勢の生徒たちが集まっていた。だが、どこかいつもと違う空気が漂っているような気がした。生徒たちは緊張しているのか、皆静かで、普段の賑やかな雰囲気とはかけ離れていた。

「おい、フィリアス。ここだよ！」

　振り向くと、オリビアとレオンがこちらに手を振っていた。二人が近づいてくると、レオンが軽く笑って言った。

「試験前にこんなに静かなんて、珍しいよな。みんなかなり緊張してるのか？」

　オリビアも、どこか普段よりも真剣な顔をしている。

「緊張するのも無理ないよ。これが、試験の本番だもん。」

　オリビアは少しの間、俺を見つめてから言う。

「でも、フィリアスなら大丈夫だよね。」

「多分な。」

　俺は答える。オリビアはまた軽く笑いながら、

「それにしても、他のクラスメートもかなり意気込んでるみたいだな。みんなの目が怖いよ」

　そう言う。その言葉に、俺は周りを見渡す。確かに、他の生徒たちの目にはただならぬ覚悟が感じられる。誰もが試験に対して真剣だ。ここで結果を出せなければ、試験の先に待っている決勝戦には進めない。

　その時、声が上がった。

「全員注目！」

　セイナ教授だ。セイナ教授はいわゆる魔法使いで、長い黒髪を背中まで伸ばし、軽くウェーブがかかっている。その髪は普段はきちんとまとめられており、教壇に立つ姿は整然としているが、時折髪を耳にかける仕草が優雅だ。顔立ちは落ち着いた美しさがあり、深い青色の目が冷静さと鋭さを感じさせる。知的でありながらもどこか柔らかな雰囲気を漂わせている。服装は黒いローブを着ており、肩には金色の装飾が施されている。どこか高貴で洗練された印象を与えるが、その背後にある強い意志と威厳が感じられる。

　セイナ教授は全員に向けて説明を始める。生徒一人一人を見渡しながら、冷静な口調で話し始める。

「この試験は、君たちの実力を測るものだ。どれだけ自分の能力を発揮できるか、そして仲間との連携をどう取れるかが問われる。」

　教授はゆっくりとしたペースで話を進める。

「戦闘は、3人1組のチームで行う。君たちにはそれぞれ異なる役割が割り当てられ、戦闘の中で協力し合うことが求められる。」

　教授は説明を続ける。

「試験の目的は、指定された拠点を占拠し、敵の防衛線を突破すること。途中、数々の障害物や罠、魔法障壁が立ちはだかるが、それらをどう乗り越え、目標を達成するかが重要だ。」

　セイナ教授は、試験の流れを全体に向けて話す。

「この試験では、君たち一人一人の実力だけではなく、協力して戦う力が求められる。どれだけ連携し、状況に応じた行動ができるかが評価のポイントになる。」

　セイナ教授はさらに詳細な試験の内容について説明を続ける。

「試験は、戦闘力だけではなく、戦術と協力の力が問われる。君たちのチームが成功するかどうかは、どれだけ効率的に連携できるかにかかっている。」教授は冷静に言葉を紡ぐ。すぐに、試験の具体的な内容について説明を始める。

「試験のシナリオは、『占拠作戦』という形で行われる。君たちのチームは、敵の拠点を占拠することが求められます。試験のフィールドには、障害物や罠が配置されており、障害物は敵の防衛兵器により起動される場合もある。君たちの目標は、まずその障害物を避けながら、拠点に到達すること。その間に、敵が襲い掛かってくることもあるだろう。」

　教授は厳しく目を細め、試験の難易度をしっかりと伝えようとする。

「君たちには、敵の拠点に到達した後、その拠点を占拠する任務が待っている。拠点を占拠するためには、敵の防衛線を突破し、最後にはその防衛拠点に設置された旗を奪い取らなければならない。その間、敵の数は増え、兵器や魔法攻撃が激しくなるだろう。」

　教授は少し間を空け、みんなの反応を見ながら続ける。

「一番重要なのは、君たちがどう協力してこの目標を達成するかだ。君たちの役割はそれぞれ違う。 君たちが自分の強みを活かし、どう連携するかが最終的に試験の成否を分ける。」

　教授はそれぞれの役割を再度確認するように言う。

「もちろん、試験中に負傷しないように配慮はしているが、それでも戦闘はリアルなシミュレーションに近い。油断せず、全力を尽くしてほしい。」

　教授は生徒たちに向けて、真剣な眼差しで言葉を投げかけた。

「これから君たちには、チームを組む時間が与えられる。しっかりと相談し、互いの能力を最大限に活かせるチームを作るように。」

　教授は最後にそう告げ、試験の準備に向かうように指示を出した。

　試験の説明が終わり、セイナ教授が静かにその場を離れると、1年生たちはざわめき始めた。試験の内容が伝わり、皆がそれぞれに戦術を練り始める中、レオンが俺とオリビアの方に歩み寄ってきた。

「フィリアス、オリビア、どうだ？ 俺たち、チーム組んでみないか？」

　レオンは真剣な顔で言う。いつもは少し軽い印象を与えるが、今は試験を前にした緊張感がその顔に表れていた。俺も少し考えた後、頷く。

「悪くないな。レオンと組めば、近接戦闘は安泰だろ。」

　オリビアも少し驚いたような顔をしてから、ゆっくりと頷く。

「うん、私も賛成だよ。フィリアスとレオンなら、連携もしやすいし。」

　彼女の言葉に、レオンがにやりと笑って言った。

「そうだろ？ じゃあ、これで決まりだな。俺たち、いいチームになれるぜ。」

　俺たちは軽く頷き合い、無言でそれぞれの準備を始める。試験が近づくにつれて、心の中で次第に闘志が湧き上がってきた。このチームで、絶対に試験を突破してみせる。