勘違い令嬢と3人の男

ringo69

文字の大きさ
3 / 31
Story 1

しおりを挟む

「お嬢様?もうよろしいのですか?」

東屋の近くの花壇で水やりをやっていた侍女のサリーに声をかけられる。しばらく一人にして欲しいと声をかけていたので水やりをしていたのだろう。

「えぇ。もう十分よ。」

色んな意味でもう十分だ。
なんだか休みに来たのに色んなことを考えすぎて逆に疲れてしまった。このところ生徒会の仕事も忙しく、少し無理をしていたのでそれが体にきているのだろう。少し散歩して外の空気を吸って一旦落ち着くことにする。

「左様でございますか…あ、そういえば先ほどアルベルト様の執事がアルベルト様を探してました。またお逃げになったのでしょうか…」
「よくやるわねあの子も。ブライアンは大変でしょうに。」
「そうですね。」

私には弟も一人いて、名はアルベルト。この公爵家を継いでいく我が家にとっては大切な存在なのだが、勉強が嫌いで執事のブライアンの目を盗んではすぐに逃げ出すのだ。
私とは四歳離れていて、セレスとは一歳差。
私には甘えてくるがセレスとは仲が悪い。歳が近いので仕方のないことではあるが、両者とも引かないので父と母は頭を抱えている。

「姉様ー!!」

衝撃を感じて後ろを振り向けばアルベルトが私の腰に抱きついていた。
もうすぐ十三歳になるアルベルトはお父様と私と同じ銀髪の髪の毛に青い瞳をキラキラと輝かせている。アルベルトの背はまだ私の胸の下あたりなので腰が一番抱きつきやすいのだろう。

「アルベルト!」

私はしゃがんでアルベルトの高さまで目線を合わせると抱きつき返してアルベルトの頬にキスをするとアルベルトもそれを返してくる。
という流れがいつもの流れだ。
少しブラコンすぎるかしら…。

「アル、あなた授業を抜け出したんでしょう?」
「うっ…姉様がなぜそれを…!」

アルベルトは肩をビクつかせてバツの悪そうな顔をして私を見た。

「さっきブライアンがアルを探しているところをサリーが見たって」
「…だって。つまらないんだもん。」

一瞬サリーを見て私から目線を外し俯いたアルベルトに私は優しい眼差しで説く。
子供に怒るのは逆効果。優しく優しく共感した上で注意をするだけで大分聞いてくれることに気づいたのはつい最近のこと。

「勉強はもちろんつまらないものよ。私も勉強は嫌いだわ。」
「ほんとに?」
「えぇ、ほんと。サリーも嫌いよね?」

アルベルトは顔を上げて首を傾げた。それと同時にサラサラと銀髪の髪の毛が顔を傾げた方に流れる。
ああ、可愛い。なんて可愛いのかしら…。

「はい、私も勉強は得意ではありません。」
「へぇ。サリーも嫌いなんだ!」
「そうよ。でも嫌いだからと言ってそれから逃げてはいけないのよ?」
「どうして?嫌いなのに…無理矢理やったって頭に入らないよ!」

ヒートアップしてきたアルの手を取ってベンチに座らせる。そして私もその横に座りアルの手をそっと包む。

「嫌いだからと目を背けていては何も始まらないのよ?歴代の皇帝だって、たくさんお勉強をしてきたからこそ皇帝になれるのよ。コツコツ努力をする事で身につく力こそ自分の武器になる。それに、前を向いて頑張ってる人ほどかっこよく、素敵に見えるものよ?」
「…姉様もそう思う?」
「ええ、もちろん。一つの事に集中して取り組んでいる人こそ魅力的だと思うわ。」
「じゃあ、僕、姉様にかっこいいって言ってもらえるように頑張る。」
「ふふ、じゃあ半月授業を真面目に受けられたらアルのお願いを聞いてあげるわ。どうかしら?」

こうやって何をすると何がもらえるというふうに報酬を与えることによって子供は一層真面目に取り組む。アルベルトもゆくゆくは当主になる男だが、所詮は子供なのだ。それを証明するようにアルは済んだ碧い目を輝かせて勢いよく頷いた。

「わかった!!僕、頑張る!!」
「よし、じゃあブライアンに謝りに行きましょう!」

私達はまた手を繋いで屋敷への道を歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マジメにやってよ!王子様

猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。 エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。 生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。 その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。 ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。 「私は王子のサンドバッグ」 のエリックとローズの別世界バージョン。 登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。

皇后陛下の御心のままに

アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。 アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。 幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――

「きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと1

吉田ルネ
恋愛
「きみを愛することはない」祭りが開催されました のその後。 イアンのバカはどうなったのか。 愛人はどうなったのか。 ちょっとだけざまあがあります。

[きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと2

吉田ルネ
恋愛
出奔したサーシャのその後 元気かな~。だいじょうぶかな~。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...