122 / 205
○月×日『応答無し』★
しおりを挟む
「俺、恋人部屋に呼ぶの初めてで」
照れくさそうに笑いながら、歩くんが自室へ招いてくれた。
もちろんご両親と同居しているけど、今日は出かけているらしくこの家には僕達二人きりだ。
そう、二人きりになれるからと部屋に誘ってくれたのは歩くんだ。
僕でもその意味くらいわかる。
この誘いの意味はわかるよ。
「まことさんはー……あ、すみません、こんなこと野暮ですよね。俺なにか、飲み物とかもってきますね」
緊張からか、どこかギクシャクした歩くんが部屋から出ていく。
「……」
歩くんの部屋に1人になって、とりあえず座って待っておくことにする。
「まことさんはー……か、」
確かに野暮だ。
あるよ、なんて言えるわけない。
前付き合ってたのは、木崎篤也さん。
僕の初めての恋人。
少しの間だけど、同棲みたいなこともした。
…………元気かな。
「まことさん、珈琲好きですか?あの、いれてから先に聞けばよかったなって……」
歩くんが気まずそうにマグカップを2つ机に置く。
「ホットかアイスかも聞けばよかったですね……」
「大丈夫だよ、ホットコーヒー好きだから」
マグカップを1つ手に取って口をつける。
「美味しいよ」
歩くんがホッとしたように微笑む。
「……ないよ、呼んだこと」
「え?」
「恋人、部屋に呼んだこと、無いよ」
これは嘘じゃない。
恋人の部屋に訪れたことも、好きな人の部屋に行ったことも呼んだこともあるけど、恋人をそういう意味で部屋に入れたことは無い。
「そうなんですね」
歩くんが柔らかく微笑んでくれることに、少しだけの罪悪感を感じながらカップに口をつける。
でも、歩くんも僕と同じかも。
花村さんと、このベッドで寝たことがあるのかも。
急に自分の背後にあるベッドに醜い感情が湧いてしまう。
誰もいないから、歩くんと、好きな人とそういうことになるのかもしれないってドキドキしてた気持ちが薄れてきてしまってる。
だからって、恋人は呼んだことなくても、花村さんは?なんて聞けない。
僕だって僕の部屋で数えきれないくらい矢野くんに抱かれた。
……これって、嫉妬だよね。
花村さんに嫉妬してる。
歩くんは僕とは違って、花村さんと望まない体の関係を強いられてたのに、嫉妬なんて……
ポジティブに考えなきゃ。
今は、僕が恋人なんだ。
うん、花村さんは恋人ですらなかったんだ。
歩くんの恋人になれた僕は、歩くんに想われてるよね。
花村さんに妬く必要なんかないよ。
「まことさ……」
強気になった気持ちのまま歩くんの体に抱きついた。
黙って珈琲を啜ってた急な僕の行動に、歩くんが戸惑った声で僕の名を呼んだけど、歩くんの胸の鼓動と体の熱さに変な自信が湧いてきてしまう。
「歩くん、好き」
身も心も歩くん一色にしてほしい。
矢野くんや、花村さんなんか入り込めないくらいに。
「まことさん、」
歩くんの腕が僕の体を抱き締め返してくれる。
僕がすっぽり収まってしまうくらい大きな体、優しい匂いに包まれて安心して体の力が抜けると、キスされながらベッドに寝かされた。
僕は夢中で歩くんの舌を舐めた。
少し苦いのは珈琲のせいだ。
歩くんも僕の舌に応えてくれながら、体を撫で、1枚ずつ服を剥いでいく。
「まことさんて、年上の人なのにどこもかしこも可愛くて……」
「ぁ、」
歩くんの唇が体をなぞる。
僕、好きな人に抱かれるんだ……。
気持ちが良くて体かビクビクと跳ねる。
歩くんに身を委ねるこの安心感がたまらなく幸せだ。
唇に、指に、体を解されて、もういつだって歩くんを受け入れられる。
「ん、もぅ、大丈夫……僕もする」
歩くんが僕の股の間から顔を上げる。
僕は体を起こして歩くんのベルトを外し、ズボンのチャックを下げ、下着の中から……
「ぇ」
僕が歩くんの下着に手をかけたまま間抜けな声を漏らすと、歩くんは気まづそうに僕から顔を背けた。
「……すみません」
歩くんの背けられた顔に動揺の色が見える。
歩くんは、勃起してなかった。
僕の体を解している間、すごく積極的に唇も、舌も、指も動いていたのに、興奮はしていなかったってことなのか。
一方の僕は準備万端で早く抱いて欲しくて仕方ないくらいなのに。
「ぇ、と……触っても、駄目なのかな……?」
手で扱いたり、唇にくわえたりしたら流石に勃つんじゃないのか。
「…すいません、いつもは……ぁ、いや、その……すみません」
いつもは?
花村さんには勃起するってこと?
…………流石に萎えた。
「……帰るね」
服を身につけて、早々に歩くんの家から飛び出した。
さっきの発言から想像するに、今日がたまたま勃たなかったってことじゃないんだろう。
歩くんは、僕に興奮しないってこと?
愛撫すれば勃起するかもという提案に対して、あの答えだ。
動揺してたにしろ、普段なら愛撫されなくても勃つんだろう。
僕や、矢野くんが思うほど、歩くんは花村さんのこと嫌じゃなかったのかも。
少なくとも花村さんには反応する。
今、恋人の僕に対しては……。
もう、恋人だから花村さんより好かれてるなんて思えない。
思えないよ。
照れくさそうに笑いながら、歩くんが自室へ招いてくれた。
もちろんご両親と同居しているけど、今日は出かけているらしくこの家には僕達二人きりだ。
そう、二人きりになれるからと部屋に誘ってくれたのは歩くんだ。
僕でもその意味くらいわかる。
この誘いの意味はわかるよ。
「まことさんはー……あ、すみません、こんなこと野暮ですよね。俺なにか、飲み物とかもってきますね」
緊張からか、どこかギクシャクした歩くんが部屋から出ていく。
「……」
歩くんの部屋に1人になって、とりあえず座って待っておくことにする。
「まことさんはー……か、」
確かに野暮だ。
あるよ、なんて言えるわけない。
前付き合ってたのは、木崎篤也さん。
僕の初めての恋人。
少しの間だけど、同棲みたいなこともした。
…………元気かな。
「まことさん、珈琲好きですか?あの、いれてから先に聞けばよかったなって……」
歩くんが気まずそうにマグカップを2つ机に置く。
「ホットかアイスかも聞けばよかったですね……」
「大丈夫だよ、ホットコーヒー好きだから」
マグカップを1つ手に取って口をつける。
「美味しいよ」
歩くんがホッとしたように微笑む。
「……ないよ、呼んだこと」
「え?」
「恋人、部屋に呼んだこと、無いよ」
これは嘘じゃない。
恋人の部屋に訪れたことも、好きな人の部屋に行ったことも呼んだこともあるけど、恋人をそういう意味で部屋に入れたことは無い。
「そうなんですね」
歩くんが柔らかく微笑んでくれることに、少しだけの罪悪感を感じながらカップに口をつける。
でも、歩くんも僕と同じかも。
花村さんと、このベッドで寝たことがあるのかも。
急に自分の背後にあるベッドに醜い感情が湧いてしまう。
誰もいないから、歩くんと、好きな人とそういうことになるのかもしれないってドキドキしてた気持ちが薄れてきてしまってる。
だからって、恋人は呼んだことなくても、花村さんは?なんて聞けない。
僕だって僕の部屋で数えきれないくらい矢野くんに抱かれた。
……これって、嫉妬だよね。
花村さんに嫉妬してる。
歩くんは僕とは違って、花村さんと望まない体の関係を強いられてたのに、嫉妬なんて……
ポジティブに考えなきゃ。
今は、僕が恋人なんだ。
うん、花村さんは恋人ですらなかったんだ。
歩くんの恋人になれた僕は、歩くんに想われてるよね。
花村さんに妬く必要なんかないよ。
「まことさ……」
強気になった気持ちのまま歩くんの体に抱きついた。
黙って珈琲を啜ってた急な僕の行動に、歩くんが戸惑った声で僕の名を呼んだけど、歩くんの胸の鼓動と体の熱さに変な自信が湧いてきてしまう。
「歩くん、好き」
身も心も歩くん一色にしてほしい。
矢野くんや、花村さんなんか入り込めないくらいに。
「まことさん、」
歩くんの腕が僕の体を抱き締め返してくれる。
僕がすっぽり収まってしまうくらい大きな体、優しい匂いに包まれて安心して体の力が抜けると、キスされながらベッドに寝かされた。
僕は夢中で歩くんの舌を舐めた。
少し苦いのは珈琲のせいだ。
歩くんも僕の舌に応えてくれながら、体を撫で、1枚ずつ服を剥いでいく。
「まことさんて、年上の人なのにどこもかしこも可愛くて……」
「ぁ、」
歩くんの唇が体をなぞる。
僕、好きな人に抱かれるんだ……。
気持ちが良くて体かビクビクと跳ねる。
歩くんに身を委ねるこの安心感がたまらなく幸せだ。
唇に、指に、体を解されて、もういつだって歩くんを受け入れられる。
「ん、もぅ、大丈夫……僕もする」
歩くんが僕の股の間から顔を上げる。
僕は体を起こして歩くんのベルトを外し、ズボンのチャックを下げ、下着の中から……
「ぇ」
僕が歩くんの下着に手をかけたまま間抜けな声を漏らすと、歩くんは気まづそうに僕から顔を背けた。
「……すみません」
歩くんの背けられた顔に動揺の色が見える。
歩くんは、勃起してなかった。
僕の体を解している間、すごく積極的に唇も、舌も、指も動いていたのに、興奮はしていなかったってことなのか。
一方の僕は準備万端で早く抱いて欲しくて仕方ないくらいなのに。
「ぇ、と……触っても、駄目なのかな……?」
手で扱いたり、唇にくわえたりしたら流石に勃つんじゃないのか。
「…すいません、いつもは……ぁ、いや、その……すみません」
いつもは?
花村さんには勃起するってこと?
…………流石に萎えた。
「……帰るね」
服を身につけて、早々に歩くんの家から飛び出した。
さっきの発言から想像するに、今日がたまたま勃たなかったってことじゃないんだろう。
歩くんは、僕に興奮しないってこと?
愛撫すれば勃起するかもという提案に対して、あの答えだ。
動揺してたにしろ、普段なら愛撫されなくても勃つんだろう。
僕や、矢野くんが思うほど、歩くんは花村さんのこと嫌じゃなかったのかも。
少なくとも花村さんには反応する。
今、恋人の僕に対しては……。
もう、恋人だから花村さんより好かれてるなんて思えない。
思えないよ。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる