ヤノユズ

Ash.

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○月×日『こうへいくん』

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予定通り僕は退院した。
頭の包帯もとれたし、たんこぶもない。
なんだか、何事もなかったみたいだ。
実際は、頭を殴られて、恋人の浮気現場を見せつけられて、結構大変だった。
けど、篤也さんと矢野くんの気持ちを聞けた。
終わり良ければすべて良しにはならないけど、僕的には悪くなかった。

「ゆず」

呼ばれた方に目を向けると、タクシーに乗り込んだ矢野くんが僕を見上げてた。

「ぁ、ごめん」

矢野くんの隣に座ると、タクシーが走り出す。

「気分悪いのか?」

「ううん、大丈夫。」

矢野くんは学校を休んで僕の退院に付き添ってくれた。

「あの、矢野くん、今日はありが…」

「昂平」

「ぁー……えっと、こうへいくん」

「ん。」

「ありがとう」

「いいって。今更学校サボるくらいなんてことない」

昨晩、気持ちを確かめあってすぐに、矢野くんは僕に"矢野くん"はやめろといってきた。
僕が矢野くんを"昂平くん"から"矢野くん"と呼び替えたのは幼稚園児の頃。
その頃からずっと嫌だったらしい。
幼稚園児の頃なんて覚えてないから、今更呼び方なんてどっちでもいいんだけど…。
つまりは、恋人てやつになったから、この期に修正したかったみたいだ。

「僕はゆずのままなの?」

「……」

矢野くんが呆れた様な目で僕を見る。

「お前忘れすぎだろ。」

「え?」

「もういい。」

それから家に着くまで、矢野くんはずっと黙ってた。

怒った?

















○月×日『矢野昔話~昂平~』

柚野まこと。
幼稚園から一緒。
毛色違いの俺と違って、チビで弱っちぃて虐められてた。
いつも仲間はずれどうし一緒にいた。
というより、一緒にさせられてた。
まことはチビだけど悪いやつじゃなかった。
自分がハブられてることにも気づいてないような天然のアホだ。
いや、純粋な子供だった。
へらへら笑って、転けて泣いて、こーへーくん、こーへーくんて、俺の手を握ってた。

「あいつらムカつく、俺の母さんが浮気者だって!」

めいっぱい石ころを蹴飛ばして八つ当たりをする。

「俺はクウォーターだ。あいつら馬鹿だからっ」

ゲシゲシと地べたを蹴る。
砂埃をポカンとした顔で見下ろしてるまことも、クウォーターの意味は分かっていなさそうだ。
無知なガキのいじめはくだらない。
黒い髪に黒い目、黄色い肌じゃなきゃ仲間外れかよ。
ただ色が違うだけなのに。

「俺だって好きでこんな髪や目で産まれたわけじゃねぇっ」

まことが意味がわかってなくても、自分が怒りを吐き出せればなんでもよかったんだ。

「カッコイーよ」

「……え」

「こーへーくんのかみのけ、キラキラでカッコイー」

そんな事を、まことが……それこそキラキラした笑顔で俺に言った。

「おめめも宝物みたいだよ」

「……宝物?宝石みたいってこと?」

「うん」

俺の目、宝石みたいなんだ……

怒りは消えてた。
俺は単純だった。
まことに褒められて、自分の髪も、目も、ほんとに宝物のように感じられたんだ。
それからは何を言われたって気にならなくなって、まことのことも宝物のように大事にしたいと思った。
他のやつがまことを虐めても、俺が守ってやるし、笑わせてやるんだ。

ある時、担当の保育士が言った。
転入生が数人入ると。
その転入生の子供の名前が、「こうへい」に「まこと」だと。
クラスに「こうへいくん」と「まことくん」が2人以上になってしまうから、皆で呼び方を決めようと。
冗談きついぜ先生。
俺らはいつも仲間はずれ、名前で呼ばれたこともないんだぜ?
そんなきっかけで変なあだ名でも付けられたらたまったものじゃない。

結局、俺は「矢野くん」まことは「柚野くん」になってしまった。
そう決まっても、呼ぶやつなんかいなかったけど、俺はまことを「柚野くん」なんて呼びたくなかった。
先生たちが呼ぶみたいに、一緒になって呼びたくなかった。
「まこと」も、新しい転入生と同じで、俺は俺だけの特別な呼び方でまことを呼んでみたかったんだ。

今思えば、これが初めての独占欲だったのかもしれない。
それから俺はまことを「ゆず」と呼ぶようにした。
だけどゆずは俺を「矢野くん」と呼ぶ。
今まで通りでいいと言っても「先生が決めたから」と、俺を他のやつと同じように呼ぶようになった。

幼稚園から小学生、小学生の高学年に上がる前あたりから俺の身長がクラスで1番になった。
幼稚園から一緒のやつらが俺にビビるようになったのはこの頃。
ゆずは相変わらずチビだったけど、俺にくっついてるから虐められることもなくなった。

中学に上がる頃には女にモテる外見なのだと自覚した。
外見で虐められたのに、高身長で金髪碧眼だとモテるらしい。
ほんと馬鹿らしい。
けど、俺が俺の思うままにするには、ニコニコ理想の王子様演じてたほうが得だった。
いつしかクラスの中心になり、何不自由なく平和に学園ライフを楽しんでた。
でも、ゆずは違った。
俺がクラスの中心になればなるほど萎縮していって、内気になっていった。
ゆずは大勢の人間と群れるのは好きじゃなかったみたいだ。
キラキラとした笑顔を見なくなったのはこの頃からだったかもしれない。
俺は、ゆずと一緒に、普通にすごしたかった。
俺の傍にいれば安心して過ごせるよう、王子を演じたのに、ゆずが一緒でないのは嫌だ。
俺はゆずが俺の傍から離れるのを許さなかった。
俺に黙ってくっついてるゆずを、クラスの女子がお人形遊びするようになったのはいつからか……。
クラスの中で一番小さかったゆずを、可愛いといって髪をいじったり化粧をしたりして遊んでた。
俺はそんなことにも腹が立った。

どうしたら俺のになる。
俺だけのに。

積もり積もった苛立ちが、ある日爆発した。
俺は嫌がるゆずを押さえつけて無理矢理セックスした。
キツくて、熱くて、ゆずを征服しているような感覚がたまらなく満たされた。
だけどそれはセックスの最中だけ。
朝、シャワーを浴びながらお湯と一緒に混じって流れる血液に、頭が冷えた。

何してんだ、俺。

俺が傷つけて、どうするんだよ……
俺の勝手なワガママなんかで、

浴室から飛び出して部屋に戻ったけど、ゆずはいなかった。
乱れた血塗れたシーツだけ。

1人で、帰れたのか?
無理矢理ヤったから、出血してたはず。
……あんなの、セックスじゃない、レイプだ。

俺はかなり早くからゆずの家の前にいた。
学校に行くかわからないけど、行くんだとしたら、あいつが家を出る前に待機しとかないと。
まず、ゆずが出てきたら"おはよう"の前に"ごめん"だ。
謝る。
とにかく謝るんだ。
なのに、いざゆずを前にしたら言葉に詰まった。
そうしたらゆずが"おはよう"と小さく笑った。

俺は呆然とした。
それから、心の中で笑った。

ああ、こいつ……俺と一緒だ。

あんなことやらかした俺に笑いかけた。
こいつは俺から離れていったりしない。

それから俺は調子に乗った。
ゆずは俺に何されたって離れていかない。
そう確信したからだ。

そう、俺は浅はかだった。
馬鹿だったんだ。

だから、ゆずを奪われたんだ。
2度も。


もう間違えたりしない。
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