ヤノユズ

Ash.

文字の大きさ
140 / 205

○月×日『秘密』

しおりを挟む

矢野くんの家の玄関で立たずむ。
緊張して、吐きそうだ。
でも、もう1人で悩むのは限界だった。

「……、」

呼び鈴を押す。
反応はない。
一応ここに来る前に矢野くんにメッセージは送った。
ポケットからスマホを出して、矢野くんに送ったメッセージを確認するけど、既読はついていなかった。
でかけているんだろうか。
電話すれば良かったかな……。
でも、会って話したかった。

「まこと」

呼ばれて顔を上げると、玄関のドアを開けて将平くんが姿を現した。

「昂平なら出かけてるから、中で待ったら?」

正直、矢野くんがいないなら帰ろうかと思った。
それに将平くんとの接触は極力避けたい。
けど、待っていれば矢野くんに会えるなら……。
天秤にかけて、後者を選んだ。


「……じゃあ、お邪魔します」

家の中に入れてもらう。
将平くんに招かれるままにリビングに通される。
大きなテレビの前のソファーに座る。
テレビでは映画が流れてる。
将平くんは僕の隣に座ると、映画に目を向ける。
将平くんの意識は完全に映画に向いてるみたいだし、隣に座っていることに焦りはあったけど、意地悪される心配は無さそうだ。
矢野くんがいつ帰ってくるかわからないけど、早く帰ってきて欲しい。

暫く、隣にいる将平くんが気になって仕方なかったけど、時間が経つと、僕も映画に夢中になってた。
映画は洋画で、みたことがないものだった。
映画の主役は女性だったけど、字幕を目で追ってるうちにそのストーリーに共感してしまっていた。

幼馴染みに恋心を抱きつつも、学校の先輩に同級生と次々と恋をしていく主人公。
最終的には幼馴染みと結ばれるのかと思ったけど、幼馴染みとは破局し、突然現れた男と結ばれてしまった。
……共感する部分があった分、その結末に少しだけ落胆してしまった。
主人公は男の腕に抱かれ、愛おしそうにキスを繰り返す。
急に始まったラブシーンに少しだけ恥ずかしくなる。
前に矢野くんと映画を見た時も、ラブシーンが始まって恥ずかしくなって、僕は部屋を出ようとしたけど、矢野くんに捕まってそのまま丸裸にされてしまった。
一人でラブシーンを見る時は冷静なのに、なんで他に人がいると気恥しくなるんだろう……。
少しだけ俯いてラブシーンが終わるのを待つ。
将平くんは平気なのかな……。
気になって将平くんを見ると、いつからそうしていたのか、将平くんは僕のことをじっと見ていた。
青い瞳が真っ直ぐに僕を見てる。
将平くんはいつもの僕をからかうような表情ではなくて、見たことの無い、男の顔をしていた。
色気のあるその表情に、胸がドキドキと高鳴り出してしまったのは不覚だった。
だって、矢野くんにはこういった雰囲気は無い。
10も歳上の将平くんはやっぱり大人で、これが大人の男の色気なんだと思わされた。
将平くんが矢野くんに似てるのも悪い。
お兄さんなんだから、当たり前だけど、変な気分になる。

「まこと、どこ見てるの」

「え、」

問われて、自分が将平くんの唇を見ていたことに気づいて顔が熱くなった。
映画の中でキスをしながら抱き合う男女のせいか、将平くんの形のいい唇に目が釘付けになってた。
こんな所も矢野くんと同じ形をしてる。

「あ、将平くん……」

将平くんが身を乗り出して僕に近づくのを手で制す。
将平くんが何をしようとしてるのか予想できてしまったから、防衛本能が働いた。

「まことはさ、少し強引なくらいが好きなのかな」

「え、っ」

将平くんを制していた手を取られ、引き寄せられる。
バランスを崩して、将平くんの体にもたれる形になってしまう。

「ぁ、だめ……」

将平くんが僕の腰に片腕を回してホールドすると、首筋に顔を埋めてくる。
もう片方の空いた手が服の中に侵入して、胸の突起を摘むと、体が正直に反応する。
首筋から耳にかけて、唇と舌で愛撫されるのも、気持ちが良くて腰がガクガクと震え出す。

「ぁ、あ……だめ、だめ……」

口では嫌がるのに、体は全然嫌がってない。
将平くんがくれる愛撫に体は逃げようとしない。

「ん、んぅ、」

唇を割って舌がはいってくる。
口の中まで気持ちいい。
こんな快楽、しらない。

「ここで繋がらなくても、気持ちいいだろ?」

将平くんの指が、ズボンの上から僕のお尻の割れ目をなぞる。

「ん、ゃ……」

キスと、体を撫でられただけで骨抜きにされてしまった。
ズボンの中が苦しい。
将平くんの愛撫に夢中になってる内に勃起してしまったんだろう。
信じられない……、それでもまだ放心状態で、将平くんにもたれかかりながら呼吸を落ち着かせた。

「今日はもう帰りな?」

耳元で将平くんが囁く。

「昂平には内緒にしててあげる」

僕は言われるまま、家を出た。
落ち着かない、浮遊感がある。
体が熱い。
家に帰らなきゃ……
熱い。
早く、家に……

自分の家に入って、自分の部屋に駆け込んだ。
ズボンを脱いで、下着の中でぱんぱんに膨れ上がった自分のものを手にとって扱いた。
熱い、
熱い、
目を閉じて、さっきまで将平くんにされてた愛撫を思い返す。

「んんっ」

掌の中で果てる。
暫く放心して…………途端に、罪悪感でいっぱいになる。

自分の掌の中にある欲望を見下ろす。
これは、将平くんに与えられた快楽で出たものだ。
矢野くんじゃない、将平くんに。

僕は、矢野くんに会いに行ったのに、なんでこんなこと……
泣きそうになりながら後始末をすると、スマホに着信が入った。

「っ、矢野くんっ?」

ディスプレイに表示された名前を見て、何かに縋るような気持ちで通話ボタンをおしていた。

「ゆず、わるい、寝てたわ……」

矢野くんは眠そうな、いかにも今起きましたって声色だ。

「ぇ、寝てたの?」

「ああ、昼飯食った後横になったらついな……。メッセージも今見た。今から来るか?」

僕は、矢野くんに"家に行ってもいいですか?"とメッセージを送った。
結局、既読がつかなくて、待ちきれなくなって家を訪ねた僕に、将平くんは"昂平なら出かけてるから、中で待ったら?"と言った。

「矢野くん、…今起きたの…?」

「……?そうだけど。つか、昂平だって何回言えば……」

僕の手からスマホが落ちた。
落ちた衝撃で通話は切れたみたいで、矢野くんからの折り返しのコールが部屋に響く。

…………信じられない。

矢野くんの家で、矢野くんが居たのに将平くんは僕にあんなことしたの?

ゾッとした。

"昂平には内緒にしててあげる"なんて言ってたけど、その行為は大胆そのもので、あと30分も遅くあの場に居たら矢野くんの目にふれてたかもしれない。

抵抗できないものじゃなかった。
なのに将平くんに好き勝手されてた。
あんな姿を見られてたかもしれないなんて……

怖い。
将平くんも。
将平くんから逃げない僕自身も。

矢野くんにまた、秘密ができてしまった。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...