19 / 205
◯月×日『偶然』★
しおりを挟む
矢野くんの部屋にお泊まりして、休日ということもあってダラダラ過ごした。
お腹が減ったのでお昼ご飯のために矢野くんと二人で外出したときのこと。
「まことくん?」
ランチタイム中のカフェに入って店員さんに通された席に座ると、隣の席から声がかかった。
「ぇ、あ…」
声の主は笹川龍司さん。
お世話になったことがあるお医者さんだ。
できれば矢野くんと一緒の時には会いたくはない人だった。
「偶然だね。元気?あれからどう?」
笹川先生は整った顔で微笑む。
「…あれから?」
笹川先生の問いかけに答えたのは矢野くんだった。
僕の向かいに座っている矢野くんは笹川先生に興味がないのか、メニューに目を通していたのに、今は人が変わったように笹川先生を凝視している。
だけど、矢野くんの問いかけに笹川先生は口を開かなかった。
僕はそれに胸を撫で下ろしたけど、矢野くんは違った。
「あれからってなんだよ。誰だこいつ。おい、ゆず」
見るからに機嫌を損ねた矢野くんの怒りの矛先は僕へと移されたようだった。
「…えっと…」
言えるわけがなかった。
○月×日『言えるわけがない』
一年前のあの日、矢野くんに無理矢理抱かれてボロボロになってた僕は、矢野くんがお風呂に入ってる間に散らばった服を着て逃げ出した。
家に駆け込んで、部屋のベッドで泣きながらうずくまってたけど、体の痛みが酷くて、恐る恐るズボンを脱ぐと、眩暈がした。
太ももを真っ赤な血がはって、ズボンも下着も赤く染まっていた。
酷く割かれた場所の出血が止まっていなくて、手近にあったタオルで抑えて止血したけど、痛みは収まらない。
まだ混乱してる頭でどうしたらいいのか考えるけど、自分じゃ分からなかった。
かと言って誰にも相談できることじゃない。
下半身がこんな状態になってるなんて、誰にも言えないし、言いたくなかった。
こんな状態になっても羞恥心はあった。
親にも言えない。
友達…、矢野くんになんて、もってのほかだ。
いつも矢野くんと一緒にいるから、他に親しい友達もいない。
誰も頼れない。
でもなんとかしなきゃ、ほおって置いていいものかも分からないから、凄く怖かった。
死んでしまうんじゃないかと思うくらいに…。
出血が収まってきたのを確認して、一人でタクシーに乗って病院へ行った。
何科に行っていいのか分からずにオロオロしていると、白衣をきた男の人に話しかけられて、言い淀む僕に、その人はすぐに察してくれて、人払いをした部屋で僕を診察してくれた。
泣きながら診察を受けていて、何も事情は話さなかったのに、その人は全部知ってるみたいに思えた。
ただ優しく治療してくれた。
…その人が、笹川先生。
笹川先生とのことを矢野くんに話せば、あの日僕が一人でのたうちまわってたのが矢野くんに知れてしまう。
お医者さんの世話になってたなんて知られたくなかった。
そんな大袈裟なものかと呆れられたくなかった。
事実、僕にとっては大惨事だったんだけど、なんとなく矢野くんは不快に思う気がした。
矢野くんを不機嫌にさせたくなかった。
面倒なやつだと思われたくなかった。
また、…またあんな風にされたら、壊れてしまう。何もかも。
急に不機嫌になって、乱暴をした矢野くんを今も鮮明に覚えてる。
あんな日は、二度はない。
お腹が減ったのでお昼ご飯のために矢野くんと二人で外出したときのこと。
「まことくん?」
ランチタイム中のカフェに入って店員さんに通された席に座ると、隣の席から声がかかった。
「ぇ、あ…」
声の主は笹川龍司さん。
お世話になったことがあるお医者さんだ。
できれば矢野くんと一緒の時には会いたくはない人だった。
「偶然だね。元気?あれからどう?」
笹川先生は整った顔で微笑む。
「…あれから?」
笹川先生の問いかけに答えたのは矢野くんだった。
僕の向かいに座っている矢野くんは笹川先生に興味がないのか、メニューに目を通していたのに、今は人が変わったように笹川先生を凝視している。
だけど、矢野くんの問いかけに笹川先生は口を開かなかった。
僕はそれに胸を撫で下ろしたけど、矢野くんは違った。
「あれからってなんだよ。誰だこいつ。おい、ゆず」
見るからに機嫌を損ねた矢野くんの怒りの矛先は僕へと移されたようだった。
「…えっと…」
言えるわけがなかった。
○月×日『言えるわけがない』
一年前のあの日、矢野くんに無理矢理抱かれてボロボロになってた僕は、矢野くんがお風呂に入ってる間に散らばった服を着て逃げ出した。
家に駆け込んで、部屋のベッドで泣きながらうずくまってたけど、体の痛みが酷くて、恐る恐るズボンを脱ぐと、眩暈がした。
太ももを真っ赤な血がはって、ズボンも下着も赤く染まっていた。
酷く割かれた場所の出血が止まっていなくて、手近にあったタオルで抑えて止血したけど、痛みは収まらない。
まだ混乱してる頭でどうしたらいいのか考えるけど、自分じゃ分からなかった。
かと言って誰にも相談できることじゃない。
下半身がこんな状態になってるなんて、誰にも言えないし、言いたくなかった。
こんな状態になっても羞恥心はあった。
親にも言えない。
友達…、矢野くんになんて、もってのほかだ。
いつも矢野くんと一緒にいるから、他に親しい友達もいない。
誰も頼れない。
でもなんとかしなきゃ、ほおって置いていいものかも分からないから、凄く怖かった。
死んでしまうんじゃないかと思うくらいに…。
出血が収まってきたのを確認して、一人でタクシーに乗って病院へ行った。
何科に行っていいのか分からずにオロオロしていると、白衣をきた男の人に話しかけられて、言い淀む僕に、その人はすぐに察してくれて、人払いをした部屋で僕を診察してくれた。
泣きながら診察を受けていて、何も事情は話さなかったのに、その人は全部知ってるみたいに思えた。
ただ優しく治療してくれた。
…その人が、笹川先生。
笹川先生とのことを矢野くんに話せば、あの日僕が一人でのたうちまわってたのが矢野くんに知れてしまう。
お医者さんの世話になってたなんて知られたくなかった。
そんな大袈裟なものかと呆れられたくなかった。
事実、僕にとっては大惨事だったんだけど、なんとなく矢野くんは不快に思う気がした。
矢野くんを不機嫌にさせたくなかった。
面倒なやつだと思われたくなかった。
また、…またあんな風にされたら、壊れてしまう。何もかも。
急に不機嫌になって、乱暴をした矢野くんを今も鮮明に覚えてる。
あんな日は、二度はない。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる