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○月×日『ヘアピン②』
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矢野くんが次々とヘアピンを手にしては僕の頭に当てて唸る。
僕に似合うものを探してくれるつもりのようだけど、どうもしっくりくるものがないらしい。
「いつものが見慣れてるからな、なんか違うんだよな…」
「……あの、矢野くん」
「あ?」
僕はいたたまれなくなって矢野くんを見上げる。
「もう出ようよ……場違いだよ……」
大型ショッピングモールの専門店街の一つであるこの場所は、明らかに女性向けといった店だ。
店内にいるスタッフや客も僕達2人を物珍しげにみてくる。
特に矢野くんは目立つので女性客が何度も矢野くんを振り返る。
「気にすんな。」
……気にするよ。
「まこと?」
俯いて矢野くんのされるがままになっていると、聞き覚えのある声に呼ばれて顔を上げる。
「ぁ…つやさん……?」
つい先日まで恋人だった木崎篤也が目の前にいた。
けど、いつもと違う雰囲気に戸惑う。
長かった髪がバッサリと切られていて、パリッとしたスーツを身につけていた。
「ああ、これ?就活だよ」
いつもお洒落ではあったけど、ラフな格好しか見たことがなかったので、スーツ姿はどこか大人な雰囲気と魅力が溢れて見えて見惚れてしまった。
短くなった髪もよく似合っていて、男前が上がった気がした。
「そっちは何?デート?」
「だったらなんすか」
僕が答える前に矢野くんが喧嘩腰で篤也さんを睨みつける。
「余裕無さすぎだろ。やっぱりガキだな」
篤也さんが小馬鹿にしたように笑う。
長身の男前2人が店先に並ぶと、周りの目も一層気になりだす。
矢野くんは僕を篤也さんに近づけたくないのか、僕の肩を抱いてグイグイと自分の方に引き寄せる。
「矢野くん、くるしい……」
小さく主張すると、2人が僕を見下ろす。
「ゆず、別の店いくぞ」
言うが早い、矢野くんは僕の腕をつかむと店を出てしまう。
僕は矢野くんに引きずられながら篤也さんを振り返った。
篤也さんは呆れた顔をしながら、軽く手を振ってくれた。
彼とは別れてから初めて顔をあわせた。
"まこと"と、あの頃と変わらず呼んでくれた。
見て見ぬふりもできるのに、僕を見つけて声をかけてくれた。
髪を切って、新しい生活を送っているようだったけど、元気そうでよかった。
僕も、篤也さんに見えるように、けど矢野くんには見えないよう小さく手を振り返した。
結局矢野くんの納得のいくヘアピンは見つからず、僕の髪の定位置には暫くいつもの赤いヘアピンが収まることになりそうだ。
僕に似合うものを探してくれるつもりのようだけど、どうもしっくりくるものがないらしい。
「いつものが見慣れてるからな、なんか違うんだよな…」
「……あの、矢野くん」
「あ?」
僕はいたたまれなくなって矢野くんを見上げる。
「もう出ようよ……場違いだよ……」
大型ショッピングモールの専門店街の一つであるこの場所は、明らかに女性向けといった店だ。
店内にいるスタッフや客も僕達2人を物珍しげにみてくる。
特に矢野くんは目立つので女性客が何度も矢野くんを振り返る。
「気にすんな。」
……気にするよ。
「まこと?」
俯いて矢野くんのされるがままになっていると、聞き覚えのある声に呼ばれて顔を上げる。
「ぁ…つやさん……?」
つい先日まで恋人だった木崎篤也が目の前にいた。
けど、いつもと違う雰囲気に戸惑う。
長かった髪がバッサリと切られていて、パリッとしたスーツを身につけていた。
「ああ、これ?就活だよ」
いつもお洒落ではあったけど、ラフな格好しか見たことがなかったので、スーツ姿はどこか大人な雰囲気と魅力が溢れて見えて見惚れてしまった。
短くなった髪もよく似合っていて、男前が上がった気がした。
「そっちは何?デート?」
「だったらなんすか」
僕が答える前に矢野くんが喧嘩腰で篤也さんを睨みつける。
「余裕無さすぎだろ。やっぱりガキだな」
篤也さんが小馬鹿にしたように笑う。
長身の男前2人が店先に並ぶと、周りの目も一層気になりだす。
矢野くんは僕を篤也さんに近づけたくないのか、僕の肩を抱いてグイグイと自分の方に引き寄せる。
「矢野くん、くるしい……」
小さく主張すると、2人が僕を見下ろす。
「ゆず、別の店いくぞ」
言うが早い、矢野くんは僕の腕をつかむと店を出てしまう。
僕は矢野くんに引きずられながら篤也さんを振り返った。
篤也さんは呆れた顔をしながら、軽く手を振ってくれた。
彼とは別れてから初めて顔をあわせた。
"まこと"と、あの頃と変わらず呼んでくれた。
見て見ぬふりもできるのに、僕を見つけて声をかけてくれた。
髪を切って、新しい生活を送っているようだったけど、元気そうでよかった。
僕も、篤也さんに見えるように、けど矢野くんには見えないよう小さく手を振り返した。
結局矢野くんの納得のいくヘアピンは見つからず、僕の髪の定位置には暫くいつもの赤いヘアピンが収まることになりそうだ。
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