171 / 205
○月×日『将来』
しおりを挟む「あ、昂平、塩とって」
「ん。」
「なぁ、どう?味付けこんなもん?」
「ん?んー、うん、美味い」
今、矢野家で矢野兄弟が仲良くキッチンに立っている。
僕はそれを不思議な気持ちで見ていた。
将平くんが日本に帰ってきて、矢野くんは本当は嬉しいんじゃないかなと思う。
小さい頃の記憶だけど、矢野くんは僕か将平くんにベッタリだった。
10コも年が離れてるから、幼かった僕らからしたら、将平くんは大人で、ほんとにかっこよかったんだ。
外見が整ってるだけじゃない、頭もいいし、話していて楽しい。
矢野くんにとって自慢のお兄さんだったに違いない。
ただ急に外国に行ってしまって、成長して思春期を迎えて、今になって顔を合わせても矢野くんの性格だ、素直に将平くんに甘えたりなんてできないだろう。
なのに将平くんが帰ってきて早々僕と矢野くんの関係がバレたり、僕が将平くんにキスされたりなんかしたから、余計に気まづくなってしまったんだろう。
今こうして2人が兄弟ぽくしてるのが微笑ましい。
僕は一人っ子だから、羨ましくもある。
「なぁ、兄貴、しばらく日本にいるって言ったよな?」
「言ったけど?」
「それって具体的にいつまで?」
「なんだ、兄ちゃんがまたいなくなるのが寂しいのか?」
将平くんが食器棚からお皿を出しながらいたずらっぽい笑みを見せる。
それに矢野くんがむっとしながら、でもちょっと照れたようにそっぽを向く。
「んなわけねぇだろ。部屋にゆず連れ込めねぇから、さっさと出てかねぇかなと思って!」
「ざんねーん。3ヶ月は日本にいますよー」
将平くんは矢野くんをからかうように舌を出して見せると、矢野くんが盛り付けた料理を机に運んだ。
「まことも俺がいた方がいいよなー?昂平にヤり殺されちゃうよな」
「え、……ぁはは、」
ほんとにそうなりそうで、笑って誤魔化すしかない。
高校生が頻繁にラブホテルなんて行ける訳もなく、僕も矢野くんも家族と住んでるし、どちらかの家族の留守を狙ってイチャつくことはできるけど、ゆっくりまったりしてる時間はない。
何度か家族が家にいる状態でこっそりシた事はあるけど、落ち着かないし、集中できない。
……大きな音も声も出せないし。
将平くんが帰ってくる前まではほとんど矢野くんの家で睦みあってた。
矢野くんのご両親は多忙だから、夜までまったりできていた。
けど、将平くんが帰国してからは激減……というより、最近は全く矢野くんの部屋は使っていないかもしれない。
だって矢野くんと将平くんは部屋が隣同士だから。
将平くんはまだ休暇中らしく、大抵家にいる。
そんな中いたせるわけもなく、矢野くんは学校で盛ることが増えた…………というわけだ。
「人をヤってばっかみたいに言うなよ」
矢野くんが食卓につくと、3人で手を合わせていただきますをした。
今日はと言うと、休日だったので矢野くんと外で買い物をした。
朝から将平くんもでかけているということで、買い物帰りにそのまま矢野家にお邪魔して、矢野くんのお部屋になだれ込んでキスして服脱いでー……というとこで、将平くんの「ただいまー」という声が玄関から聞こえて矢野くんは僕の上で脱力してた。
服を着てリビングに入ると将平くんが夕食の支度をしていたので手伝おうとしたら矢野くんに止められて、僕に代わって矢野くんが将平くんと夕食を一緒に作ることになった。
矢野くんはまだ僕が将平くんの隣に立つのも嫌みたいだ。
「ん、おいしい」
矢野兄弟2人でつくった夕食はお世辞抜きでおいしかった。
矢野くんは料理ができないから、たぶん将平くんがほとんどつくったんだろうけど、キッチンで並ぶ2人は本当に微笑ましかったから、それも加算された美味しさだ。
「つか、兄貴てなんの仕事してんの」
食事をしながら、矢野くんが素朴な疑問を将平くんにぶつける。
そういえば、僕も聞いたことない。
「Interprète」
「はい?」
将平の呪文に矢野くんが顔を歪める。
「通訳だよ。」
「通訳!へー!」
初めて聞いたけど、なんだかしっくりくる気がする。
「通訳て儲かるの?」
「金の話かよ」
まだ出る矢野くんの素朴な疑問に、将平くんが困ったように笑う。
「そうだな。この仕事しかしたことないから比べられないけど、会社に務めてた頃よりは稼いでるかな。今はフリーだから、そこそこね」
「フリー?」
「そう。詳しくは話せないけど、外国の有名な社長さんが日本に来ていてね、その人と一緒に日本に来たんだ。彼は今水入らずでバカンス中だから、それが済んだらお仕事。だからそれまで俺もゆっくりできるってわけ」
「なるほどなー。」
「昂平さ、母さんや父さんから何も聞いてないわけ?」
将平くんが苦笑いする。
確かに……
自分のお兄さんがなんの仕事してるか知らないなんて…
「んー。家族揃った時とかにさ、たまーに思い出して、兄貴今何してんの?とか何回か聞いたけど、ガキの頃からずっと"お兄ちゃんは忙しいの"って返事しか返ってこないから、なんか忙しい仕事なんだなーくらいにしか思ってなかったわ」
この親にしてこの子ありと言った感じか。
矢野くんのご両親はすごく自由な人だ。
2人とも仕事が大好き……というより、自分の興味あることへの没頭に凄く熱心だ。
子育てより仕事て感じ。
愛情が無いわけじゃない、ただ、甘やかしていない。
僕の家みたいにぬくぬくした感じはない。
けど親子仲は悪くない。
親も子も自由にしてる分ストレスがないんだろう。
「俺が好きなことやってるから、それでいいのかもな」
将平くんが食後の珈琲を啜りながら微笑む。
「昂平は?将来のこと考えてるのか?」
「げ。」
「げ、て。さては何も考えてないな?」
多分その通りだ。
僕らは受験生、もう進路希望だって出してる。
「お前ほんと見掛け倒しだからなぁ」
将平くんは矢野くんのことよくわかってる。
何年も離れててもやっぱりお兄さんだ。
「見掛け倒し……失礼だな」
「見掛け倒しだろ?Are you going to school? Are you in employment?」
「あ?……は?またフランス語か?」
「馬鹿、今のはどう聞いたって英語だろ。進学か就職かって聞いたんだよ。」
……さすがに僕でも英語だってわかったよ。
矢野くんは見た目は日本人には見えないけど、日本語しか話せない。
将平くんみたいに外国に興味もないから英語の授業すら真面目に受けていない。
「簡単な質問だろ?」
確かに、2択は聞こえは簡単かもしれない。
けど、こればっかりは難しいよ。
「お前バイトもした事ないだろ?就職できるのか?とりあえず大学てのも悪くないけど、大学も色々あるんだぞ?」
将平くんが学校の先生みたいなことを言ってくる。
正直、矢野くんは耳にタコだろう。
学校で先生に同じことを言われているだろうし。
いくら両親が自由にさせてるからって、卒業後何するかすら決まってないのはまずい気がする。
「まことは進学なんだろ?」
「うん」
「同じとこ行きたいとか思わないのか?」
将平くんが、僕も1度矢野くんに聞いてみたかったことを聞く。
特にどこも希望してないなら、このまま一緒に大学までいくのはどうだろう……と、僕も考えてた。
「昂平の学力じゃ無理か」
矢野くんの答えが出る前に将平くんがため息混じりに首を振る。
「人を馬鹿みたいに言うなよっ」
馬鹿にされてムキになった矢野くんが身を乗り出す。
けど将平くんは相手にもしてない。
「そうやってムキになることが肯定してる証拠だろ?お前まことにレベル下げろとか言うなよ?一緒のとこ行きたいなら根性見せろよ」
将平くんは何もかもお見通しって感じで、矢野くんを見る。
矢野くんは痛いところをつかれたようで、何も言えなくなってしまって、乗り出していた体を引っ込めた。
「昂平はやれば出来るのに面倒でやらないタイプだろ。時間はないけど、協力してやるから、頑張れよ」
将平くんの言葉に、矢野くんが顔を上げる。
「今までまともに兄ちゃんしてやれなかったからな。期間限定になるけど、2人まとめて面倒見てやるよ」
そう言って、将平くんは綺麗に微笑んだ。
「だからヤり部屋のことばっか考えてないで勉強しろ」
「ヴ……」
矢野くんが机の上に突っ伏して脱力する。
ほんと、将平くんの言っていることはご最もだ。
今は愛だの恋だのより、そっちなんだよね……
本当は僕も、悩んでばっかじゃいられない。
言えないうちに、兄弟仲が良くなってきてしまったから、更に打ち明けにくくなってしまった。
この問題も、早く解かなきゃ行けないのに。
5
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる