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○月×日『誘導』
しおりを挟む将平くんの部屋で勉強を始めて1時間。
僕は御手洗に立った。
一息ついてからトイレの個室から出ると、部屋の前に将平くんが立っているのに気づいた。
「将平くん……?」
「まこと、」
将平くんは僕を待っていたみたいで、僕に気づくと人差し指を唇の前に当てた。
「?」
将平くんに誘導されて、通路の隅っこに移動する。
たぶん部屋の中にいる矢野くんに聞かれたくない会話なのだろう。
「まこと、あの事、まだ言う気あるか?」
「ぇ、」
あの事、とは……僕と将平くんが矢野くんに当て付けるために寝てたことだ。
「…………、」
「やっぱり、迷ってるんだよな?」
「……迷ってるていうか、言うタイミングが…」
言い訳だ。
言うタイミングはあった。
矢野くんと2人きりになる機会は沢山あったんだ。
「言いたくないなら、言わなくていいよ。……というより、言わないで欲しいかな」
「え?」
将平くんから思ってもない台詞が出て、驚いた。
前に1度将平くんから催促された事があるから、またそんな話をされるかと思っていた。
「こんな風に言うと軽蔑されるかもしれないけど、俺……今、昂平のことが可愛いんだよね」
「ぇ、」
「だから、昂平を傷つけて、嫌われたりするのは嫌だなって。ずっと離れてたから、お互い兄弟らしいこと何もできてなくて、たまに連絡とってた父や母から聞いた話だけで昂平のことを決めつけてたし、帰国してまことの話を聞いて怒りも湧いた。けど、それだけで昂平の気持ちを無視して行動したことに後悔してる」
「…………」
僕としては、もうやり返したいとかはどうでもいいから、言ってしまいたかった。
雰囲気が良くなってきたからこそ言ってしまいたかった。
今の矢野くんなら許してくれると思ってるわけじゃない。
けど、この罪悪感を抱えたまま今の矢野くんとは付き合っていけない。
進路の話が出て尚更焦りが出てきてる。
今の矢野くんに、今の僕は見合わない。
前は別れることになってもいいと思ってたけど、今は違う。
矢野くんに僕の辛さを分かって欲しい気持ちは今でもある。
だから、全部話して、謝って、謝って……
できるなら馬鹿な自分を許して欲しかった。
許し合いたい。
だから……
将平くんにそんな事を言われてしまうと、言えない…
「ごめん、まこと」
「……、ううん…」
僕が首を振ると、将平くんは静かに部屋の中に戻っていった。
将平くんはもう矢野くんには打ち明けない方向で気持ちが固まっているようで、僕の意見は求めなかった。
将平くんは僕のことをよく分かってる。
その上でそういう話し方をしてきたんだろう。
いつもの将平くんなら自分の意見を言った後「まことはどうしたい?」て、聞いてくれる。
聞かなかったのがその証拠だ。
僕がまだ迷ってることを分かってて、何も言えなくなるのもわかってた。
だから何も言わせないように話の起動を操った。
実際、僕は何も言えてない。
頭の中の整理がつかなくて、言葉が出てこない。
何が正しいのかわからなくなってる。
「……、」
そのまま僕は、矢野くんに呼ばれるまで通路で立ちつくしてた。
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