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○月×日『香り』
しおりを挟む目が覚めると、部屋は真っ暗だった。
いつの間にか寝てしまったんだろう。
事が終わった所までは記憶があるから、久々に体力消耗して疲れたのかもしれない。
首の下にある感触に視線を向けると、それは矢野くんの腕だった。
矢野くんは僕に腕枕する体勢で、小さな寝息をたてて、綺麗な顔して眠ってる。
矢野くんは僕が眠ってる間にシャワーを浴びたのか、抱き合う前と同じ石鹸のいい香りがしたし、服を着てる。
僕も着た覚えのないTシャツを身に纏ってる。
矢野くんが清潔にしてくれた後、さすがに素っ裸はまずいと思い着せてくれたのかも……。
Tシャツなのに7分丈みたいになってるってことは、これは矢野くんのものだってことだ。
改めて体格差を実感させられる。
でも、嫌じゃない……。
綺麗にしてくれているけど、やっぱり早めにシャワーを浴びておきたいと思い、ベッドを降りた。
今日はずっとコンドーム無しだったから、肌のベタつきどうこうより、お腹の中の方が心配だ。
たぶん中も、矢野くんが処理してくれてるみたいだけど、……念には念を…。
シャワーを浴びて、スッキリした体にまた矢野くんの大きなTシャツを纏った。
タオルで髪を拭きながら、矢野くんの部屋へ戻ろうとして、リビングに明かりがついてるのが目に入った。
…………家には誰もいないはずなのに……?
僕の家に矢野くんが迎えに来て、矢野くんの家に上がって直ぐに矢野くんの部屋に直行したから、リビングは使ってない。
僕と矢野くんが寝てる間に矢野家の誰かが帰ってきたんだろうか。
気になってドアへ近づいて、すりガラス越しに中の様子を伺ってみた。
けどすりガラス越しに分かる訳もなく、ドアノブに手をかけた瞬間、中から声がした。
「昂平?」
将平くんの声だ。
何故だか安心して、僕はドアをゆっくり開けた。
「……お邪魔してます」
顔をのぞかせた僕に、将平くんは驚いた顔をする。
「まことか。来てたんだ」
「うん……」
「俺が出掛けるからチャンスだって、昂平に誘われた?」
将平くんはお見通しって顔で、少しだけ意地悪そうに微笑む。
「……うん、」
「別に怒ってないよ。最近勉強頑張ってたもんな。俺が実家にいるから息抜きもなかなかできないだろうし」
「そんなことない。勉強教えて貰えて、すごく助かってるよ?」
「そっか、ならよかった。」
将平くんは手にしていたグラスを流しへ持っていくと、水で軽くゆすいでからそれを置いた。
「早く髪乾かさないと風邪ひくよ?」
「うん…」
「おやすみ」
そう言いながら、僕の横を通って、自室へと入っていった。
「……、おやすみなさい……」
なんだろう。
違和感を感じた。
あと、どこか将平くんの様子がおかしい気がした。
……気のせいならいいけど……
けど、通り過ぎざまに感じた違和感はすぐに分かった。
香りだ。
将平くんはグラスでお酒を飲んでいたようだけど、お酒の匂いじゃない。
いつもの将平くんの香りとも違う。
でも、この香り、どこかで…………どこだろう……何の香りだろう……?
それが思い出せない。
立ち止まっていても思い出せそうにないし、髪を乾かして、矢野くんの部屋へ戻る。
矢野くんの隣に寝転ぶと、矢野くんが少しだけ目を開けて、僕を見た。
起こしてしまったかな?と思ったけど、矢野くんは僕を抱き寄せると寝息を立て始めたから、寝ぼけただけのようだ。
将平くんのことが気になったけど、矢野くんの腕の中の温かさもあって、だんだんと瞼が落ちてきて、あっという間に眠ってしまった。
明日……
明日……聞いてみたらいいよね……
でももう、とっくに手遅れになってるなんて気づきもせずに、僕と矢野くんは呑気にスヤスヤと眠ってしまっていたんだ。
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