ヤノユズ

Ash.

文字の大きさ
99 / 205

〇月×日『綺麗な笑』

しおりを挟む
「こんにちは」

放課後、図書室で読書をしていると声をかけられた。
顔を上げると、先日会った1年生の土岐歩くんだった。

「ぁ…………こんにちは」

近くで見ると、矢野くんに負けず劣らずの美少年だ。
透き通ったグリーンの瞳に思わず見とれてしまう。

「1人ですか?矢野先輩と一緒じゃないんですか?」

土岐くんは辺りを見回す。
図書室には僕と土岐くん以外に人はいなくて、静まり返ってる。

「矢野くんは、恋人と帰ったから…」

「恋人……そういえばクラスの子が騒いでいたかも」

「……あの……、昨日は大丈夫だった?」

「……、いいえ」

土岐くんは僕の隣に腰掛けると、視線を落としながら口を開く。

「…授業サボっちゃいました」

「……えっと、それって…花村さんと……?」

苦笑いで返される。
きっと彼の意思は尊重されなかったんだろう。
花村さんは思うがままに行動する人だ。
嫌だと言っても聞いてもらえない。
というより、聞いていない。

「……俺の何が気に入ったんですかね」

土岐くんは全く検討もついていないようだ。

「花村さんに、何か言われたりしてないの?」

「……んー、登校初日に、校舎の中で迷ってたら声かけてくれて、教室まで案内してくれるって言ってくれたのが茜さんでした。案内してくれる間簡単に自己紹介して……、けど、案内してくれた先は1年生の教室じゃなくて、使われてない教室で…」

そこで土岐くんは口篭る。
つまりそこで花村さんに襲われた、ということだろう。

「…俺、すごく驚いて……」

「……そうだよね。花村さん一見無害そうだから、僕も初めて会った時驚いた」

「そうなんですよ、凄く綺麗で、可愛い感じだから……ただ驚いて、…………でも、あとから聞いた話だと、有名みたいですね、素行が悪いって」

「うん…」

転校早々災難だと思う。
いくら見た目が綺麗で可愛くても花村さんは男性だし、同性にレイプされるショックは、僕も痛いほど気持ちがわかる。

「……俺、男性相手は流石に経験なくて、茜さんにされるがままで。……普通は、嫌なら反応しないものなんですかね、俺は全然…反応しないどころか……ぁ、すみません」

内容が生々しくなってきたところで、土岐くんは口を閉じた。
僕も聞いているには少し照れくさくなってきて、顔が熱くなってきたので俯いて誤魔化す。
それから少し考えて、意を決して口を開く。

「……僕もね、似たような経験したよ。けどね、嫌いにはなれなかったし、むしろ、自分が特別なんじゃないかって思っちゃって、好きになっちゃった…」

土岐くんの瞳を真っ直ぐに見つめた。
土岐くんが驚いたように僕を見つめ返す。

「……俺、本当は矢野先輩と話がしたかったんです。俺と同じ気がしたから……。だから柚野先輩といたら会えるかと思って。けど、あなたと話せてよかった。不安だったのが、少し楽になりました。ありがとうございます」

土岐くんが小さく微笑んだ。
それが凄く綺麗な笑で、思わず見とれてしまった。

土岐歩。
一つ年下の後輩。
彼にはなにか惹き付けるものがある。

彼の綺麗な笑から目が離せなくなっていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...