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〇月×日『鉢合わせで』
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「「あ」」
移動教室、隣には矢野くん。
そんな状況で目の前に現れたのは歩くんだった。
どうやら彼も移動教室のようだ。
二人揃えて間抜けな声を上げ立ち止まった僕らを、矢野くんが不審気に見てくる。
「……お久しぶりです、まこと先輩」
歩くんが気まずそうに笑う。
「…………うん」
僕も気まずい。
歩くんとはあの図書館で別れたのが最後だ。
それ以降は避けていた。
とは言っても、学年が違うから図書室通いを止めたら全く顔を合わせることは無かった。
なのに、こんなタイミングで会ってしまうとは…。
矢野くんがいる、こんなタイミングで。
「えっと、元気でした……?」
「うん、」
「……」
会話が続かない。
「お前、花の玩具だよな」
沈黙を破ったのは矢野くんだった。
けどなんて棘のある言い方をするんだろう。
「まこと先輩て、馴れ馴れしいな………いつの間に仲良くなったんだ?」
矢野くんの視線が、歩くんから僕に流れ移る。
僕は反射的に目をそらしてしまう。
いつの間に、と聞かれても答えられない。
矢野くんが山梨先輩と付き合ってる間に、歩くんを好きになって、図書室で触れ合う関係になってたなんて言えない。
一線を越えてはないけど、矢野くんには口が裂けても言えない。
言いたくない。
「えっと……少し前に図書室で……」
「図書室?」
歩くんが図書室のことを話し出して、僕は飛び上がりそうになった。
どこまで話すつもりだろう。
なんにせよ、冗談じゃない。
必死に歩くんにアイコンタクトを送る。
余計なことは言わないで!
矢野くんには言わないで!
祈るように歩くんを見つめた。
「えぇ……と、その……」
僕の熱視線に歩くんが困惑してるのがわかる。
「図書室て、そういや前に図書室通いしてたよな、ゆず」
「……ぅ、うん、」
「なるほど、図書室通いはこいつが関係してたのか」
矢野くんが妙に鋭い。
特に僕に関しては見てたんじゃないかってくらい……。
「こいつと寝たのかよ」
「しっ、してないっ、そんなこと」
「じゃあ何してた」
また沈黙が広がる。
沈黙の中、始業のチャイムがなる。
だけど僕達の足は動かなかった。
「あのな、怖いのは俺じゃないぞ。分かってるのか、お前ら」
そう言われて、僕らは改めて気付かされた。
……花村さんの存在を。
「おいお前。まだ花と寝てんのかよ」
「え」
歩くんが狼狽える。
即答できないのは、きっと僕がいるからだ。
きっと、歩くんは花村さんと関係を続けてる。
でも僕が歩くんを好きだから、僕の前で言葉にできないだけだ。
歩くんの動揺からそれが伝わってくる。
正直、……傷つく。
花村さんと歩くんじゃ体格差があるし、無理矢理迫られたって拒むことは出来るはずなのに。
「アイツの玩具やってるうちはゆずに近寄るな」
「え?」
今度は僕が狼狽えた。
いや、最近距離をとっていたのは僕だ。
けど、矢野くんがこんなこと言い出すなんて……。
「こいつは、俺のせいで花に目つけられてるんだよ。運悪く同じクラスになっちまったし、花の機嫌損ねたら最悪だ。……わかるだろ?」
矢野くんが歩くんから僕に視線を移す。
……わかる、わかるよ。
花村さんによくわからない部屋に連れ込まれたことがある。
後から矢野くんに聞いた話では、中では薬に乱交なんてことが行われてるらしい。
あの時は、過呼吸にはなったけど無傷で帰れた。
けど、またあんな状況に連れ込まれたりしたら……考えただけでもゾッとする。
「……関係を終わらせたら、まこと先輩に近寄ってもいいってことですか?」
「あ?」
ずっと黙ってた歩くんが口を開いて、矢野くんが顔を歪める。
「まこと先輩に何かあったら困りますから、矢野先輩の言う通りにします。……僕、まこと先輩に応えたいんで」
そう言い切ると、歩くんは授業があるのでと言って去っていった。
……僕に、応えたい?
歩くんは確かにそう言った。
顔がすごく熱い。
さっきまで血の気が引いていたとは思えないくらいに。
隣にいる矢野くんが、僕をどんな目で見下ろしてたかなんて、この時の僕は知る由もない。
移動教室、隣には矢野くん。
そんな状況で目の前に現れたのは歩くんだった。
どうやら彼も移動教室のようだ。
二人揃えて間抜けな声を上げ立ち止まった僕らを、矢野くんが不審気に見てくる。
「……お久しぶりです、まこと先輩」
歩くんが気まずそうに笑う。
「…………うん」
僕も気まずい。
歩くんとはあの図書館で別れたのが最後だ。
それ以降は避けていた。
とは言っても、学年が違うから図書室通いを止めたら全く顔を合わせることは無かった。
なのに、こんなタイミングで会ってしまうとは…。
矢野くんがいる、こんなタイミングで。
「えっと、元気でした……?」
「うん、」
「……」
会話が続かない。
「お前、花の玩具だよな」
沈黙を破ったのは矢野くんだった。
けどなんて棘のある言い方をするんだろう。
「まこと先輩て、馴れ馴れしいな………いつの間に仲良くなったんだ?」
矢野くんの視線が、歩くんから僕に流れ移る。
僕は反射的に目をそらしてしまう。
いつの間に、と聞かれても答えられない。
矢野くんが山梨先輩と付き合ってる間に、歩くんを好きになって、図書室で触れ合う関係になってたなんて言えない。
一線を越えてはないけど、矢野くんには口が裂けても言えない。
言いたくない。
「えっと……少し前に図書室で……」
「図書室?」
歩くんが図書室のことを話し出して、僕は飛び上がりそうになった。
どこまで話すつもりだろう。
なんにせよ、冗談じゃない。
必死に歩くんにアイコンタクトを送る。
余計なことは言わないで!
矢野くんには言わないで!
祈るように歩くんを見つめた。
「えぇ……と、その……」
僕の熱視線に歩くんが困惑してるのがわかる。
「図書室て、そういや前に図書室通いしてたよな、ゆず」
「……ぅ、うん、」
「なるほど、図書室通いはこいつが関係してたのか」
矢野くんが妙に鋭い。
特に僕に関しては見てたんじゃないかってくらい……。
「こいつと寝たのかよ」
「しっ、してないっ、そんなこと」
「じゃあ何してた」
また沈黙が広がる。
沈黙の中、始業のチャイムがなる。
だけど僕達の足は動かなかった。
「あのな、怖いのは俺じゃないぞ。分かってるのか、お前ら」
そう言われて、僕らは改めて気付かされた。
……花村さんの存在を。
「おいお前。まだ花と寝てんのかよ」
「え」
歩くんが狼狽える。
即答できないのは、きっと僕がいるからだ。
きっと、歩くんは花村さんと関係を続けてる。
でも僕が歩くんを好きだから、僕の前で言葉にできないだけだ。
歩くんの動揺からそれが伝わってくる。
正直、……傷つく。
花村さんと歩くんじゃ体格差があるし、無理矢理迫られたって拒むことは出来るはずなのに。
「アイツの玩具やってるうちはゆずに近寄るな」
「え?」
今度は僕が狼狽えた。
いや、最近距離をとっていたのは僕だ。
けど、矢野くんがこんなこと言い出すなんて……。
「こいつは、俺のせいで花に目つけられてるんだよ。運悪く同じクラスになっちまったし、花の機嫌損ねたら最悪だ。……わかるだろ?」
矢野くんが歩くんから僕に視線を移す。
……わかる、わかるよ。
花村さんによくわからない部屋に連れ込まれたことがある。
後から矢野くんに聞いた話では、中では薬に乱交なんてことが行われてるらしい。
あの時は、過呼吸にはなったけど無傷で帰れた。
けど、またあんな状況に連れ込まれたりしたら……考えただけでもゾッとする。
「……関係を終わらせたら、まこと先輩に近寄ってもいいってことですか?」
「あ?」
ずっと黙ってた歩くんが口を開いて、矢野くんが顔を歪める。
「まこと先輩に何かあったら困りますから、矢野先輩の言う通りにします。……僕、まこと先輩に応えたいんで」
そう言い切ると、歩くんは授業があるのでと言って去っていった。
……僕に、応えたい?
歩くんは確かにそう言った。
顔がすごく熱い。
さっきまで血の気が引いていたとは思えないくらいに。
隣にいる矢野くんが、僕をどんな目で見下ろしてたかなんて、この時の僕は知る由もない。
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