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本編
❖冬女島と夢人
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その昔、我が国には今はもう存在しないある島があった。その名を「冬女島」という。
冬女島は冬になると濡れ羽色の長い黒髪と良質な深紅の振り袖姿の特徴的な美しい女性、八色未神が現れる。
八色「御神」ではなく「未神」なのである。彼女はその字の如く神に近く、神ではない。人とはかけ離れているため、人でもない。神となれなかった哀れな幻想のような彼女に多くの若者が心奪われた。
彼女は優しい心を持って人と接し、温かい笑顔で人を迎え、受け入れ、送り出す。だからいつでも島は優しさと笑顔に溢れていた。
そう、冬女島は別名「旅人の島」。旅人の始発点であり、中継点であり、そして終着点であった。だがそれも、その出来事によって完全に失われてしまった。
❖
現代よりはましだが蒸し暑いある夏の日の朝。それは突然に変異した。彼は誰時や誰そ彼時にしか存在しなかったはずの闇色の禍々しい人型である黒節が現れた。浄化符は勿論、浄化の力を持ち、戦闘が可能な浄化師たちでさえ太刀打ちできなかった。それは当然のこと、明るい世界でも耐えられるほどの闇を持つならば明るい時間のため力の弱い浄化師にだって打ち勝てるだけの力があるからだ。
その戦闘の結果は惨敗。戦闘に参加した浄化師は体中に闇色の亀裂を生じて斃れた。これが黒節発現から三時間後のことだ。そして、一般の島民はその後頻繁に発生した黒節の運ぶ疫病や地震、津波をはじめとする災厄に襲われた。逃げられるような術もなく、島民どころかその地の生命は何一つとして生き残らなかった。ただ一人残された八色未神は冬になって荒廃した島を見て嘆き悲しみ、神の力を借りてその手で彼女もろとも島を消し去ったという。
❖
——という伝説がある。しかしこの話の結末も今は昔、今では「八色未神は現場に居て、浄化師は八色未神によって島外へ脱出した」「島民は夢人となった」という学説が発表されたり、「八色未神は生きている」「八色未神は紫の蝶となり、夢人を集めて黒節に対抗している」という話があったり、「そもそもこの伝説は事実かどうか怪しくて、伝説自体が架空のものなのではないか」という噂があったりする。しかしそういった噂などは大した根拠もないのですぐに泡のように消える。
確かに現代人の私にとっては冬にしか現れないだの神だの浄化師だのと言われてもピンと来ないし、実在するかは疑問ではあるが、だからといって全てが架空だとも思えない。何故なら夢人は実在して、しかも憧れの対象として存在しているからだ。この現代まで世間に話題を与え続けるこの話を特別凄いと思う。
夢人は言ってしまえばなんてことはない夢の役者だが、その力は絶大だ。何せ「命は大切にしましょう」というこの世の中において唯一、命を投げ出しても慶ばれるのだから。
紫の蝶は善を重ねた人を選び、現実世界での命を代償に人を夢人として魂だけ夢人の都へ送る。選ばれた人には植物の名が与えられ、眠るように世を去った後に肉体の胸の上にその夢人の名の花が添えられる。
そして新たな夢人はその花が枯れるまで(といっても数十年は枯れないのだが)夢人の都で生き続ける。
ここまでが私の知っている冬女島と夢人についてだ。これ以上のことは相賀くんに聞いてほしい。
冬女島は冬になると濡れ羽色の長い黒髪と良質な深紅の振り袖姿の特徴的な美しい女性、八色未神が現れる。
八色「御神」ではなく「未神」なのである。彼女はその字の如く神に近く、神ではない。人とはかけ離れているため、人でもない。神となれなかった哀れな幻想のような彼女に多くの若者が心奪われた。
彼女は優しい心を持って人と接し、温かい笑顔で人を迎え、受け入れ、送り出す。だからいつでも島は優しさと笑顔に溢れていた。
そう、冬女島は別名「旅人の島」。旅人の始発点であり、中継点であり、そして終着点であった。だがそれも、その出来事によって完全に失われてしまった。
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現代よりはましだが蒸し暑いある夏の日の朝。それは突然に変異した。彼は誰時や誰そ彼時にしか存在しなかったはずの闇色の禍々しい人型である黒節が現れた。浄化符は勿論、浄化の力を持ち、戦闘が可能な浄化師たちでさえ太刀打ちできなかった。それは当然のこと、明るい世界でも耐えられるほどの闇を持つならば明るい時間のため力の弱い浄化師にだって打ち勝てるだけの力があるからだ。
その戦闘の結果は惨敗。戦闘に参加した浄化師は体中に闇色の亀裂を生じて斃れた。これが黒節発現から三時間後のことだ。そして、一般の島民はその後頻繁に発生した黒節の運ぶ疫病や地震、津波をはじめとする災厄に襲われた。逃げられるような術もなく、島民どころかその地の生命は何一つとして生き残らなかった。ただ一人残された八色未神は冬になって荒廃した島を見て嘆き悲しみ、神の力を借りてその手で彼女もろとも島を消し去ったという。
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——という伝説がある。しかしこの話の結末も今は昔、今では「八色未神は現場に居て、浄化師は八色未神によって島外へ脱出した」「島民は夢人となった」という学説が発表されたり、「八色未神は生きている」「八色未神は紫の蝶となり、夢人を集めて黒節に対抗している」という話があったり、「そもそもこの伝説は事実かどうか怪しくて、伝説自体が架空のものなのではないか」という噂があったりする。しかしそういった噂などは大した根拠もないのですぐに泡のように消える。
確かに現代人の私にとっては冬にしか現れないだの神だの浄化師だのと言われてもピンと来ないし、実在するかは疑問ではあるが、だからといって全てが架空だとも思えない。何故なら夢人は実在して、しかも憧れの対象として存在しているからだ。この現代まで世間に話題を与え続けるこの話を特別凄いと思う。
夢人は言ってしまえばなんてことはない夢の役者だが、その力は絶大だ。何せ「命は大切にしましょう」というこの世の中において唯一、命を投げ出しても慶ばれるのだから。
紫の蝶は善を重ねた人を選び、現実世界での命を代償に人を夢人として魂だけ夢人の都へ送る。選ばれた人には植物の名が与えられ、眠るように世を去った後に肉体の胸の上にその夢人の名の花が添えられる。
そして新たな夢人はその花が枯れるまで(といっても数十年は枯れないのだが)夢人の都で生き続ける。
ここまでが私の知っている冬女島と夢人についてだ。これ以上のことは相賀くんに聞いてほしい。
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