2 / 17
本編
❖いち
しおりを挟む
私は相賀晃という人物をよく目で追っている。決して相賀くんを好きなわけではない。むしろ苦手だ。
では何故そんなことをしているのかと言えば、彼の容貌が夢のように素晴らしいからだ。
地毛のさらさら茶髪に甘いマスク、高身長で意外と体格がいい。正に少女漫画の王子様だ。
だが。彼には圧倒的に足りないものがある。彼には足りないのだ、王子力が!
これは由々しき問題だ。優しいが彼は注目されるのが苦手で、いつも他人の後ろにいて、そのくせに良い所はばっちり奪っていき、普段は小動物。ある意味女子力男子ともいうべきか。ピンクのリボンでも頭に乗せてやろうか。嫌だ。かっこいい見た目でこんななよっとしたもやしのような性格の王子がいてたまるもんですか。
私は早々に見切りをつけ(酷い言い様であることも勿論理解している)、彼の容姿に似合う彼とは異なる人格を生み出し、妄想した。それが相賀愛都という「’」の存在だ。勿論、現実の人物を架空の人物に重ねて見るだなんて最低だという自覚はある。ましてやその人物は創作物にさえ存在しないのだ。だが、現実を前に理想は崩されて結局、そんな思考や妄想は一か月やそこらで棄てた。
そして今、この朝読書の時間も彼を眺めている。教室の窓側一番後ろという特等席から。今、彼は読書の最中だ。彼が読んでいるのは「夢想学」という本だ。編者は世古新。「夢想」シリーズで最も難しいとされる本だ。確か冬女島伝説から見た夢人についての本だったはずだ。
冬女島伝説の調査と同時に、沢山の謎が浮上した。八色は何者か、夢人の元になったという冬女島の人々と八色未神の関係、何故夢人の統率者の元であるはずの八色未神が存在した証拠がないのか。それ以外にも様々だ。
けれど、そんな私には難しい話をすらすらと——あ、またその手でページを繰った。そう、「夢想学」をすらすらと読める相賀くんは凄い。少なくとも私はそう思う。
相賀くんは近寄り過ぎるとその人を避ける傾向にあるので、きっと私は近いようで遠いこの位置で彼を眺めているだけのくらいが丁度良いのだと思う。そんな思考でぼうっと彼を眺めていると、クラス一の親友である新名八葉が背後から話しかけてきた。
「ねえ、望美」
八葉は八色未神のような人物だ。上品で優しく、黒髪は長く美しい。おまけに深紅が似合う。艶やかなその姿もそうだ。私の中の八色未神像は八葉なのだ。
私はそんな八葉が友人であることに誇りを持っている。
「なあに、八葉」
私は振り返る。そうすると八葉は目尻を下げてふふっ、と柔らかく笑った。
「また、相賀くん?」
「うん、まあね」
私は言葉を切った。そして少し考える。
冒頭の言葉を訂正すると、私は相賀くんを好きではないが、私は決して相賀くんを嫌いなわけでもない。ただ、面と向かって話すとなったときにキラキラしすぎて苦手なだけだ。妄想だったり貶したり色々としたが今はもう、私は彼を面白い観察対象者と認識している。
切った言葉を思い出し、適切に続くであろう言葉を発する。
「彼、面白いからね」
私はそっと微笑んだ。過去の毒はもうないのだ、という思いで。
窓の外では燦々と太陽が降り注いでいた。
では何故そんなことをしているのかと言えば、彼の容貌が夢のように素晴らしいからだ。
地毛のさらさら茶髪に甘いマスク、高身長で意外と体格がいい。正に少女漫画の王子様だ。
だが。彼には圧倒的に足りないものがある。彼には足りないのだ、王子力が!
これは由々しき問題だ。優しいが彼は注目されるのが苦手で、いつも他人の後ろにいて、そのくせに良い所はばっちり奪っていき、普段は小動物。ある意味女子力男子ともいうべきか。ピンクのリボンでも頭に乗せてやろうか。嫌だ。かっこいい見た目でこんななよっとしたもやしのような性格の王子がいてたまるもんですか。
私は早々に見切りをつけ(酷い言い様であることも勿論理解している)、彼の容姿に似合う彼とは異なる人格を生み出し、妄想した。それが相賀愛都という「’」の存在だ。勿論、現実の人物を架空の人物に重ねて見るだなんて最低だという自覚はある。ましてやその人物は創作物にさえ存在しないのだ。だが、現実を前に理想は崩されて結局、そんな思考や妄想は一か月やそこらで棄てた。
そして今、この朝読書の時間も彼を眺めている。教室の窓側一番後ろという特等席から。今、彼は読書の最中だ。彼が読んでいるのは「夢想学」という本だ。編者は世古新。「夢想」シリーズで最も難しいとされる本だ。確か冬女島伝説から見た夢人についての本だったはずだ。
冬女島伝説の調査と同時に、沢山の謎が浮上した。八色は何者か、夢人の元になったという冬女島の人々と八色未神の関係、何故夢人の統率者の元であるはずの八色未神が存在した証拠がないのか。それ以外にも様々だ。
けれど、そんな私には難しい話をすらすらと——あ、またその手でページを繰った。そう、「夢想学」をすらすらと読める相賀くんは凄い。少なくとも私はそう思う。
相賀くんは近寄り過ぎるとその人を避ける傾向にあるので、きっと私は近いようで遠いこの位置で彼を眺めているだけのくらいが丁度良いのだと思う。そんな思考でぼうっと彼を眺めていると、クラス一の親友である新名八葉が背後から話しかけてきた。
「ねえ、望美」
八葉は八色未神のような人物だ。上品で優しく、黒髪は長く美しい。おまけに深紅が似合う。艶やかなその姿もそうだ。私の中の八色未神像は八葉なのだ。
私はそんな八葉が友人であることに誇りを持っている。
「なあに、八葉」
私は振り返る。そうすると八葉は目尻を下げてふふっ、と柔らかく笑った。
「また、相賀くん?」
「うん、まあね」
私は言葉を切った。そして少し考える。
冒頭の言葉を訂正すると、私は相賀くんを好きではないが、私は決して相賀くんを嫌いなわけでもない。ただ、面と向かって話すとなったときにキラキラしすぎて苦手なだけだ。妄想だったり貶したり色々としたが今はもう、私は彼を面白い観察対象者と認識している。
切った言葉を思い出し、適切に続くであろう言葉を発する。
「彼、面白いからね」
私はそっと微笑んだ。過去の毒はもうないのだ、という思いで。
窓の外では燦々と太陽が降り注いでいた。
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる