蝶と都とキラキラと

樟谷

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本編

❖いち

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 私は相賀晃おうかあきらという人物をよく目で追っている。決して相賀くんを好きなわけではない。むしろ苦手だ。
 では何故そんなことをしているのかと言えば、彼の容貌が夢のように素晴らしいからだ。
 地毛のさらさら茶髪に甘いマスク、高身長で意外と体格がいい。正に少女漫画の王子様だ。
 だが。彼には圧倒的に足りないものがある。彼には足りないのだ、王子力が!
 これは由々しき問題だ。優しいが彼は注目されるのが苦手で、いつも他人の後ろにいて、そのくせに良い所はばっちり奪っていき、普段は小動物。ある意味女子力男子ともいうべきか。ピンクのリボンでも頭に乗せてやろうか。嫌だ。かっこいい見た目でこんななよっとしたもやしのような性格の王子がいてたまるもんですか。
 私は早々に見切りをつけ(酷い言い様であることも勿論理解している)、彼の容姿に似合う彼とは異なる人格を生み出し、妄想した。それが相賀愛都という「ダッシュ」の存在だ。勿論、現実の人物を架空の人物に重ねて見るだなんて最低だという自覚はある。ましてやその人物は創作物にさえ存在しないのだ。だが、現実を前に理想は崩されて結局、そんな思考や妄想は一か月やそこらで棄てた。

 そして今、この朝読書の時間も彼を眺めている。教室の窓側一番後ろという特等席から。今、彼は読書の最中だ。彼が読んでいるのは「夢想学」という本だ。編者は世古新。「夢想」シリーズで最も難しいとされる本だ。確か冬女島伝説から見た夢人についての本だったはずだ。
 冬女島伝説の調査と同時に、沢山の謎が浮上した。八色は何者か、夢人の元になったという冬女島の人々と八色未神の関係、何故夢人の統率者の元であるはずの八色未神が存在した証拠がないのか。それ以外にも様々だ。
 けれど、そんな私には難しい話をすらすらと——あ、またその手でページを繰った。そう、「夢想学」をすらすらと読める相賀くんは凄い。少なくとも私はそう思う。

 相賀くんは近寄り過ぎるとその人を避ける傾向にあるので、きっと私は近いようで遠いこの位置で彼を眺めているだけのくらいが丁度良いのだと思う。そんな思考でぼうっと彼を眺めていると、クラス一の親友である新名八葉にいなやつはが背後から話しかけてきた。
「ねえ、望美」

 八葉は八色未神のような人物だ。上品で優しく、黒髪は長く美しい。おまけに深紅が似合う。艶やかなその姿もそうだ。私の中の八色未神像は八葉なのだ。
 私はそんな八葉が友人であることに誇りを持っている。

「なあに、八葉」
 私は振り返る。そうすると八葉は目尻を下げてふふっ、と柔らかく笑った。
「また、相賀くん?」
「うん、まあね」
 私は言葉を切った。そして少し考える。
 冒頭の言葉を訂正すると、私は相賀くんを好きではないが、私は決して相賀くんを嫌いなわけでもない。ただ、面と向かって話すとなったときにキラキラしすぎて苦手なだけだ。妄想だったり貶したり色々としたが今はもう、私は彼を面白い観察対象者と認識している。
 切った言葉を思い出し、適切に続くであろう言葉を発する。
「彼、面白いからね」
 私はそっと微笑んだ。過去の毒はもうないのだ、という思いで。
 窓の外では燦々と太陽が降り注いでいた。
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