蝶と都とキラキラと

樟谷

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本編

❖し

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 日曜日。もう秋も終わりだが、今日は有り難いことに小春日和だ。だから私の気分もいい。私は相賀くんと待ち合わせをしていた。勿論、デートだとかそういったものではない。夢人関連のことである。
 待ち合わせの十分ちょっと前に着いたが、そのとき既に相賀くんは待ち合わせ場所であった展望台跡(私たち地元民はここのことを『紫陽花公園』と呼んでいる)にある赤煉瓦で作られた建物の前にいた。

 相賀くんが私に気付いてくれたようだ。おはよう、と挨拶してくれた。
「おはよう。……待った?」
 あ、デートとかでよくあるらしい会話になってしまいそうだ。関係ないからなんだか恥ずかしい。
「ううん、ついさっき来たところだよ。気にしないで」
「そっか。ありがとう」

 相賀くんは意外なことに黒縁眼鏡をかけているのでなんだかいつもより知性を感じる。濃赤のパーカーを上まで閉め、ダメージジーンズに有名ブランドの黒と赤の運動靴を履いて、黒のミニショルダーバッグを背中に着けている。それがまた容姿と相まってかなりかっこいい。

 一方私はというと、「動きやすい服装で」という指定の下、紺色の長袖Tシャツの上に薄手の白の長袖カーディガンを羽織り、茶色のショートパンツに薄いタイツ、そして真っ白の運動靴を履いて黒い合皮製のシンプルなハンドバッグである。
 このハンドバッグは動けるように肩掛けバッグにもなる仕様だ。髪は下ろして内巻きカールにさせている。私はお洒落のしたい女子だからこれくらいの若干の不便は許してほしい。

 そろそろ行くかと私が聞くと、彼はちょっとだけ待って、と返した。
「行く前にかなえさんに連絡しないと」
「叶さん?」
「店長のことだよ。……『今紫陽花公園です。今からそちらへ向かいます』はい送信っと」
 相賀くんは言いながらメッセージを打ち、送信した。私が見ていたことに気づくと、彼は慌てて弁解した。
「叶さんに待ち合わせできたら連絡してって頼まれてたから……」
 その様がなんだか面白い。くすくすと声が漏れる。初めて彼を前にして笑った。その事実がまた私を大きな笑いへと誘った。相賀くんもつられて笑っていた。

 笑いも収まってからしばらく経って、私たちは叶屋ようやの前に着いた。
「凄い……」
 私はあまりの綺麗さとお店の小ささに似合わない十組くらいは待っているであろう列に驚きの声をあげ、足を止めた。
 叶屋はやや狭い道の大通りに面した角にあるお洒落な木造建築の甘味処で、使っている木は白くて角がない。だからなんだか新しいお店にも思える。だが、約三百年もの間続くお店で、改築も過去、それも数十年前に一度、それも今の外観にするためだけにしただけだという。それって凄いことだと思う、というか普通のお店とは違うんだと実感する。
 何を隠そう、この叶屋は神様が守護するお店だ。
 神様は叶さんを通じてこの世界——というかほぼ叶屋——に干渉するのだという。

「高瀬さん」
 私は、相賀くんに呼ばれてはっと現実に戻った。私は背の高い彼を見上げる。
「行ってもいいかな?」
 彼は優しく私に問いかけた。
「あ、うん」
 私は慌てて答えた。だがその後の彼の行動は私を驚かせるのに充分だった。
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