蝶と都とキラキラと

樟谷

文字の大きさ
7 / 17
本編

❖ろく

しおりを挟む
 それから飲み物が届くのにはあまり長い時間はかからなかった。だが、体感は別である。長かった。私と相賀くんはその時間をほぼ無言で過ごしていた。お互いに私は初めての場所にいて、相賀くんは私がいるからいつものように出来ない、という非日常の緊張を味わっていたからだ。
 その間、私はこの都行席の内装を観察したり、それについて考えたりしていた。

「はい、お待たせしました」
 叶さんの声でふっと現実に戻る。目の前には、相賀くんの瞳と似ているオレンジ色の水色の紅茶があった。
「ありがとうございます。いただきます」
 そして香りを嗅ぎ、一口。アールグレイだ。
「美味しい……」
 完全に好みだったので、思わず表情が緩んでしまう。でも、なぜ「ホットストレートティー」だけでアールグレイが出てきたのだろうか。
「ありがとう。高瀬さんが飲みたい紅茶を選んでみたよ」
 一瞬意味がわからなかったが、徐々に理解した。正にこれが飲みたかったのだ。
「凄いです! どうして分かったんですか?」
「私はこれでも『神域の甘味処』叶屋の店主ですから」
 あ、成程。そういえばそうだった。だからここへ来たんだ。
 叶さんはその思考の変化に気がついたらしい。改めて自己紹介をしようかと提案し、座っていいかと断りを入れて、もう一つ空いていた席に腰を下ろした。
「はじめまして。私は叶屋店主の大宮叶、一応女です。役割としては、神様との接触、この世界の保護、夢人の都の管理、あと店主業です。これからよろしくお願いします」
 叶さんは丁寧に頭を下げてくれた。って言うか、叶さんって女の人だったんだ。かっこいいし素敵だ。こんな人になりたい。
「こちらこそよろしくお願いします」
 私は思考を隠すようにして頭を下げた。そしてそのまま自己紹介に移る。
「私は高瀬望美、相賀くんのクラスメイトで、月曜日にボランティア部に入りました」
「……ほら、晃もやりなよ」
「え、えー」
 叶さんの突然の提案を相賀くんはかなり嫌がっている。だが抵抗むなしく、自己紹介をする運びとなった。
「えー、相賀晃です。夢人です。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
 まるで初対面のように交わされる挨拶に三人でくすくすと笑った。

「さて、夢人についての話をしようか」
「はい」
 私は、飲みかけのアールグレイを置いた。叶さん、次いで相賀くんが姿勢を正したので、私も背筋を伸ばした。
「まず、夢人はこっちでは死んだとされるけれども夢人の都で生きている。次に、夢人は夢の持ち主の記憶によって置き換えられた夢の中に入って演技をする。これは大丈夫だね?」
「はい」
 私は首肯する。
「では、夢人の脅威は何で、夢人が夢にいるときはどうなっているかは?」
「脅威は黒節で……夢にいるときは、夢の登場人物になると聞いていますが詳しくはわかりません」
「じゃあ晃、説明お願いね」
 相賀くんは予想済みだったような感じで開いていた「夢想学入門」を私に向けてくれた。そして左ページ中央あたりの文を指でなぞりながら説明をしてくれる。
「はい、脅威は黒節。夢にいるときは夢人としての姿が失われて、代わりに登場人物の姿となる。ここまでは大丈夫みたいだね。
 夢に入ったときにその人物の思考となって、演技が始まる。 成り切る人物が人以外なら、動物や非生物、ファンタジーに出てくるような魔物になる……以上」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...