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本編
❖はち
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「聖代は普通、優れた皇帝が治めた時代という意味で使われる言葉だよ」
相賀くんは一旦そこで言葉を切った。私はそもそもそんな言葉があることを知らなかったので、それだけで驚きだ。
でも、と続けて相賀くんは再び説明を始める。
「叶の都では『夢人の代表として世界を行き来できる男性』っていう意味で使われる。これが女性だと聖女になって、その歴が長いほうが夢人第一位だよ」
ああ成程、そういうことか。
つまり、叶の都と現実世界の出入りができる時点で相賀くんは特殊なのだ。そして、私もそうなるかもしれない。否、そうならなければならない。
私は前で持っているバッグの持ち手を握りしめた。
「ごめん、待たせたね」
叶さんは門から出てすぐにそう謝った。
「いいえ。……ここが、叶の都なんですね」
夢みたい、とついでに零した。土を踏み固めた道にも、人々にも、短い間だけれども夢をみてきて、憧れてきたから感動する。
「でも現実だよ」
相賀くんは僕も始めは信じられなかったんだけどね、とまた柔らかく笑った。
「高瀬望美さん」
叶さんはそう私を呼んだ。何だろう。すごく、緊張する。
「はい」
震える声で返事する。
「あなたには、聖女になる素質がありそうだね。第一段階、合格だね」
ほっとした。まずは認めてもらえたから、私はなりたいものに近づけた。嬉しい。
そんな気持ちになった直後、叶さんが不思議なことを言い出す。
「手を前に伸ばしてみて。……そう、そのまま人差し指だけを少し上げて。うん、それ。そのまま上へ挙げてみて」
バッグを左に持ち替え、指示されるがまま右手を動かした。そして数秒。
黒の球が見えた。それはふわふわと靄をたてていたが、挙げていた右手の人差し指にゆっくりと止まった。否、それは球などではない。
蝶だ。紫ではないけれど蝶である。綺麗、夢みたい。そう感じた。
「ありがとうございます!」
勢いで叶さんにお礼を言った。叶さんはにっこりしてうなづいた。
「良かったね」
相賀くんも喜んでくれている。私は急にそれを恥ずかしく思った。顔の熱が上がる。どきどきする。
「あの、相賀くん!」
私は気づくと相賀くんに声をかけていた。はっと我に帰るがもう戻れない。
私は決心した。きっと嫌われてしまうけれど、言わなければ。
「ごめんなさい! 私はちょっと前まで相賀くんじゃなくて別の人を見ていたの!」
相賀くんは何も言わない。ただ肩を震わせているだけだ。どうしよう、やっぱり怖い。
「晃」
叶さんが相賀くんに反応を促す。
ははは、と笑い声が聞こえた。誰から、と思ったが発生源は相賀くんだった。
「何よ」
あ、また失敗。つい棘のある言い方になってしまう。不安だ。とんでもなく不安だ。心音がやけにうるさく耳に響く。
相賀くん、ごめんなさい! そう心の中でもう一度言ったとき、相賀くんが言葉を発した。
「知ってた」
え? 私は目を丸くして硬直する。教室の端で八葉と話していただけなのに、どうして?
「知ってたよ、前から。その人物が実在しないことも」
涙が溢れる。最低だ。私はまだ嫌われたくないって、許されたいって思っている。
「本当にごめんなさい! 最低だってわかってる。でもどうしようもなくて、相賀くんの影響で夢人に憧れて……。本当は資格なんて無いと思う。でも」
「いいよ」
続けようとした言葉を相賀くんは遮った。
相賀くんは一旦そこで言葉を切った。私はそもそもそんな言葉があることを知らなかったので、それだけで驚きだ。
でも、と続けて相賀くんは再び説明を始める。
「叶の都では『夢人の代表として世界を行き来できる男性』っていう意味で使われる。これが女性だと聖女になって、その歴が長いほうが夢人第一位だよ」
ああ成程、そういうことか。
つまり、叶の都と現実世界の出入りができる時点で相賀くんは特殊なのだ。そして、私もそうなるかもしれない。否、そうならなければならない。
私は前で持っているバッグの持ち手を握りしめた。
「ごめん、待たせたね」
叶さんは門から出てすぐにそう謝った。
「いいえ。……ここが、叶の都なんですね」
夢みたい、とついでに零した。土を踏み固めた道にも、人々にも、短い間だけれども夢をみてきて、憧れてきたから感動する。
「でも現実だよ」
相賀くんは僕も始めは信じられなかったんだけどね、とまた柔らかく笑った。
「高瀬望美さん」
叶さんはそう私を呼んだ。何だろう。すごく、緊張する。
「はい」
震える声で返事する。
「あなたには、聖女になる素質がありそうだね。第一段階、合格だね」
ほっとした。まずは認めてもらえたから、私はなりたいものに近づけた。嬉しい。
そんな気持ちになった直後、叶さんが不思議なことを言い出す。
「手を前に伸ばしてみて。……そう、そのまま人差し指だけを少し上げて。うん、それ。そのまま上へ挙げてみて」
バッグを左に持ち替え、指示されるがまま右手を動かした。そして数秒。
黒の球が見えた。それはふわふわと靄をたてていたが、挙げていた右手の人差し指にゆっくりと止まった。否、それは球などではない。
蝶だ。紫ではないけれど蝶である。綺麗、夢みたい。そう感じた。
「ありがとうございます!」
勢いで叶さんにお礼を言った。叶さんはにっこりしてうなづいた。
「良かったね」
相賀くんも喜んでくれている。私は急にそれを恥ずかしく思った。顔の熱が上がる。どきどきする。
「あの、相賀くん!」
私は気づくと相賀くんに声をかけていた。はっと我に帰るがもう戻れない。
私は決心した。きっと嫌われてしまうけれど、言わなければ。
「ごめんなさい! 私はちょっと前まで相賀くんじゃなくて別の人を見ていたの!」
相賀くんは何も言わない。ただ肩を震わせているだけだ。どうしよう、やっぱり怖い。
「晃」
叶さんが相賀くんに反応を促す。
ははは、と笑い声が聞こえた。誰から、と思ったが発生源は相賀くんだった。
「何よ」
あ、また失敗。つい棘のある言い方になってしまう。不安だ。とんでもなく不安だ。心音がやけにうるさく耳に響く。
相賀くん、ごめんなさい! そう心の中でもう一度言ったとき、相賀くんが言葉を発した。
「知ってた」
え? 私は目を丸くして硬直する。教室の端で八葉と話していただけなのに、どうして?
「知ってたよ、前から。その人物が実在しないことも」
涙が溢れる。最低だ。私はまだ嫌われたくないって、許されたいって思っている。
「本当にごめんなさい! 最低だってわかってる。でもどうしようもなくて、相賀くんの影響で夢人に憧れて……。本当は資格なんて無いと思う。でも」
「いいよ」
続けようとした言葉を相賀くんは遮った。
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