濁った私淑

出雲

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プールの時間

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そして初夏。
学内でプールの授業が始まった頃に考えたのです。

いつまで私は〝道化〟をしなくてはならないのだろうかと。

幼い頃には、大きくなれば自分にも感情が分かるようになると縋っていましたが、そんな様子は訪れません。

このまま他者に恐怖を感じ〝道化〟に安堵感を覚え同時に恥じ入り死にたくなるような生活を、いつまで続けなればならないのか。


いっそのこと、死んでしまった方が楽にならるのではないかと。

ふと思い立ったことでしたが、その考えは授業が終わってもなお、私の頭の中に残っていました。



そして、次の水泳の授業の直前。
私は市販の睡眠薬を規定された量よりも多く服薬して、フラフラな足取りで授業に臨みました。

準備体操など、すでに朦朧としており、立っていることがやっとの状態でした。


よくやく25メートルプールのコースライン上にならび、飛び込みの合図の笛を教員が鳴らし勢いよくプールに飛び込んだところで、私は意識を飛ばしました。


気がつくと、まず見えたものはいやに明るい照明でした。
重い体を起こしてみると、白いカーテンで仕切られた空間のベッドの上にいました。もちろん、そこが何処なのか分からない訳ではありません。




あぁ・・・私は死んでいないのか。



私はまるで他人事のように落ち着いていました。

私が目を覚ましたことに気がついた養護教諭と担任教師に、具合はどうだとか、一体どうしたのかと質問されました。

二人を前に、少し申し訳なさそうに「寝不足で、うっかり足をつってしまった」とおちゃらけてみせると、教員二人は仕方がないという様子で、それ以上何も聞かれることはありませんでした。


教室に戻るとクラスメイトたちも同じように私に寄ってきましたが、同じように振る舞い、おちゃらけると、皆教員と同じように私に注意や揶揄をしました。


この時、私の道化に気がつく人間は、ひとりもいませんでした。
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