濁った私淑

出雲

文字の大きさ
上 下
5 / 6

道化は続く

しおりを挟む
月日が経ち、私は中学生となりました。



私は厳格な父親の薦めで、俗に〝優秀〟と言われる私立中学校に受験をして合格しました。


それは昔から交流の多かった、いとこのSも同じでした。
Sは私が初めて道化をした日・・・あの祖母の葬儀で泣いていたいとこです。


Sは正義感が強く聡明な性格をしており、そのサバサバとして飾らないSは男女ともに好かれる人物でした。


中学生の頃の私は相変わらず人間に対して恐怖を抱いており、更には他者と違い〝道化〟を演じなければ生きていけない自分自身に恐怖を抱いていました。


他者を欺くこの〝道化〟は非常に上手くなり、この頃すでに〝道化〟は呼吸のように私にとっては当たり前の行動になっていました。


しかし予想外なのはSが同じ私立の中学校に入学したことです。


私立である以上、付属の高校・・・最悪な結果大学までもがSと同じ学校に通うことになるでしょう。


幼いころから交流のあったSは〝道化〟になる以前の私を知っている。


もし、私の〝道化〟が聡明なSに見つかってしまったら。
もし、私の〝道化〟が暴かれて知れ渡ってしまったら。


そう考えると、呼吸がひどく乱れ、心休まる暇もありません。


幸いにもSとクラスは離れていましたが私はSに注意をして、活発なSから離れるように、Sが決して入部しないであろう美術部に入部をしました。



そしてSとの接触をしないように極力注意を払って、学校生活を送りはじめました。





中学生となり環境が変わり、明るくひょうきんな優等生の私の周りに人間が増えるたびに、私は恐怖が増していくばかりでした。


周りは私の〝道化〟に気づかずに、私のことを明るい人だの、面白い人だのと評価をしました。


その評価をされる度に、上手く道化をしているという安堵感と同時に〝道化〟をしていることの罪悪感が生まれ、周りに合わせて〝道化〟しながら他者と戯れる度に吐き気がこみ上げてきました。


周りの人間は感情が更に複雑化していくのに対し、
相変わらず私はどの感情も理解できずにいました。



しおりを挟む

処理中です...