暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 カルバートが読まれる前に

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 突きつけられた三行半。

 至極当然の事であった。
 この事に関して一体どこから、何を綴っていくべきものか、僕には難しく思えた。
 
 当然の如く、僕は家に帰ってこない。一般の家庭がどういうものなのか、それも知らない。いや、知ってはいる。ただしそれはやはり、夫と妻、セットの事であって、なかなかうちのような境遇は探しても身近には見つけられなかったのである。

 僕は妻を愛している、それを言うと嘘になるのも確かだし、僕は妻を愛していない、それを言うのも嘘である事は確かであった。

 家に帰ると、僕が帰るその事に対して準備されているものは何一つない。子供2人はママしか言わない。妻はどこかしらずっと不機嫌であって、僕が何かをしてくれない、僕に何かをして欲しい、そしてその事を察して欲しい、そんな雰囲気を四六時中醸し出し、そして時折、口を開けば「~して欲しい」そんな言葉を捻りだしていた。

 僕は家に帰りたくなくなっていった。
 帰りたい家はどこにもなく、結果、夜の街でふらつくようになった。

 10年の結婚生活の中で、僕は愛について、幸せについて勉強しながら、こと二つの事は常に頭の中に置いていた。それは、
 
 人は変わらない、自分が変わるしかない、という事。
 愛されたいと思うのならば、まず自分から愛すればいい、という事。

 10年の月日の中で、妻の言動で到底受け入れない事は多々あった。ただその中でこの二つの考えがいつだって僕にストップをかけた。僕の中のこの10年間はごつごつとしたした心を丸くなるようにひたすら磨き続けてきた、そんな日々であった。

 「~して欲しい」から更に「ああなって欲しい」「こうあって欲しい」そういった言葉に近い事もあった。
 それを言われる度に僕の心は痛んだ。
 「自分を殺して、私の思うような人になって」
 そんな事を言われているのと同じだった。その言葉は僕自身の存在意義を失くしてしまうものだった。

 当初、僕も妻に対してそんな感情を抱く事もあった。
 「こうだったらいいのに。」
 そう思った事は確かに何度かあった。
 ただしかし、その度に踏みとどまった。それを言ってしまうと、妻が妻である必要がなくなってしまうからだった。それは単純に自分の都合のいい存在を求めているだけであって、そう思うのであれば、他の女性と結婚すれば良かったじゃないか、という結論に達してしまい、それを言ったところで元も子もない論争になる事は明らかであった。

 ひたすらに相手を受け入れる事。
 まずはそこからしか、何も生まれはしない。
 そう思った僕はある年の元旦に「甘受」という言葉を墨で書いた。妻に理由を聞かれた僕は「受け入れる」その事の大事さと、それを目標とする事を伝えはしたが、僕の伝え方が悪かったのか「何一つ分からない」そんな表情をしていたのだった。

 そんな感覚を持つ僕と、僕に変わって欲しいと心から願う妻。
 この2人のすれ違いは、容易に想像がつく通り、どうやっても平行線を辿る道しかなく、そしてその距離はじわじわと遠のいていったのである。
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