暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 スナックの扉を開けて僕は店内を見渡した。そしてママを見つけると手招きした。
 「さおり?」
 近づいてきたママに僕は黙って頷いた。ママは興奮した様子で少し目が潤んでいるようにも見えた。
 「階段の下で待っちょ。」
 そう僕は言って、ママと2人階段を下りていった。

 「…ご無沙汰してまーす。」
 さおりは丁寧にお辞儀しながら、申し訳なさそうにママに言った。
 「久しぶりやん!元気!?」
 ママは久々の再会に嬉しそうにしていた。
 「あっはい、元気です。」
 「戻ってきないよいつでも!」
 狭い階段に3人、僕は久方ぶりの、笑いながらの話す2人を少し微笑ましく見ていた反面、2人の思うところはきっと別々にあるんだろうなと思っていた。
 「もお~、せっかくわざわざ降りてきて頂いたんで一杯だけ飲んで帰ります!」
 さおりがそう言って、ママは嬉しそうに階段を上っていった。僕はといえばほんの少しの違和感、そうそれは、先に言ったそこが気になっていて、複雑な気持ちになっていた。

 カウンターに2人座り、やはりママは終始嬉しそうに話していた。
 人不足のご時世、ママは今までの事は全く気にしないからいつでもまた戻ってきてほしい、その事を繰り返しさおりに語りかけていた。
 ただ、僕は言葉にはしなかったものの、それは難しいんじゃないかと思っていた。
 結局、さおりはその呼びかけにハッキリとした返答をする事なく、僕らは店を後にした。

 それから、さおりはまた、たまに僕の誘いに乗っかってくるようになった。
 次にそのスナックへ行った帰り際にお見送りにきたママにさおりは言った。
 「あっ、今週の土曜日入りまーす。」
 突然の言葉に僕は驚いた。
 「えほんとー?」
 そういうママとさおりの会話にこれまた僕は違和感しか感じないのであった。
 突然いなくなった人間が、もう一度働くそれはサクッと実現するものではなく、それならそれでキチンとした順序を踏むべきである。酒が回っていてすぐさま言葉が出てこなかったが、そこは当然、
 「今週の土曜日、入ってもいいでしょうか?」
 という言葉が筋であって、正直それだけでは足りない。まずは心からの謝罪、そして「あんな事になってしまいましたけど、今後は~~という風に考えているので、大変おこがましいのは承知しておりますが、もう一度働かせて頂けないでしょうか?」という言葉を選ぶべきだったであろう。

 それから1度か2度、スナックへさおりは出てきはしたが、またしても当然のように雲隠れしてしまったのであった。
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