暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 彼女が働いている街まで車で一時間強。

 そんなところまでわざわざ足を運ぶのは、億劫だった。以前の僕ではなかった。

 それだけではなく、元々の彼女の性格から分かる通り、彼女の出勤はすぐに変更された。出勤予定日に突如キャンセル、そんな事が何度もあった。それを考えるとわざわざその為だけに車を走らせる気になれなかった。
 尚且つ、彼女の出勤は神出鬼没だった。当日の午前中にいきなり出勤を決めたりしていたのだ。僕のチェックが追い付かない事も往々にしてあったのである。

 上記2点を考慮すると、さすがに土日は嫁子供の手前出ていきにくい事、平日であれば突発的に休みを取らないといけない事、更に、ドタキャンが入る事すらも頭に入れておかないといけない状況であって、最悪、片道一時間強、往復約3時間のドライブは、水の泡となってしまう事も十二分に考えられたのである。
 細い細い綱渡り、それが成功しない限りは叶わない、そんな感覚で、チャンスはそうそう転がっていないと、それに対して考えていたのである。
 
 すぐ手が届くような感覚があるにも関わらず、そんじょそこらに転がっていないその機会を考えると僕は悶々として日々を過ごした。そして何より、自分自身がその行動を起こす事を、ひたすらに悩んでいた。

 どのみちクズである事は確かであるが、クズならばクズらしく、そして、どんなクズになりたいか、そんな事を考えている中で、その対象としては、さおり以外に、僕の中であり得なかったのである。何か決心をして動く、そんな事もやはり、彼女の出勤体系を考えるとそれもする事ができず、思いを巡らせれば巡らせる程に、吐きそうになる感覚にもなったし、夜な夜なその事が気になって、疲れが取れるような睡眠はとれていなかった。

 何度か、その少ないチャンスはあった。
 ただそれは、土日であった。

 行こうと思えば行ける、そんな状況ではあったが、実に、嫁と上手くいっていない真っ最中の事で、ここで行くべきかどうか、それは、僕の中の感覚として、第6感的なものに近いところで、その時、諸々の事を天秤にかけ、僕自身にストップをかけた。

 そんな事を繰り返す中で、僕の中ではもう、答えの出ないこの事柄に対して、考えすぎるのも辛くなっていた。
 ある意味開き直ったような、そんな感覚に近くなっていったのであった。

 この事が実現するかどうか、それはもう、神に委ねるしかない。

 ほぼほぼそんな達観したような気分になってきた時、僕は以前から数年の付き合いがある、デリバリーマッサージ店の女の子の、誕生日が近い事に気が付き、毎年送っているLINEを変わらずに送ったのだった。
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