暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 「やっぱそーだと思ったんだよな~。」
 ハイボールを片手にチーママは言った。
 「お世話になりました。」
 僕は比較的出て来る頻度が高い言葉をストレートの金髪に投げかけた。今度ばかりは冗談のようで冗談ではなかった。

 たかが10年、されど10年。

 ド田舎で結婚して街場へ出てきた2人だったが、思い返すとやはり楽しい思い出よりは俄然、嫁の不機嫌な顔しか思い浮かばなかった。
 そもそもの相性がさほどい良いわけではなく、お互い努力し続けなければなかなか上手くはいかないという事は分かっていた。
 分かっていた上で、2人は努力を怠り続けた。
 しかしながら、今の嫁が嫁であるが故に、僕の方は大きく成長できたのは事実であった。
 それは特に、あり得ないと思っていた事を許そうとしたり、愛について学ぼうと思ったり、実際にそうやって勉強していく事で大きな学びを得てきて、そして得てきているからこそ、正直な話、こんなにも夜の女の子達からの支持されるようになったと思っている。

 そのスナックで10年前の思い出の曲を歌わせてもらって、僕は涙ぐんだし、金髪もそれを温かく見守ってくれた。

 それからというもの、僕はさあ、あの紙きれ一枚がいつ僕の手に渡るのか気になっていた。
 当然、飲みに出るのも控えだしたので以前よりは帰宅時間は早くなっていた。
 ただやはりすぐ近くのコンビニで少し時間を潰して、9時過ぎ頃に帰る、そんな事をしていた。

 その紙はなかなか、僕の手元に渡らなかった。

 当然、その間も夜の女の子からの誘いはきていた。
 ママや、チーママ、他の女の子にも事情は説明していたのだが、都合悪く、僕のお客さんでもあって、特にこのお客さんから誘われれば、何度も断る事もしづらく、全く夜の街に出ないわけではなく、以前よりペースを落とすといった形になった。

 家にいる時間が長くなり、ひょっとして嫁はあの事を忘れているんじゃないか、そんな気持ちにもなっていった。
 書くだけ書いて、次何かあったら突きつけてやる、そんなつもりかもしれないし、家に帰るようなになったもんだから渡そうにも渡せない、そんな状況かもしれなかった。決心らしい決心はしてないんじゃなかろうか、とそんな考えに僕の方は落ち着きつつあった。
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