暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 カルバートが読まれる前に 2

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 そんな無用な悩みを抱えていた頃に、僕は見つけてしまったのであった。
 山積みの書類の一番下にあった記入済の離婚届けを。

 ある程度の予想はしていた。
 むしろ僕がそういう方向に持っていっていた、という方が正しいだろうか。

 それを見つけてから、ある意味、僕は少しやはり安心したという感覚もあった。
 
 まず、嫁が馬鹿ではなかった事。
 そして、さおりの街へ行こうかと迷った土日に結局は気が向かずに家に留まっていた事。

 毎晩のように飲みに出る旦那、家に帰ってこない旦那。そして「おはよう」と「行ってきます」しか言葉を交わさないこの状況で別れを思いつかない女性はいないだろう。ただ一般の事情と違うのは嫁から僕に対して与えられるものが少ない事であった。
 こんな話の内容で一般的な僕の男性側のイメージでは「別れたら困る」であった。
 それは主に家事の部分であって飯はどうなるんだ、だとか、洗濯はとかそんなイメージが強い。
 ただ、ことうちの家庭においては正直、困る事はなかった。もともと僕の分のご飯は用意されていないし、炊事場の洗っていない食器は平然と1週間溜まっていく一方で放置されており、洗濯物もごみ溜めのように日々積り積もっていく状態で、1週間の内にその状況がごくたまに改善されている事はあるものの、僕が土日の休みの日に溜まった食器を洗い、溜まった洗濯物をたたむ、そんな事は珍しくもなんともない状況であって、例え別々に暮らす事になったとしても僕の方は困る要素が少く、むしろ余計な事を考えてイライラしなくて済むし、家事の仕事としても減るような、そんな感覚だった。
 任せきりになっている子供についても、嫁の感覚と僕の感覚が違いすぎて、何も言う気にならず、むしろ1人で暮らしているその時に子供が遊びにきてくれれば、大事な事を教えていけたりするんじゃないか、そんな気持ちもあった。
 夜働いたり、酒を飲むわけでもなく、昼間にカフェでバイトをしている嫁は21時~20時くらいには床につくのだが、休みの日は子供よりも遅く起きてくる。それは今始まった事ではなく、僕がせかせかと家事をしている横で寝て、全てが終わった頃、昼前に起きてくるのはざらにあった。

 子供達の「ママ起きて、お腹減った。」という言葉は、心から聞きたくない言葉の一つだった。

 よくあるような「ちょっと待ってくれ!」
 そんな言葉はかけら程も思い浮かばずに、僕はそれを見つけた瞬間に、もちろん「やばい!」という気持ちにもなったが、どちらかと言えば心を躍らせたのである。
 確かに様々な要素で、その時の僕はぐらついた事は確かだった。
 そんな中で冷静に考えると、ネックになってきたのはやはり金銭面だった。養育費の事を考えれば今と同じペースで飲みに出る事は控えなければならない状況だった。

 会社を出るそのタイミングでそれを見つけた僕は、その日、
 〔今日で卒業式や、飯食いいこーや〕
 と常連のスナックの一番仲がいいチーママにLINEを送ったのだった。
 
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