カルバート

角田智史

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かおり 2

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 乾杯をしたあと、自然と話は弾んでいった。二人は同郷の同級生で、共通の友達や先生の話、昔話に花を咲かせた。ふと、かおりは言い出した。
 「あのさあ…。」
 「私と飲んでも面白くないよ?そりゃ誘ってくれるのはありがたいっちゃけどさあ…。」
 その一瞬、僕は狼狽したものの、すぐに状況が理解できた。
 僕からすれば、これは18年間の念願が叶ったわけだったが、考えてみればそうだった。この日も言われたが、昔からかおりに言われていた事があった。
 「さとし君は謎」
 かおりからすれば突然誘ってきた謎の人物に違いないと思った僕は、心の中でニヤついていた。
 「高校の頃の事があったから?」
 かおりは聞いた。ここはきちんと説明して差し上げる必要があった。少し間を開けて僕は答えた。
 「1年くらい前に原稿が出てきたって言いよったやん?で最近19歳の子と少し仲良くなって、色々話してたらその年の頃ってどうやったかなー、て思って。で、その流れでそう言えばって思い出したんよ。」
 まさか19歳の子と関係を持った、とは言えない。
 「ああ、なるほどね…。」
 「19歳の子?えー?どゆこと?」
 僕は日頃の荒れた夜の生活を暴露せざるを得なくなった。しかしながら、それはそれでわざわざ僕が日向まで出向いている、というかおりの感じている負い目を解消させる意味では、説明するべき事でもあった。飲みに行く事に全く抵抗がない事、しずかが働いている店も日向にある為、わざわざ出向いている感覚がない事。

 「ねえどう思う?暇だったのかな?」
 かおりは言った。あの頃を思い返すと確かに「暇」というワードを何度か出していた。
 「んー、やっぱ若いとさ、貢献感がないやん。誰かの役に立ってるとかさ。」
 「へえ~、そんな事思うっちゃ~。」 
 かおりは言った。
 「てか、まだ原稿持ってんの?」
 気になっていた事を僕は聞いた。1年前にそれを聞いた時にはもちろん驚きはしたし、相当に嬉しい気持ちにもなったが、アレを長年保管させ続けているという若干の負い目も感じてはいた。
 「うん、原稿と、本1冊。」
 正直、今日返されるかもしれない、と思ってきた、とは言わなかった。
 捨ててもいいのに、とは言わなかった。

 かおりが原稿を持っている。

 その事が、僕とかおり、二人を繋げている唯一の細い細い糸のように思え、かおりにその原稿の今後の行く末を聞いたり、少しでもその動向について言及する事は、僕には到底恐ろしくてできなかった。
 喉まで出かかっていた、期待を込めた「墓場まで持っていく?」という言葉さえも、それに触れるのが怖くてハイボールと一緒に飲み込んだのだった。
 
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