カルバート

角田智史

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 真理恵にくびったけ 5

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 唇を奪う。
 
 この表現が最も正しいだろう。

 酒が回っていた。僕よりは彼女の方が明らかに。
 抱き寄せた彼女からはほんの少しの抵抗も感じていた。
 だがしかし、僕は二度続けて彼女の唇を奪っていた。
 小さな飲み屋街、そのほぼ中心の道端で。
 酒が回りながらも、僕の視界のその先の誰かに見られている事も明らかに感じていた。

 「今のはさとし君が悪いわ。」
 そう言いながら、またズンズンと歩いて、同じルーティーンに入っていった。
 MKを一度出てから、彼女はもう一度戻ると言って聞かなかった。店を出る、その時点で、その場にヘタリと座り込んだり、店から出るその時には思い切り僕に抱き着いたりしていた。
 このままの放置は明らかに店側に迷惑を掛ける事と、真理恵が苦手をしている古賀さんと一緒に残して帰る事もできず、僕は真理恵を外に連れ出した。
 それから店外に出たのは良かったものの、無駄な押し問答を何度も繰り返していた。
 「帰るよ、タクシーこっち。」
 と何度か言った後、真理恵はフラフラしながら、ビルの段差に座り込んだ。

 その真理恵が酔っ払った一連の様子は、昔元カノが酔っ払って階段から後ろ向きにバランスを崩し、踊り場で強く後頭部を打ったあの時を彷彿とさせた。「ごめんなさい。ごめんなさい。」DVを受けて旦那と別れた元カノはそう繰り返した。「おい!さとしやぞ!」そう言っても彼女はそれが分かっていないようだった。
 タクシーに乗り込んだはいいが、苦しそうに激しい呼吸を繰り返す元カノの、過呼吸を心配した僕は、連れ添った友達の手前だったが、ひたすら彼女の口を僕の口で押えつけていた。

 いてもたってもいられない、その感覚はその元カノと、真理恵、僕の中で似通っていた。

 ろれつが回っていないながらも真理恵はこう言った。
 「さとしくんは~、さとしくんは~、トクベツッ!」
 「このままおわりたくなーい!!」
 その言葉を聞いた僕は、気が付けば真理恵を抱き寄せていた。

 約1年ぶりの再会だった。
 風の噂で真理恵が妊娠した事を知った。それから僕は定期的に送っていたLINEを自粛していた。
 そのLINEが、何カ月ぶりの連絡だった。
 〔お久しぶりです!最近あのラウンジって行ってますか?〕
 という質問がいきなり真理恵からきたのだった。あのラウンジというのはしずかが働いていたラウンジだった。元々指名していた子がいるところだった。僕は専らMKをメインとして出るようになっていたので、素直に最近は行ってないと返した。
 〔そうなんですね!残念です!〕
 と返ってきたので、僕は悩んだ挙句に、
 〔なんでやねん〕
 と返したのだった。
 元々スパスパLINEが返ってくるような相手ではなく、既にもう、妊娠している事も知っていたので、僕はやっきになる事もなく、またいつ返信が返ってこなくなるか分からない、そんな状況と理解で、真理恵に対して返答したのである。
 〔一緒に行ってくれんかなーと思って〕
 と、そんな内容のLINEが返ってきた。〔子供生まれたの?〕と聞きたかったのは山々だったが、そのLINEの一往復に1週間かかるかもしれない事、そこからのやり取りにまた、何週間と時間がかかる可能性がある事を憂慮した僕は、それに触れずにただ
 〔全然いいよ、いつ行く?〕
 と返したのだった。

 
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