スコア稼ぎ短編小説集

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 ガガガ、と音がした。
 それは、ショベルカーが建物を壊す音。
 壊しているのは、僕が生まれた病院。
 廃墟となった病院は、どんどん壊れていく。

 懐かしいな。
 僕は病院で過ごした頃を思い出した。
 僕は昔、体が弱かった。
 何かの病気ではなかったが、軽い風邪をひけばすぐに吐いて脱水症状になる。
 毎年のように入院していた就学前。

 点滴を打った反対の右手で、絵を描いたり本を読んだり。
 個室で一人、いつ退院できるのかな、と思った時もあった。

 たくさんの思い出が詰まった、病院。
 妹が生まれたという良い思い出も、母が入院した悪い思い出も。
 たくさん、本当にたくさんの思い出が詰まった病院は、今、廃墟と化している。

「あの雰囲気、好きだったな」

 昔の常連としては、薬品の香りが落ち着くのである。
 最近は入院していなかった。

 新しい病院が出来て、患者もそっちの棟に移って。
 誰もいなくなった、静かな病院。

 それが今、目の前で解体されていく。
 だから私は伝えよう。

 この病院に、ありがとうを。


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 この話を書いた日、病院に行ってきました。
病院までの道のりを歩いているときに思いつきました。
因みに、新しくなった病院にも入りましたが、めちゃ綺麗になってました。すごかった(語彙力)。

つまりかなり実話。
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