スコア稼ぎ短編小説集

文字の大きさ
上 下
78 / 137

しおりを挟む
「おや、兄さん」
「あれ、肇?」

 私が日課の庭の草花の手入れをしていると、弟が門の前にいることに気付いた。
 小説家としてめぐるましい日々を送っている彼が、この家を訪れるのは珍しい。

「久しぶり。元気だった?」
「あぁ。そういえば、白姫が一度うちへ来たよ。お前が元気かと訊いてきたから、肯定しておいた。よかったか?」
「うん」

 一人で暮らす屋敷は、広すぎると思っていたところなので、茶でも淹れようと私は肇を屋敷に上がらせた。
 この家に人が入るのはいつぶりだろう。白姫が来たときは縁側に腰かけただけだったからな。
 そんな風に考えながら急須を傾け、湯気がたつ湯飲みを二つ、盆に乗せ和室へと運んだ。

「すまない、台所を探したがこれといっていい茶菓子が見当たらなかった」
「いや、気にしないよ。俺も連絡なしに来たんだし」

 そうか、と言いつつ、私は茶を飲んだ。
 ──それにしても。

「お前、どうしてここに来たんだ? 何か悩みでもあるのか?」

 例えば、小説のネタに困っているとか。
 生活力はもともとないが、さすがに辛くなったとか。
 小説執筆の才能以外、からっきしの人間である。思い当たる節はいくつもある。

「ただ、久しぶりに帰ろうかと思っただけだよ」

 と素っ気なく返す肇。
 私はふっと笑みを溢した。

「せっかく来たんだ、ゆっくりしていけよ」

 こんな日も、たまにはいいかもしれないな。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


 陽李&肇兄弟の話。ネタに困ったらとりあえずこの二人かな。

 最近、ネタの枯渇に悩んでます。
しおりを挟む

処理中です...