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VIVA
10.Vir
しおりを挟む彼のお陰で、ほぼ、一月ぶりに外に出れるようになった。
ネイと過ごした日々と同じ時間。でも、側にネイが居るか居ないかでこんなに印象が変わるのか、と。
昔から趣味で書いていた日記。
ネイと会ってからは書く気分になれなくて、ただただ、一月の間、過去の私が書いた叫びのような文を読んでいた。
『王子様になりたい』
そう書いてから、塗り潰しているページを見つけた。確かこれは私が10歳の時に書いた日記だ。
『王子様役をやりたい』
そう書いて、また塗り潰している。
『男役をやりたい』
またそう書いて、塗り潰している。
今思い出した。塗り潰したんじゃなくて、先生に塗り潰されたんだった。
「…ネイ」
愛しの人の名を呼んでから、男役をやりたいと書いたページの隅へこう綴った。
『今もそう思ってる』
書いた途端、窓に何か石のような物が当たる音がした。
不思議に思い、カーテンを開け外を見てみると、見覚えのある後ろ姿の人を見つけた。
「ネイ!!!」
何も考えられなかった。
もうすぐ日暮れ。
明日は稽古があるから家で大人しくしていろ、と先生に言われたことなんて忘れて、大声をあげてネイを追った。
私の声に気付き、こちらを見て一瞬泣きそうな顔をしてから背を向けるネイ。
「顔だけを見て帰るつもりだったのか」
「窓に石をぶつけて呼ぶなんて古典的だな」
なんて意地悪を言ってやろうか、なんて色々考えながらネイを追った。
しかし、恐らくお買い物帰りのお母様の細い右腕が私の腕を掴んだ。昔は振り払えなかったこの手。私よりも、細いその腕。
昔はしっかり掴まれていたこの腕。今は、お母様の指が少し浮いていることに気付いた。
お母様もそれに気付いたのか、目を見開いて泣きそうな声をあげた。
「クレマチス…」
胃の底から痛い何かが沸き上がってくるような感覚。
「ごめんなさい、お母様」
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