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「性転換をしようと思う」
唐突だった。水を吹き出す俺。
「汚いよ」
そう困ったように笑うえくぼのかわいい彼。
「職場の人が結婚して産休に入るって言ってたの見てさ」
嬉しそうにそう言う彼。
「俺もそれしたいなって」
俺はこう言う。
「休みたいから妊娠したいのか?」
彼は頷いた。
「休むチャンスを貰えるんなら君とだって別れてやるよ!」
「俺といるために休みたいんだろ」
──────
「性転換手術って、心が女の子だっていう診断書みたいなのがないとダメらしいね」
「じゃあダメだな、世知辛い世の中だ」
「ね、最悪」
スマホをソファーに投げ捨てる彼。
それを拾い机の上に置く俺。
「……そんなに女になりたかった?」
彼は頷く。
「うん、君と結婚して寿退社したかった」
「さっきと理由変わってんな」
笑う彼。
黙り込み、身を乗り出して、机の上に置かれた、さっき彼が投げたスマホを手に取った。
「お前なんでそんな会社休みたいの」
「交通アクセスがクソ悪いからに気まってんじゃん」
またスマホを投げようとする彼。
止めると声を出して笑い、そのあとまた黙り込んでしまった。
「……結婚したいな」
「まあ、気が向いたらな」
「……またごまかした…」
スマホを操作する彼。
「そっちは、仕事どう?」
「ああ、俺も辞めたいよ」
「まじか~」
「まじまじ」
─────
「見て、パンダの赤ちゃん」
「おー、ほんとだ、かわいい」
「俺とどっちがかわいい?」
「パンダ」
「そりゃそうだ」
「人間界ならお前が一番」
「ありがと~」
ブラックコーヒーを飲む彼。
「飲む?」
「いやいい」
「寝れなくなるね」
「寝れなくなる」
笑う彼。
「…あのさ…思ったんだけど、俺らが同性ってだけで結婚も妊娠も出来ないって世知辛い世の中だよね」
「暗い話するなら別れてパンダと付き合う」
「はいやめます」
「……」
「…パンダと付き合う?」
「パンダと付き合う」
─────
「……お前、なんか、ちょっとナイーブになった?」
「うん、色々調べてたら差別的なこと言ってる人いたから」
「そっか」
「……そっちもさ、会社嫌なの?」
「うん、同棲してるって言ったら「彼女紹介しろ」って男好きって言えない空気作られるから嫌だ」
「元々女の子が好きだったからね、お互い」
「だからこそ居辛いんだよ、親にも話せてないし」
「俺も…」
「……」
「…ねえ、俺さ、料理作れるよ?」
「ん」
「それに裁縫とかも出来る」
「んー…それすごい」
「知ってるだろうけど、好きな人には尽くすタイプだし」
「ん」
「だから、ちゃんと、環境整えて、親にも話して、それから…結婚しよう」
「気が向いたらな」
「またそれだ」
「またこれだよ」
「!」
「悪いか」
「!!」
そう言うと目をかっ開いて俺を見てから、ゆっくりと微笑んだ。
「ふふ、まあさ、妊娠したいだとか性転換するだとかは冗談だけど」
軽いリップ音。
「結婚したいってのは本心だからね」
「…うん、できたらいいな」
「調べてみたんだけどね、台湾なら結婚できるらしい」
「……言語の勉強するか…」
「二人でなら何でも出来るよ」
「だな」
「我愛你」
「…あは、それしか知らないんだ?」
「ふふ、うん、これしか知らない」
「勉強しなきゃな」
「そだね」
「気が向いたらな」
「気が向いたらだね」
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