ごしゅいん!

筆 不将

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新たな一歩へ

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 人間は誰だって不安定だ。
 先の見えない断定不可な未来をいつだって良いものにしたくて、どんな時代の人間も必死に足掻いている。
 足掻いた結果、それが最悪の結果になったとしてもまた良い未来を切望して、前に進み続ける。

「歴史とはそういった願いが積み重なったものであるからして、何人たりとも貶してはならないし、真似をしようとするものではない」
 
 この言葉を聞いた当時、意味は分かりはしなかったがスゴい言葉だ、と感銘を受けた覚えがある。
 大好きだった祖母に連れられてとある講演会に参加した(あるいはさせられた)時に、半ばうたた寝の中という幼子よろしくな態度だったハズだけれども、この言葉だけはやけに脳裏に焼き付いて、どうしても離れなかった。
 母の話によれば、どうやらその言葉を聞いたのは私が5才の時だそうだ。
 祖母の知人が開く講演会に私はお菓子を餌に渋々ついて行った。帰りはグッスリと寝る私をおぶる祖母を家族全員が想像していたらしいが、まさか目を輝やかせながら父に「歴史の本を買って!」と縋ってきたという結果に皆驚いていた、というのが母の証言である。
 
 私はその当時の事を強く覚えていないから、「まさか」と笑いながら思った。が、私が今こうして日本の歴史についての最前線を行く研究者と呼ばれるようになっているのだから、有り得なくはないな、と苦笑するのが私の応えだ。
 
 そう私は今、日本の歴史について研究している。
 日本の中の業界では最も名のある研究所にて、恥ずかしながら期待の新星として活躍を注目されている。
 お偉い様達からは「今までに無い着眼点」と評されて
はいるものの、それは当たり前だろう。

 ──誰も聞いたことの無い、ちょっと不思議な出来事を青春時代に経験したことを元に研究をしてるのだから。
 
 あの時があったから今の私がある。
 あの時に迷ったからこそ今の道がある。
 あの時にあの子が転校してきたから今の関係がある。

 小さい頃の講演会事件は発端の発端に過ぎない。
 その経験を皮切りに歴史に興味をもったのは事実だ。
 でも実を言うと、歴史書を買ってもらったとこまでは良かったけれども、難しい字や聞いたことのない言葉に嫌気がさして、すぐ放り投げてしまったのだ。

 影響というのは所詮そんなものなのである。
 影が響くと書いて影響。
 肝心の本体にまでは届いてはいないから、響き方がいくら大きかったとしても、それは過去という影が響いただけ。影が音もなく消えるように、過去もいつのまにか忘れ去ってしまう。
 
 ……話を戻そうか。
 私がまた歴史に目を向けるキッカケとなったのは歴史書を買ってもらったその数年後に、祖母から貰った御朱印帳である。
 ある日祖母が自室の棚の奥から取り出したきた木箱から、古びた和綴じ本を私に渡してこう言った。
 
「これは御朱印帳と言ってね、御朱印を書いてもらう為の本だよ。 でもこの御朱印帳は特別でね、神様──私の大切な友達に貰った物なの」
 
 当時の私は理解が出来なくて首をかしげていた。
 それでも祖母は優しい笑みを浮かべながら続けた。

「美鈴が大きくなって、大切な人ができたら、この本をもって一緒に神社を巡り、この本に御朱印を貰いなさい。この御朱印帳いっばいに御朱印を集めることができれば、美鈴と大切な人達との願いが叶うからね」

 その翌年、おばあちゃんは亡くなった。
 
 とても悲しかったけれども、おばあちゃんに貰ったこの古びた和綴じ本の御朱印帳があったから、今の私がここにいる。
 
「鷲宮さーん。 次なんでスタンバイよろしくお願いします」
 と、楽屋の扉をガチャリと開け、スタッフさんが私を呼ぶ。
「はい。今行きます」
 
 とまあ、今日は私の研究の発表会なのだ。
 私は机に広げた資料をまとめ、席を立つ。
 そのまとめた資料の中には、ページが半分無くなった古びた和綴じの御朱印帳も含んである。
 
 学生時代の私が今の私を見たら、きっと驚くだろうな。こんな大勢の前で、私の考えを話せる立場になったんだもの。あの頃──高校一年生の私からしたら考えも付かないだろう。
 
 壇上に上がり、目の前の光景と失敗したらというネガティブな思考が私に怖じ気を与える。
 脅えちゃダメだ。
 一歩を踏み出せ……!
 一言目を間違えないように、
 深呼吸をして……私は口を開く。
 
『──本日はお集まりいただき、ありがとう御座います。 本日の私の発表は誰にでも楽しみながら聞けるように、嘘のようだけれでも本当に私が経験をしたことを踏まえて発表させて頂きます。 本日のテーマは……』

 《古作りの御朱印帳から捉える日本の信仰の歴史と、神仏の実在の証明》

 今までにない観点って言われているけど、確かに私みたいな奇天烈な学者なんてそうそういないよな……。
 それでも私はこれが正しいって信じてるから!
 
『歴史とは不確定な未来を利益ある物を目指すために足掻いた人類の痕跡の集合体である。 しかしそんな不安定な人類はいつでも持ち合わせていた物があります』

『それは信仰心、さらに言うなれば“神”の存在であります』

『これからお話ししますは私の学生時代の話でありますが信じるかどうかは、個々の判断でお願いいたします』

 大切な友達を思い返すと、目が潤むようになっちゃうんだよね。

 年のせいかなぁ──

『私には不思議な青春を共にした生涯の友達がいますがその中で1番クセのあった少女は××でした──』
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