暗黒魔術師の理想郷

べにいも

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第一話 記憶の欠片

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 ――――ここはどこだろうか。

 平衡感覚や身体の感覚、全てが曖昧となり、時空が歪んでしまったような空間。
 刻々と薄れゆく意識の中、今まで考えまいと強く心の奥底に仕舞い込んでいた思い出。

 幼き日の出来事すら、昨日のことのように鮮明に蘇る。







 ◇ ◇ ◇







「ねぇ、アレンの使ってる魔術って何で属性がないの?」

 隣に座り込み、首を傾げながら少女が俺の顔を覗き込む。
 草原に吹く心地よい風が、ショートに切り揃えられた桃色の鮮やかな髪を揺らす。

「さぁな、つまりあれだ。可能性は無限大! 何属性にでも染められるってことだな。きっかけさえあればとんでもない魔術も扱えるようになるってわけだ。俺の黒髪に因んだ黒魔術とかいいよな」

「はぁ......そんなこと言い始めてもう五年は経つよ? 十歳の頃から魔術を習い始めてもう五年。私なんかとっくに火属性の中級魔術も使えるのに、アレンってば未だにちょっとした防御魔法しか使えないじゃん」

 隣に座る少女は額に手を当て、呆れたと言わんばかりの視線をこちらに向けると、ため息を吐き出す。

「なっ、いいだろ別に! そんなこと言ってるといざという時に守ってやらねえからな!」

 俺は仰向けになっていた体制をバッと起こし、食ってかかるように反論する。

「はいはい、低級モンスターに破られるような防御魔法に守られないよう善処しますよ~」

 少女は両手を上に向け肩をすくめると、おどけたように俺を挑発した。

「ヘレナてめぇ......今日という今日は許さねえ! そこまで言うなら禁足地まで付き合ってもらうからな!」

「えっ、嘘でしょ!? あそこには立ち入っちゃダメって村長からも散々言われてきたじゃない!」

 ヘレナの表情が急に固まり、先程までの余裕が目に見えてなくなっている。

「おいおいまさかビビってんのか? 中級魔術が使えるヘレナさんよぉ?」

 今度は俺がニヤニヤと煽るような表情を浮かべ、ヘレナに毒気づいた。

「そ、そんなわけないでしょ! いいわよ行ってやろうじゃないの禁足地に!」

 ヘレナは顔を真っ赤にさせ、身体を強ばらせている。負けず嫌いなこいつなら絶対に乗ってくると思っていたが、予想通りの反応だ。

「でもこの格好じゃ少し心配よね......」

 ヘレナは不安そうに自分の身に着けている装備を見下ろす。
 二人の身に纏う装備はレザー製の安っぽい生地で出来た革の装備一式だ。唯一胸当てだけが鉄で出来ている。

「ま、禁足地に行けばきっと伝説の装備や金銀財宝が隠されてんだろ! それなら村長が必死に言い聞かせてたのにも納得できるしな」

 不安を拭うように笑みを浮かべ、禁足地に希望を見出す。

 そう......そこにもしかしたら俺の魔術を開花させるきっかけがあるかもしれないのだ。

「そうね、ここから禁足地までは一時間くらいかしら? ちゃちゃっとお宝ゲットして帰りましょ!」
「そうだな、俺の防御魔法が火を吹くぜ!」
「無属性のくせにどうやって火を吹かせるつもりなの?」

 俺たちは互いに下らない雑談を交わしあいながら、禁足地へと歩を進めた。

 ――この出来事が、一生俺を後悔させるとも知らずに......。
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