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ヒスイカズラ
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私には時間が無い。
友人と楽しく笑う時間も、部活とか委員会に勤しむ時間も、勉強に励む時間も、好きな人に想いを伝える時間も。まぁ、時間があったところで実際には行動に移さないことの方が多い気はする。俗に言う失って初めて気付くものの類なのだろう。だからこそ私は私がいなくなってから届く手紙を書いている。懸想文、つまりはラブレターだ。彼を嫌いなはずなのに好きだった。好きなはずなのに嫌いだった。そんなことを考えながら筆を進めていると後ろから声がかけられた。聞きなれたそれでいていつ聞いても驚きからか少し顔が赤らんでしまう声だ。
「書けたか? タイムカプセルに入れる手紙」
「まだだけど。葉梨君は書いたの?」
私は自分の手紙をそっと彼の目から見えない位置にずらす。
「いや、書けないから何を書いてるかを見て書こうかと……」
「人のを見てどうにかなるとは思えないんだけど……。未来の自分にあてる手紙でしょ?」
「まぁ、方向性はわかる気がするだろ? 将来何してますかとか、今はだれそれが好きだとかさ。」
「一般的にはそれでもいいとは思うけどどっちもつまらないとは思わない?」
葉梨君はわかったようなわかっていないような顔でこちらを見て続きを話すように促してくる。
「将来何をしているかは自身の選択如何でいくらでも変わるし、今誰のことが好きかなんていうものは将来的にはただの思い出にすぎないのよ?」
葉梨君は私の方を納得したような目で見てから手をヒラヒラと振って気だるげに自分の席に戻った。その目に一瞬だけ哀しそうな光が灯っていた。多分、あのことをわかっているからだろう。
私は少しだけチクリとした胸の痛みを誤魔化すように再び手紙を書き始める。心の穴というのは案外、瘡蓋はかなり早くできるらしい。
窓の外をぼんやりと眺めながら来るはずのない将来に思いを馳せる。小さい頃の夢はパティシエになるのが夢だった。誰かを自分の作るスイーツで笑わせたかった。多分、祖母の影響だ。あの揚げたてのドーナツはとても美味しかった。美味しそうに食べる私を祖母が笑って見守っていた。一度、同じレシピで作ってみたが何が違った。記憶に残る味とは本質的に何かが違っていた。ドーナツとしてなら申し分ない出来栄えだった。きっと、思い出の中のドーナツだからだろう。祖母が作ってくれた、楽しみなしていた、美味しそうに食べると喜ぶ祖母がいた。きっとそんな何かがあったのだ。
物思いに耽っていると後ろの生徒に背中を軽く叩かれた。どうやら回収するらしい。急いで書き上げシールで封をして渡す。軽く息を吐きしばしの間、担任の話しに耳を傾けた。ありきたりな未来に向けて旅立つ私たちにありきたりなメッセージをくれた。変わらない何かがあるような気がした。ずっといられるような気がしてならなかった。
──葉梨君、美恋音。
きっと、いや確実にもう私は生きていないでしょうね。だからこそこんな事が書けるのですし。急にこんなことに巻き込んでごめんなさい。本当なら直接言わなきゃ行けないのかもしれないけどこうした方がきっとうまく伝わるからこうして手紙にしてます。
ありがとう。
そしてごめんなさい。
──江南葵唯
友人と楽しく笑う時間も、部活とか委員会に勤しむ時間も、勉強に励む時間も、好きな人に想いを伝える時間も。まぁ、時間があったところで実際には行動に移さないことの方が多い気はする。俗に言う失って初めて気付くものの類なのだろう。だからこそ私は私がいなくなってから届く手紙を書いている。懸想文、つまりはラブレターだ。彼を嫌いなはずなのに好きだった。好きなはずなのに嫌いだった。そんなことを考えながら筆を進めていると後ろから声がかけられた。聞きなれたそれでいていつ聞いても驚きからか少し顔が赤らんでしまう声だ。
「書けたか? タイムカプセルに入れる手紙」
「まだだけど。葉梨君は書いたの?」
私は自分の手紙をそっと彼の目から見えない位置にずらす。
「いや、書けないから何を書いてるかを見て書こうかと……」
「人のを見てどうにかなるとは思えないんだけど……。未来の自分にあてる手紙でしょ?」
「まぁ、方向性はわかる気がするだろ? 将来何してますかとか、今はだれそれが好きだとかさ。」
「一般的にはそれでもいいとは思うけどどっちもつまらないとは思わない?」
葉梨君はわかったようなわかっていないような顔でこちらを見て続きを話すように促してくる。
「将来何をしているかは自身の選択如何でいくらでも変わるし、今誰のことが好きかなんていうものは将来的にはただの思い出にすぎないのよ?」
葉梨君は私の方を納得したような目で見てから手をヒラヒラと振って気だるげに自分の席に戻った。その目に一瞬だけ哀しそうな光が灯っていた。多分、あのことをわかっているからだろう。
私は少しだけチクリとした胸の痛みを誤魔化すように再び手紙を書き始める。心の穴というのは案外、瘡蓋はかなり早くできるらしい。
窓の外をぼんやりと眺めながら来るはずのない将来に思いを馳せる。小さい頃の夢はパティシエになるのが夢だった。誰かを自分の作るスイーツで笑わせたかった。多分、祖母の影響だ。あの揚げたてのドーナツはとても美味しかった。美味しそうに食べる私を祖母が笑って見守っていた。一度、同じレシピで作ってみたが何が違った。記憶に残る味とは本質的に何かが違っていた。ドーナツとしてなら申し分ない出来栄えだった。きっと、思い出の中のドーナツだからだろう。祖母が作ってくれた、楽しみなしていた、美味しそうに食べると喜ぶ祖母がいた。きっとそんな何かがあったのだ。
物思いに耽っていると後ろの生徒に背中を軽く叩かれた。どうやら回収するらしい。急いで書き上げシールで封をして渡す。軽く息を吐きしばしの間、担任の話しに耳を傾けた。ありきたりな未来に向けて旅立つ私たちにありきたりなメッセージをくれた。変わらない何かがあるような気がした。ずっといられるような気がしてならなかった。
──葉梨君、美恋音。
きっと、いや確実にもう私は生きていないでしょうね。だからこそこんな事が書けるのですし。急にこんなことに巻き込んでごめんなさい。本当なら直接言わなきゃ行けないのかもしれないけどこうした方がきっとうまく伝わるからこうして手紙にしてます。
ありがとう。
そしてごめんなさい。
──江南葵唯
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