1 / 1
冬来りなば春遠からじ
しおりを挟む
北の国からソリにと共にやって来そうな鈴の音があちらこちらから聞こえてくる。夕暮れを迎えた街は徐々に軒先の洋燈がその煌めきを増していた。
目の前を行き交うのは様々な年齢のカップル、女性の二人組、男女数人のグループ、といった感じで少なくとも俺のように一人でというのは見当たらない。
場所は有名なデートスポット。季節は冬、クリスマスが近い。
店先には疎らだかサンタクロースとトナカイがいた。店のロゴが書いてある大きめのビニール袋から飴やクッキーと共に割引券の付いたチラシの入った小袋を道行くカップルに配っている。
目の前には大きなクリスマスツリーがそびえ立っている。
携帯の画面を見るが連絡はなかった。軽く息を吐いてメッセージアプリを起動させる。
──寒いんで喫茶店にいる。
直ぐに既読になり返事が返ってくる。
──はーい! もう少しで着くよ!
──了解。
携帯の画面を消してポケットにしまい手近な喫茶店に入る。
チリンチリンと扉についた鈴が鳴りカウンターの中から初老のマスターが重みのある、しかし優しい声で挨拶をしてくる。
「いらっしゃいませ。何に致しますか。」
コーヒーを一つとクッキーを頼みカウンター席に腰掛ける。
コートを脱ぎ背もたれに掛ける。
外では静かに雪が降り始めていた。
──楽しみだね♪
──楽しみだね。
メッセージアプリの画面を見つめる。
「……楽しみだね、か……。」
静かにそう呟き惚けながらその六つの音を口の中で転がす。
よく、言葉は刃にもなるなんて言うがその刃が常に相手に向いているとは限らない。刃が自身の肉を斬ることもあるのだ。
自分でも分からない程小さくそれでいて深いため息をつく。ため息は
「降り出しましたね。」
マスターはコーヒーとクッキーを持って落ち着いた声で話しかけてくる。
「はい。朝から寒かったですからね。」
マーマレードの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「カフェ・グレコ・ロマーナです。お気に召しませんか。」
「コーヒーを頼んだのですが……。」
「お客様が何だか沈んだ空気を纏っていたので勝手ながら御用意したのです。」
「あぁ、ありがとうございます。」
「雪が降ると妻のことを思い出して私も少々沈んだ気持ちになります。だからこそいらっしゃったお客様の気の浮き沈みもぼんやりとわかるのです。」
マスターは何処か遠いところを見るように目を細めていた。
「妻との約束で開いた店ですしね……。」
そうなんですね、と返答しクッキーとコーヒーをのんびりと食べる。
五分後に「着いた!」と連絡がありマスターに会計を頼む。店を出る時、感謝を告げるとマスターは静かに笑っていた。
「綺麗だねー。雰囲気がある!」
入り口に程近い所に位置する大きなモニュメントの前で二つ年上の幼馴染、高瀬夕美は無邪気な笑顔をみせる。
「うぅ、寒い。風邪ひくぅ……。」
夕美はフードガウンコートに白のセーターといった装いだった。
「まぁ、マフラーも手袋もしてないし。ほら、マフラー巻くからこっち来て。」
自分の首に巻かれたタータンチェックのマフラーを解いて夕美の首に巻く。
「どう、少しは暖かい?」
頭一つ小さい夕美はこっちを見上げる。自然と上目遣いになった夕美は綺麗だった。耳が熱くなるのがわかった。
「私は平気だけど……。昴、顔赤いよ! 風邪じゃないの?」
「……あぁ。」
「えっ!? 風邪なの? 帰んなきゃダメじゃん! ほら、行くよ?」
ふと惚けていた俺は手を引かれて我に帰る。
「風邪ひいてないから。心配させてごめん。」
「ホントに? なら良かった。それじゃ、買い物に付き合ってもらうよ!」
そういうと夕美は暖かい明かりを放つ店が並ぶ方へとかけて行った。
「んー……。いいの無いなぁ……。」
クリスマスマーケットが開かれていた広場で店をひと通り見て回ったが夕美は、マフラーがいいと言って隣接するショピングモールに来ていた。
夕美はオフホワイトや紺、ワインレッドといった色のマフラーを俺の首に巻いては「違うなぁ」と言ってまた別のそれを巻く。
「どうしてマフラーなんだ?」
「どうしてって……。そりゃあ渡したい人がいるからだよ?」
そういった彼女の顔はどこまでも素直だった。分かりきったことではあった。彼女と俺との間には硝子、いやアクリル板のようなものがある。その壁をの向こうに行こうとすればするほど彼女の姿は見えなくなっていく。
「まぁ、きっと無理なんだけどね……。」
刹那、ホッとした。自己嫌悪に陥りそうだ。幼馴染なんていう関係はよく分からない。よくクラスの女子生徒が『友達以上恋人未満』なんて言っているがやはりよく分からない。
しかし、そんな安堵は直ぐに消えた。
「まだしばらくは片想いでいいかなって……。」
夕美はそうして「えっへへ……」とはにかむとまたマフラーを選び始めていた。
沈むのが早い冬の夕陽がすっかり見えなくなってから少しした頃、俺と夕美は先程のクリスマスツリーの横に設けられた飲食スペースの丸テーブルを挟むように椅子に腰かけていた。
買い物を終えここに来る途中にクリスマスマーケットで買った飲み物がテーブルの上で柔らかな湯気を吐いている。
「それじゃ、飲んでみるね……。」
謎の緊張を伴いながら夕美は飲み物を口にした。
「……。シュワシュワしてない?」
「それ炭酸じゃないし。」
夕美は驚いた様にこっちを見る。
「でも、ホットアップルサイダーって書いてあったよ?」
「日本だとサイダーはたんさん炭酸飲料ってイメージだけどアメリカとかだと林檎酒のことだし。」
「そーなの!? 物知りだねぇ。」
「別に……。」
「私は好きだよー。そういうの。」
「っ……//////////」
不意打ちをくらい赤らんだ頬を冷ますようにホットアップルサイダーを口に含む。しかしその時飲むものがホットアップルサイダーだということを忘れていた。盛大にむせた。
「ちょっと! 平気?」
夕美がこちらに回って背中をさすってくれる。
「なんだか小さい頃にもこんな事あったよね。相変わらずなんだね。」
「……ぅるさい。」
照れ隠しから強く当たってしまう。やはり幼馴染は難しい。昔を思い出してしまうと何であんなに近くにいれたのか分からない。思い出すと赤面してしまう。
「そういえば……、昴は好きな人とかいないの?」
またむせてしまう。
「なんで……。今関係ないじゃん。」
「なんでって、私だけ好きな人がいるって昴に知られてるなんてなんか不公平じゃない? だから。」
「いないことも無いけど……ね。」
なんだか夕美を見ることが出来なくて子供にお菓子を渡すサンタクロースに扮した店員をみながらやや早口で言い終える。
「ふーん。やっぱりいるんだ……。」
どこか強がったような口調に聞こえた気がした。
ホットアップルサイダーを飲み終えた夕美がストローで遊んでいる。無邪気なところは相変わらずだ。
「美味しかった! 今度はさ、グリューワインっていうのも飲んでみたいね!」
「いいけど、四年後ね。」
机に上体を投げ出しながら「約束ね」と夕美は言った。
四年後。ぼんやりとすらそんな先のことは分からない。夕美は創政大学に進学するだろう。自分の進路すら分からない。夕美と同じ創政大学に進むのもいいかもしれない。
「どうしたの? 何か思いつめたような顔だよ……。」
「……何でもない。」
なぜだかひどく自分が惨めに感じられた。
「──っあー。」
ホットアップルサイダーを流し込み「よし」といって両頬を軽く叩く。
「そろそろ帰ろうか。夕美。」
「まだ、居ようよ……。」
「もう、八時だよ。」
「わかった……。」
後ろ髪を引かれるような顔をしながら夕美は席を立つ。軽く唇を結んでいた。
携帯の着信音が鳴った。
ヴァイオリンとヴィオラの奏でるメロディが耳に入る。この曲は確か夕美の着信音だ。
夕美は着信画面を見て少し逡巡した後でこちらをちらりと見てから電話に出た。ジェスチャーで「少し待ってて」と言って彼女は少し話したところでしばらく話していた。赤く染まった頬や時折聞こえる楽しそうな声が聞こえないように舞台で歌われている賛美歌に意識を向けようとしたが彼女の声は頭の中にずっと聞こえていた。
駅のホームで俺は一人、椅子に腰掛けていた。
駅に向かっている途中でマフラーを忘れたことに夕美が気づいて取りに戻ったのだ。一緒に取りに行くと言ったのだが何故か頑なに断られて駅で待つことにした。
それだけ大事なものなのだ。
見た事のない笑顔を見せる相手なのだから当然だ。
ちらちらと降っていた雪はその勢いを少し増していた。
──見つかった?
数分前に送ったメッセージには既読がつかない。
駅から先程の場所まで歩いて十分程度しかかからない。途中で引き返したこともあり三十分以上も何の連絡もないのは変だ。
「……っ。」
下唇を無意識に噛んでいた。
軽く息を吐き出し立ち上がる。
改札にやや小走りで向かう。
いや、向かおうと階段を降り始めた時だった。白を基調にした濃紺と赤のタータンチェックのマフラーが背後から首に巻かれた。まだ商品タグが付いたままのマフラーを巻いた小さな手はひどく白く冷たかった。
「せっかちだね……。」
鼻を赤くして肩で息をする夕美がいた。
「おまた……せ。」
「遅いよ。」
「じゃあ、お詫びにこのマフラー昴にあげる。」
夕美はそういうと俺の首に巻かれたマフラーを指でつつく。
「でもこれはあげる相手がいるんだろ?」
「いいの。」
電車の到着アナウンスがホームに聞こえる。夕美は空の紙袋を手に提げたまま電車の到着線に歩いてく。
その横に追いつくと反対側のホームを見たまま夕美は話す。
「そういえばホワイトクリスマスっていうの? 今日。」
「まだ先だろ、クリスマス。」
少し頬を膨らましてこちらに視線を送ってくる。
気づかないふりをすると脇腹を小突かれた。
顔を向けようとすると手を握られる。小さな手は微かに震えていた。
「────だよ、昴。」
夕美が何かを言った時、電車がホームに入ってきた。
彼女の言葉はその音にかき消されて聞こえなかった。
目の前を行き交うのは様々な年齢のカップル、女性の二人組、男女数人のグループ、といった感じで少なくとも俺のように一人でというのは見当たらない。
場所は有名なデートスポット。季節は冬、クリスマスが近い。
店先には疎らだかサンタクロースとトナカイがいた。店のロゴが書いてある大きめのビニール袋から飴やクッキーと共に割引券の付いたチラシの入った小袋を道行くカップルに配っている。
目の前には大きなクリスマスツリーがそびえ立っている。
携帯の画面を見るが連絡はなかった。軽く息を吐いてメッセージアプリを起動させる。
──寒いんで喫茶店にいる。
直ぐに既読になり返事が返ってくる。
──はーい! もう少しで着くよ!
──了解。
携帯の画面を消してポケットにしまい手近な喫茶店に入る。
チリンチリンと扉についた鈴が鳴りカウンターの中から初老のマスターが重みのある、しかし優しい声で挨拶をしてくる。
「いらっしゃいませ。何に致しますか。」
コーヒーを一つとクッキーを頼みカウンター席に腰掛ける。
コートを脱ぎ背もたれに掛ける。
外では静かに雪が降り始めていた。
──楽しみだね♪
──楽しみだね。
メッセージアプリの画面を見つめる。
「……楽しみだね、か……。」
静かにそう呟き惚けながらその六つの音を口の中で転がす。
よく、言葉は刃にもなるなんて言うがその刃が常に相手に向いているとは限らない。刃が自身の肉を斬ることもあるのだ。
自分でも分からない程小さくそれでいて深いため息をつく。ため息は
「降り出しましたね。」
マスターはコーヒーとクッキーを持って落ち着いた声で話しかけてくる。
「はい。朝から寒かったですからね。」
マーマレードの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「カフェ・グレコ・ロマーナです。お気に召しませんか。」
「コーヒーを頼んだのですが……。」
「お客様が何だか沈んだ空気を纏っていたので勝手ながら御用意したのです。」
「あぁ、ありがとうございます。」
「雪が降ると妻のことを思い出して私も少々沈んだ気持ちになります。だからこそいらっしゃったお客様の気の浮き沈みもぼんやりとわかるのです。」
マスターは何処か遠いところを見るように目を細めていた。
「妻との約束で開いた店ですしね……。」
そうなんですね、と返答しクッキーとコーヒーをのんびりと食べる。
五分後に「着いた!」と連絡がありマスターに会計を頼む。店を出る時、感謝を告げるとマスターは静かに笑っていた。
「綺麗だねー。雰囲気がある!」
入り口に程近い所に位置する大きなモニュメントの前で二つ年上の幼馴染、高瀬夕美は無邪気な笑顔をみせる。
「うぅ、寒い。風邪ひくぅ……。」
夕美はフードガウンコートに白のセーターといった装いだった。
「まぁ、マフラーも手袋もしてないし。ほら、マフラー巻くからこっち来て。」
自分の首に巻かれたタータンチェックのマフラーを解いて夕美の首に巻く。
「どう、少しは暖かい?」
頭一つ小さい夕美はこっちを見上げる。自然と上目遣いになった夕美は綺麗だった。耳が熱くなるのがわかった。
「私は平気だけど……。昴、顔赤いよ! 風邪じゃないの?」
「……あぁ。」
「えっ!? 風邪なの? 帰んなきゃダメじゃん! ほら、行くよ?」
ふと惚けていた俺は手を引かれて我に帰る。
「風邪ひいてないから。心配させてごめん。」
「ホントに? なら良かった。それじゃ、買い物に付き合ってもらうよ!」
そういうと夕美は暖かい明かりを放つ店が並ぶ方へとかけて行った。
「んー……。いいの無いなぁ……。」
クリスマスマーケットが開かれていた広場で店をひと通り見て回ったが夕美は、マフラーがいいと言って隣接するショピングモールに来ていた。
夕美はオフホワイトや紺、ワインレッドといった色のマフラーを俺の首に巻いては「違うなぁ」と言ってまた別のそれを巻く。
「どうしてマフラーなんだ?」
「どうしてって……。そりゃあ渡したい人がいるからだよ?」
そういった彼女の顔はどこまでも素直だった。分かりきったことではあった。彼女と俺との間には硝子、いやアクリル板のようなものがある。その壁をの向こうに行こうとすればするほど彼女の姿は見えなくなっていく。
「まぁ、きっと無理なんだけどね……。」
刹那、ホッとした。自己嫌悪に陥りそうだ。幼馴染なんていう関係はよく分からない。よくクラスの女子生徒が『友達以上恋人未満』なんて言っているがやはりよく分からない。
しかし、そんな安堵は直ぐに消えた。
「まだしばらくは片想いでいいかなって……。」
夕美はそうして「えっへへ……」とはにかむとまたマフラーを選び始めていた。
沈むのが早い冬の夕陽がすっかり見えなくなってから少しした頃、俺と夕美は先程のクリスマスツリーの横に設けられた飲食スペースの丸テーブルを挟むように椅子に腰かけていた。
買い物を終えここに来る途中にクリスマスマーケットで買った飲み物がテーブルの上で柔らかな湯気を吐いている。
「それじゃ、飲んでみるね……。」
謎の緊張を伴いながら夕美は飲み物を口にした。
「……。シュワシュワしてない?」
「それ炭酸じゃないし。」
夕美は驚いた様にこっちを見る。
「でも、ホットアップルサイダーって書いてあったよ?」
「日本だとサイダーはたんさん炭酸飲料ってイメージだけどアメリカとかだと林檎酒のことだし。」
「そーなの!? 物知りだねぇ。」
「別に……。」
「私は好きだよー。そういうの。」
「っ……//////////」
不意打ちをくらい赤らんだ頬を冷ますようにホットアップルサイダーを口に含む。しかしその時飲むものがホットアップルサイダーだということを忘れていた。盛大にむせた。
「ちょっと! 平気?」
夕美がこちらに回って背中をさすってくれる。
「なんだか小さい頃にもこんな事あったよね。相変わらずなんだね。」
「……ぅるさい。」
照れ隠しから強く当たってしまう。やはり幼馴染は難しい。昔を思い出してしまうと何であんなに近くにいれたのか分からない。思い出すと赤面してしまう。
「そういえば……、昴は好きな人とかいないの?」
またむせてしまう。
「なんで……。今関係ないじゃん。」
「なんでって、私だけ好きな人がいるって昴に知られてるなんてなんか不公平じゃない? だから。」
「いないことも無いけど……ね。」
なんだか夕美を見ることが出来なくて子供にお菓子を渡すサンタクロースに扮した店員をみながらやや早口で言い終える。
「ふーん。やっぱりいるんだ……。」
どこか強がったような口調に聞こえた気がした。
ホットアップルサイダーを飲み終えた夕美がストローで遊んでいる。無邪気なところは相変わらずだ。
「美味しかった! 今度はさ、グリューワインっていうのも飲んでみたいね!」
「いいけど、四年後ね。」
机に上体を投げ出しながら「約束ね」と夕美は言った。
四年後。ぼんやりとすらそんな先のことは分からない。夕美は創政大学に進学するだろう。自分の進路すら分からない。夕美と同じ創政大学に進むのもいいかもしれない。
「どうしたの? 何か思いつめたような顔だよ……。」
「……何でもない。」
なぜだかひどく自分が惨めに感じられた。
「──っあー。」
ホットアップルサイダーを流し込み「よし」といって両頬を軽く叩く。
「そろそろ帰ろうか。夕美。」
「まだ、居ようよ……。」
「もう、八時だよ。」
「わかった……。」
後ろ髪を引かれるような顔をしながら夕美は席を立つ。軽く唇を結んでいた。
携帯の着信音が鳴った。
ヴァイオリンとヴィオラの奏でるメロディが耳に入る。この曲は確か夕美の着信音だ。
夕美は着信画面を見て少し逡巡した後でこちらをちらりと見てから電話に出た。ジェスチャーで「少し待ってて」と言って彼女は少し話したところでしばらく話していた。赤く染まった頬や時折聞こえる楽しそうな声が聞こえないように舞台で歌われている賛美歌に意識を向けようとしたが彼女の声は頭の中にずっと聞こえていた。
駅のホームで俺は一人、椅子に腰掛けていた。
駅に向かっている途中でマフラーを忘れたことに夕美が気づいて取りに戻ったのだ。一緒に取りに行くと言ったのだが何故か頑なに断られて駅で待つことにした。
それだけ大事なものなのだ。
見た事のない笑顔を見せる相手なのだから当然だ。
ちらちらと降っていた雪はその勢いを少し増していた。
──見つかった?
数分前に送ったメッセージには既読がつかない。
駅から先程の場所まで歩いて十分程度しかかからない。途中で引き返したこともあり三十分以上も何の連絡もないのは変だ。
「……っ。」
下唇を無意識に噛んでいた。
軽く息を吐き出し立ち上がる。
改札にやや小走りで向かう。
いや、向かおうと階段を降り始めた時だった。白を基調にした濃紺と赤のタータンチェックのマフラーが背後から首に巻かれた。まだ商品タグが付いたままのマフラーを巻いた小さな手はひどく白く冷たかった。
「せっかちだね……。」
鼻を赤くして肩で息をする夕美がいた。
「おまた……せ。」
「遅いよ。」
「じゃあ、お詫びにこのマフラー昴にあげる。」
夕美はそういうと俺の首に巻かれたマフラーを指でつつく。
「でもこれはあげる相手がいるんだろ?」
「いいの。」
電車の到着アナウンスがホームに聞こえる。夕美は空の紙袋を手に提げたまま電車の到着線に歩いてく。
その横に追いつくと反対側のホームを見たまま夕美は話す。
「そういえばホワイトクリスマスっていうの? 今日。」
「まだ先だろ、クリスマス。」
少し頬を膨らましてこちらに視線を送ってくる。
気づかないふりをすると脇腹を小突かれた。
顔を向けようとすると手を握られる。小さな手は微かに震えていた。
「────だよ、昴。」
夕美が何かを言った時、電車がホームに入ってきた。
彼女の言葉はその音にかき消されて聞こえなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる