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賑やかな旅路

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 入り口へと向かうと見えて来たのはイチビたちのたくましい背中だ。アンソニーさんに小瓶を手渡しすぐにこちらに向かったのだろう。

「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」

 大きな声でその背中に話しかけるとイチビたちは振り返るが、その表情は困ったような顔をしている。

「それが……」

 どうしたのだろうか? いつも入り口にいるペーターさんもいない。不思議に思いながら歩を進めるとイチビが口を開いたが、その内容に私たちは「は?」と声を上げる。

「えぇと……もう一度聞いても良いかしら?」

「はい……ブルーノさんが到着し、それを見たペーターさんが自分も行くと騒ぎ出し、どうにもならなくなってしまったのでブルーノさんが旅の支度の手伝いに行きました……お止めすることが出来ないほどの気迫でした……」

 話を聞いた私たちは困惑するが、目の前でその一部始終を見ていたイチビたちはもっと困惑しているであろう。そもそもブルーノさんをヒーズル王国に招くことすら想定外だったのだ。それに加え、なぜかペーターさんまで来ることが私たちの知らないところで決まっているのだ。私たちは頭を抱え「どうする?」と言い合うが、どうもこうも無さそうである。と、そこへ聞き慣れた声が響く。

「あぁカレンちゃん! 私も行くからな! ダメだと言われても着いて行くからな! ブルーノが良くて私がダメというのは無しだぞ! 町長として付き添う!」

 意気揚々と現れたペーターさんは動きやすい服装に着替え、お断りが出来ないほど楽しげで生き生きとしている。

「でも……ほら……ペーターさんは入り口で見張りをしないといけないんじゃないのかしら?」

 言葉を選びつつ話しかけるが「それは刺激が欲しいだけ」とか「ブルーノが行くなら私も行く!」と話が堂々巡りとなってしまい、私たちは根負けしペーターさんの同行を認めざるを得ないことになった。

「えぇと……ブルーノさんにも話したのだけれど、本当に何もないからおもてなしが出来ないわよ」

「もてなされに行くわけではない」

 ブルーノさんと同じことを言うペーターさんは満足げに笑う。私たちももう笑うしかなく、呆れ笑いをしながら国境へ向けて歩き出した。道すがら気になることがあったが、あえて口に出さずに国境へ着くと、ジェイソンさんをはじめとした警備隊がざわめいている。

「先生! それに町長殿! どういう組み合わせですか? 何かここに用事でも?」

 ほんの数時間前に国境を通り抜けた私たちに驚いているのか矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。

「あー……こちらはブルーノさんと言って大工だ。我が国の建築技術向上の為に力を貸してくれるそうでな。そしてペーターさんは町長として付き添いという形でだな……」

 じいやも何と説明したら良いのか分からないらしく語尾を濁すと、それまで不思議そうな顔をしていたジェイソンさんが途端に笑顔になる。

「なるほど! 事情は良く分かりました! ……ならば護衛が必要ですね!」

 今度はこの国境でジェイソンさんの言葉に困惑してしまう。

「えぇと……ジェイソンさん? 道中危険はないわよ? ……ちょっと過酷なだけで……」

 護衛など必要ないくらい屈強な森の民たちの一団なのだ。けれどジェイソンさんは笑顔のまま自己主張を始める。

「本来ならば国境の行き来は記録が必要ですが、それをしていないのです。万が一シャイアーク国民に何かあったら大変なのです。ですから私がお供します!」

「……ジェイソンよ、そなた、ただ我が国に来たいだけであろう……」

 誰もが思ったことをじいやが告げると「とんでもありません」と否定はするが、誰がどう見てもヒーズル王国……というよりはじいやの側にいたいのが目に見えてしまい、私たちは呆れ笑いやら失笑をしてしまう。そんな中スイレンが声を上げる。

「もう! 一人も二人も三人も変わらないよ。僕たちの国はもてなすほど何かがあるわけじゃないけど、それでもいいんでしょ? 僕は早く勉強をしたいの!」

 あのあまり自己主張をしないスイレンが激しくわがままを言うが、その内容が勉強をしたいだなんて私には理解が出来ず頭痛がしてきた。この三人は遅かれ早かれ招こうと思っていた人たちなのだ。もう面倒になってきたので連れて行ってしまおう。

「はい、ジェイソンさん行くわよ。荷物をまとめる時間はないからそのままの格好でね」

 溜め息を漏らしながらそう言うとジェイソンさんは拳を振り上げガッツポーズをし、隊員たちは「隊長だけずるい!」と羨ましがっていたが、土産を持ってくるということで話が付いた。土産物屋すらないヒーズル王国で、帰りに何を持たせるかを考えただけで頭痛が増してきた気がする。

「さあ早く行きましょう。急がないと日が暮れるわ。ちなみに夜営をしないと王国に着かないから覚悟してね」

 私の言葉に今までうきうきとしていた三人は驚きの表情のまま固まってしまった。
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