貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
202 / 370

カレンの冒険〜岩場〜

しおりを挟む
 先へ進めば進むほど足場は悪くなり、足場は地面というよりは岩場だ。そして川は普段見慣れた川も透明度が高いと思っていたが、この辺の水質は桁違いに透明だ。あまりにも綺麗な水にそっと手を入れる。

「冷た~い!」

 私の言葉を聞いた大人たちも、わくわくしながら手を入れたり足を入れたりしている。あのお父様やじいやまでも「冷たい!」と騒ぐのだ。まるで雪解け水のようだと思った。ほんの少し川遊びをしたが、冷たすぎて寒さを感じたくらいだ。

 冷水に触れたせいか、はたまた標高が高くなってきているせいか体が冷える。体を温めるためにも私たちは進んだ。その途中、落差十数メートルの滝があったが、生まれて初めて見る滝にお父様たちは大興奮であった。お父様は「これを作れないか!?」と騒ぐが、皆が楽しめるようであればいずれ人工の滝を作っても良いのかもしれない。
 滝の横はほぼ垂直の一枚岩であったが、滝から離れると少し緩やかな崖となっており、迂回しながら滝の上を目指した。その辺りから皆口には出さないが、普段は見かけない、でも知っているものが落ちている。骨だ。

 何の骨かは分からないが、それを横目にさらに上を目指す。なんとか道具を使わずに岩を登っているが、これはもう完全にロッククライミングだ。私たちは高い身体能力のおかげで登れているが、スイレンであれば確実にここまで来ることは出来ないだろう。

 何個目か分からない大岩を登りきると、目の前には動物の亡骸があった。

「……森の一部になることも出来んのだな……」

 お父様は鹿のような動物の亡骸に話しかける。草木の生えない岩場には微生物がいないのか、この動物は死んでしまってから時間が経っているようだが、分解されることもなくカラカラに乾いた皮が一部白骨化した骨にくっついている。
 野生動物の亡骸を見るのには抵抗がないが、土に還ることも出来ないその有り様を見ていると何とも言えない気持ちになる。

「姫様、これを」

 近くを捜索していたじいやに呼ばれる。お父様とタデもその場に行くと、岩と岩の間には小さな切り株のようなものがあった。とは言っても人が切り倒したものではなく、自然に折れてしまったもののようだ。

「あったのだな。木が」

 タデはしゃがみ込んでそう呟く。もう少し付近を探ることにし、そのまま川沿いを進むとお父様が立ち止まる。

「……何かいるぞ」

 咄嗟にお父様の後ろに回り込み、その背中にしがみつく。お父様の背中越しに前方を見ると、川岸に見たこともないような生き物がおり、虚ろな目をしてこちらを見ていた。最初は恐怖心で動けなかったが、よく見れば見覚えのある毛皮だった。

「……まさか……ベーア……?」

 ガリガリに痩せ、もうほとんど骨と皮だけのベーアは私たちを見るとゆっくりと立ち去った。

「もう私たちに立ち向かう力もないのだろう」

「仕留めなくても良いの?」

 私が聞くとお父様は首を横に振り、静かにベーアがいた場所まで進む。ビクビクしながらついて行くと、そこにはカニなのかエビなのか分からないが、甲殻類の脚のようなものが落ちていた。

「なんとか食い繋いでいるようですな」

 じいやはそれを見て感心しているようだ。

「待って……。私たちは川の近くにカッシなどを植えたわよね? この国では植物の成長速度が早いわ。もしここまで森が広がったら……あのベーアが来てしまうかも……」

 そこまで言うとお父様はその場に座り、私にも座るように言う。そして優しげな表情で、諭すようにゆっくりと話し始めた。

「カレンよ。勘違いしてはいけない。森とは生き物がいて当然なのだ。人だけのものではない。今の状態が不自然なのだ」

 快適に過ごせていると思っていた私は驚く。

「森の生き物であるベーアにも森の恵みは必要だ。私たちはなにも食べるためだけにベーアを狩っていたわけではない。祝い事などがあればもちろん積極的に狩って食べてはいたが、人に悪さをしなければ無闇に命を奪ったりしない。森が広ければ広いほど、実は出会うことも少ないのだ」

 森の民は採取できる植物が少ない時なども、生きるために動物を狩っていたと言う。この国に来て、あまりにも食べるものがなく動物を狩ったが、狩り尽くしたと思っていた大人たちは自責の念にとらわれていたと言う。だからこそ、この地でベーアに出会えたことに感謝したいと言う。

「動物たちも生きる権利はあるのだ。場合によっては食うか食われるかだが、人も動物も森で暮らす運命共同体のようなものだ」

 タデもそう話す。

「しかしながら、ガイターの奴は動くものであれば何にでも反応してしまうので、あ奴らは見つけ次第狩るのですよ」

 じいやが苦笑いで「少々矛盾しておりますが」と語ると、お父様もタデも「ガイターは仕方ない」とこちらもバツが悪そうな顔をしている。

「動物たちを恐れる必要はない。悪さをすれば私たちがなんとかする」

 お父様の表情はいつもの頼りがいのある顔に戻っている。

「カレンは気付いてないようだが、ベーア以外の糞も落ちていたぞ。きっとこの上には、まだ食べるものが多少あるのだろう。ハーンの木もきっとそこから来たのだ。……帰るか」

 まだそのハーンの木も川の源流も見つけてはいないが、ベーアをまだ少し恐れる私と、そのベーアを狩りたくはない気持ちからなのだろう。名残惜しそうにお父様は上流側を見つめながら帰ろうと言う。
 お父様の気持ちも理解できた私は「えぇ、帰りましょう」と同意し、来た道を戻ることにした。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...