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呪いの正体
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「その前に、まず体の状態の確認をしたいわ。モズさん、レオナルドさん、そのままその人を押さえていてね」
そう言うと、モズさんとレオナルドさんは力を込める。そしてお父様とじいやはしゃがみ込み、「動いたら殺す」「騒いでも殺す」と、ほぼ本気で言っている。至近距離でお父様とじいやの顔を見たサギは、青ざめ口をつぐんだ。
「いつも……娘から話は……聞いていた……。あなたが来て……くれなければ……娘のことも……モズのことも……知らないままだった……ありがとう……」
「私はクジャの友人だもの。困っていたら当然助けるわ。……さて、今は話すのも辛いでしょうけど、いくつか症状の確認をさせてくださいね」
そう言うとクジャのお父様は静かに、ほんの少しだけ頷いてくれた。私は医者ではないが、思い当たる病気を知っていたので、答えやすいようにイエスノー方式でこんな症状はあるかと問いかける。その度に「あぁ……」「いや……」と答えてくれるが、クジャのお父様が口を開く度に悪臭が漂う。
それは想定していたことだったので、極力顔に出さないよう心がけた。本人はそれに気付いていないのである。サギはその臭いが気になるので、おそらく鼻から口にかけて布を巻いているのだろう。
「うん、やっぱりそうだわ」
失礼にならない程度に、皮膚の状態なども確認させてもらった私は呟く。筋肉や関節の痛み、粘膜や歯茎からの出血、太ももなどの皮膚からの出血や乾燥、それに加え手足の先に酷いしびれと筋力の低下を確認、そして酷いむくみ。それ以外にも症状をあげたらキリがないが、想像していた病気の末期症状に近い。
「クジャのお父様、人はね、生きる為に食事をするでしょう? その食品の一つ一つに、体を作ったり維持したりする為のものが含まれているの。王家の風習を聞いたわ。親族が亡くなると、長い期間主食のマイしか食べないのよね? それが原因なのよ。風習を変えるのは難しいかしら?」
すると、押さえつけられていたサギが静かに反論をした。
「……ならばなぜ、過去の王家はこのようなことにならなかったのだ? 答えられるのか?」
挑発的に問いかけられたが、もちろん答えられる。
「えぇ。今のマイと昔のマイは違うからよ。正確には、今の王家の為のマイが原因ね」
ペーターさんの家でクジャを看病し、リーンウン国について一日かけて聞いた時にこの国の主食の話になった。この国の主食の『マイ』とは米のことだ。百~二百年ほど前から、玄米を精米した真っ白なお米が王家の主食となったらしい。王家以外の者は今でも玄米を食べているようだ。
そして王家の誰かが亡くなると、獣の肉を食べることを禁じる風習があった。元々王家は、白米とおかずに山菜という質素な食事を好み、獣の肉はあまり食べなかったようだ。そのせいで、自覚がないまま各種ビタミンの欠乏状態が続いていたと思われる。
クジャのお祖父様が亡くなった時にこの風習が発動され、さらに悲しみから皆が食欲不振となり、ほとんどビタミンBを摂取出来なくなったことから、最初は脚気の症状が始まったのだと思われる。
脚気の初期症状は、倦怠感と食欲の低下だ。さらに食べなくなっていったことで、様々なビタミン不足に陥り、今は壊血病にまでなっているようなのだ。歯茎からの出血は壊血病が原因と思われ、そこから悪臭が発生しているのだ。
「そういう栄養が不足するとこの病気になるの。マイは美味しいけれど、あまり栄養がないのよ。クジャは村に遊びに行った時に、庶民のマイを食べたり、シャイアーク国で食べ物を食べていたからこの病気にならなかったのよ。……スネックは獣じゃないしね」
そう言うと、クジャは泣き笑いをする。
「だから、獣を食べない期間を短くするか、それが無理ならその期間は庶民と同じマイを食べるように、王様の権限で風習を変えることを提案するわ」
クジャのお父様の目を真っ直ぐに見つめそう言うと、眠っていると思っていたクジャのお兄様が「賛成だ……」と言ってくれた。ぐうの音も出なくなるほど分かりやすく説明したおかげか、サギの体からは力が抜け、そして静かに涙を流し始めた。
「私は……何ということを……」
その言葉は最初、クジャとモズさんに向けられたものだと思ったが、サギは二人のことは見ずに焦点が合っていない。猛烈に嫌な予感がした私はサギを問い詰めた。
「……ねぇ、クジャのお母様もお祖母様も、この症状と同じなのよね……? 時間はかかるけれど、治る病気なのよ……?」
そう言うがサギからは反応がない。段々と私たちは青ざめていく。
「……そもそも……この部屋は……王と王妃の部屋だったはずだ……お二人はどこにいるのだ……!?」
ずっと我慢をしていたモズさんがサギを締め上げた。苦痛に歪んだ顔をして、サギは「……空の間……」と呟いた。その言葉を聞いたクジャたちから、ヒュッと息をのむ音が聞こえた。
「モズさん、案内を! お二人はこのままここにいてください!」
クジャのお父様とお兄様にそう告げると、青ざめながらも頷いてくれる。だがクジャはその場に泣き崩れてしまった。
「しっかりしろ」
お父様がそう力強く言って、クジャをお姫様抱っこすると、じいやはレオナルドさんに「拘束したまま引きずって来い!」と叫ぶ。
私たちはそのままモズさんを追って、部屋から飛び出した。
そう言うと、モズさんとレオナルドさんは力を込める。そしてお父様とじいやはしゃがみ込み、「動いたら殺す」「騒いでも殺す」と、ほぼ本気で言っている。至近距離でお父様とじいやの顔を見たサギは、青ざめ口をつぐんだ。
「いつも……娘から話は……聞いていた……。あなたが来て……くれなければ……娘のことも……モズのことも……知らないままだった……ありがとう……」
「私はクジャの友人だもの。困っていたら当然助けるわ。……さて、今は話すのも辛いでしょうけど、いくつか症状の確認をさせてくださいね」
そう言うとクジャのお父様は静かに、ほんの少しだけ頷いてくれた。私は医者ではないが、思い当たる病気を知っていたので、答えやすいようにイエスノー方式でこんな症状はあるかと問いかける。その度に「あぁ……」「いや……」と答えてくれるが、クジャのお父様が口を開く度に悪臭が漂う。
それは想定していたことだったので、極力顔に出さないよう心がけた。本人はそれに気付いていないのである。サギはその臭いが気になるので、おそらく鼻から口にかけて布を巻いているのだろう。
「うん、やっぱりそうだわ」
失礼にならない程度に、皮膚の状態なども確認させてもらった私は呟く。筋肉や関節の痛み、粘膜や歯茎からの出血、太ももなどの皮膚からの出血や乾燥、それに加え手足の先に酷いしびれと筋力の低下を確認、そして酷いむくみ。それ以外にも症状をあげたらキリがないが、想像していた病気の末期症状に近い。
「クジャのお父様、人はね、生きる為に食事をするでしょう? その食品の一つ一つに、体を作ったり維持したりする為のものが含まれているの。王家の風習を聞いたわ。親族が亡くなると、長い期間主食のマイしか食べないのよね? それが原因なのよ。風習を変えるのは難しいかしら?」
すると、押さえつけられていたサギが静かに反論をした。
「……ならばなぜ、過去の王家はこのようなことにならなかったのだ? 答えられるのか?」
挑発的に問いかけられたが、もちろん答えられる。
「えぇ。今のマイと昔のマイは違うからよ。正確には、今の王家の為のマイが原因ね」
ペーターさんの家でクジャを看病し、リーンウン国について一日かけて聞いた時にこの国の主食の話になった。この国の主食の『マイ』とは米のことだ。百~二百年ほど前から、玄米を精米した真っ白なお米が王家の主食となったらしい。王家以外の者は今でも玄米を食べているようだ。
そして王家の誰かが亡くなると、獣の肉を食べることを禁じる風習があった。元々王家は、白米とおかずに山菜という質素な食事を好み、獣の肉はあまり食べなかったようだ。そのせいで、自覚がないまま各種ビタミンの欠乏状態が続いていたと思われる。
クジャのお祖父様が亡くなった時にこの風習が発動され、さらに悲しみから皆が食欲不振となり、ほとんどビタミンBを摂取出来なくなったことから、最初は脚気の症状が始まったのだと思われる。
脚気の初期症状は、倦怠感と食欲の低下だ。さらに食べなくなっていったことで、様々なビタミン不足に陥り、今は壊血病にまでなっているようなのだ。歯茎からの出血は壊血病が原因と思われ、そこから悪臭が発生しているのだ。
「そういう栄養が不足するとこの病気になるの。マイは美味しいけれど、あまり栄養がないのよ。クジャは村に遊びに行った時に、庶民のマイを食べたり、シャイアーク国で食べ物を食べていたからこの病気にならなかったのよ。……スネックは獣じゃないしね」
そう言うと、クジャは泣き笑いをする。
「だから、獣を食べない期間を短くするか、それが無理ならその期間は庶民と同じマイを食べるように、王様の権限で風習を変えることを提案するわ」
クジャのお父様の目を真っ直ぐに見つめそう言うと、眠っていると思っていたクジャのお兄様が「賛成だ……」と言ってくれた。ぐうの音も出なくなるほど分かりやすく説明したおかげか、サギの体からは力が抜け、そして静かに涙を流し始めた。
「私は……何ということを……」
その言葉は最初、クジャとモズさんに向けられたものだと思ったが、サギは二人のことは見ずに焦点が合っていない。猛烈に嫌な予感がした私はサギを問い詰めた。
「……ねぇ、クジャのお母様もお祖母様も、この症状と同じなのよね……? 時間はかかるけれど、治る病気なのよ……?」
そう言うがサギからは反応がない。段々と私たちは青ざめていく。
「……そもそも……この部屋は……王と王妃の部屋だったはずだ……お二人はどこにいるのだ……!?」
ずっと我慢をしていたモズさんがサギを締め上げた。苦痛に歪んだ顔をして、サギは「……空の間……」と呟いた。その言葉を聞いたクジャたちから、ヒュッと息をのむ音が聞こえた。
「モズさん、案内を! お二人はこのままここにいてください!」
クジャのお父様とお兄様にそう告げると、青ざめながらも頷いてくれる。だがクジャはその場に泣き崩れてしまった。
「しっかりしろ」
お父様がそう力強く言って、クジャをお姫様抱っこすると、じいやはレオナルドさんに「拘束したまま引きずって来い!」と叫ぶ。
私たちはそのままモズさんを追って、部屋から飛び出した。
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