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裏ボスカレン
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私は厨房へと足を踏み入れた。真顔で厨房を見渡す。
「あら、カレンさんどうしたの? ……何か、男らしく見えるけれど……」
休んでいた女中たちが私に気付き声をかけてくれたが、ここにはまだオオルリさんの話は届いていないようだ。それにしても男らしいとは、失礼なことを言ってくれる。
「……オオルリさんがついに歩いたわ」
私の言葉に厨房内は一瞬静まり返る。そして女中たちは一気に騒ぎ始めた。
「ついに!」
「良かった!」
「カレンさん、おめでとう!」
最初の頃こそ冷たい態度ばかりとられたが、この女中たちは厨房のみの仕事で他の者とあまり顔合わせをしない。そんな閉塞的な場所に長年いたおかげで、良い意味で結束力が上がり、悪い意味で他の者を排除しようとしていただけなのだ。
決して悪い人たちではないのだ。現に今は私を仲間として受け入れてくれ、涙ぐみ、私の手を取って喜んでいる。
「昼食としてアレを作るわ。けれど本物は作れないわ。時間が足りない。……その代わり、明日本物を作るわ」
アレとはもちろん赤飯のことである。以前、女中にこの国ではどう作っているのかと聞くと、炊く時にマイにアーズこと赤いディーズを少し混ぜ合わせるだけだと言っていた。
そんなものは赤飯好きとしては認められない。私が本物を作って、赤飯の美味しさを伝えねばならない。今日は時間の都合で簡単な赤飯を作るが、それでも違いに驚いてくれるだろう。というか、本音を言えば何をもって本物と言うかの違いが分からないのだが。
「マイとアーズを準備しましょう」
そう言って、その二つを保管している場所に行くと重大なことに気付いてしまった。赤飯を炊いたとして、城中の人に配るのには充分な量がある。けれどそれは一人当たりの量が少量となるだろう。
この城にはクジャという食べ盛りがいる。そして私は赤飯が好きだ。これでは取り分が減ってしまう。
「……トビ爺さんの村は遠いのかしら?」
「え? トビ爺? どうして急に? ……いえ、村はそんなに離れていませんよ?」
急にトビ爺さんの名を出したので、女中たちは不思議そうな顔をしている。
「ちょっと外出するわ」
私はそう言い残し、兵舎へと向かった。
────
お父様とじいやの影響がないからか、兵たちは楽しそうに訓練をしている。その顔は笑顔だが、普段お父様たちが指導をしている時には笑顔なんてない。ほとんど魂が抜けたような顔をしている。
「あれ? カレンさん、どうかしました?」
どうやら兵たちはまだオオルリさんのことを知らないようだ。
「あのね、オオルリさんが少しだけど、ついに歩いたの!」
私の言葉に兵たちは喜びの雄叫びを上げた。ちょうどその時、家臣がそれを伝えようとやって来た。タッチの差で私が早く知らせてしまったようだ。
「それでね、お昼にマイとアーズを使った料理を作るのだけれど」
その一言にまた雄叫びが上がる。この国の人たちは『赤飯もどき』が好きなようだ。
「今日は時間がないから簡単なものを作るけれど、明日最高のものを作ってそれをみんなに食べてもらいたいの。けれど、少し在庫が足りないのよ。誰かトビ爺さんの村まで行ってもらえないかしら?」
そう問いかけると、兵たちは顔を見合わせ一人、また一人と手を上げる。気付けばこの場の全員が手を上げていた。皆トビ爺さんの村へと行ってくれる意思があるようだ。
「まぁ! 全員じゃない!」
そう言って笑うと、一人が口を開いた。
「本当にカレンさんの作る料理は美味しいので、私たちは感動しています。いつもこの国のために頑張ってくれている、そんなカレンさんの手助けをしたいだけです」
少しもじもじとしている様子がオヒシバたちを彷彿とさせる。彼らは、ヒーズル王国の皆は元気だろうか? オオルリさんが歩いた今、私たちが帰国する日は近い。
「ではお願いしようかしら。けれど、普通に頼んだのでは面白くないわね」
そう言うと兵たちは首を傾げる。
「いくつかの組に分かれましょう。そしてどの組が早く多くマイとアーズを持って来れるか競争しましょう。お父様とじいやにしごかれたから、きっと体力も向上しているわ」
自分で言いながら、こういうスパルタな部分がお父様やじいやに似ていると思ってしまう。けれど私はお父様とじいやと違い、飴と鞭の飴を使うのだ。
「一番になった組には、食べたいものを私が作るわ」
兵たちはざわめいている。兵たちの胃袋を掴んだ私にはこういう強みがあるのだ。
「そして明日、私はみんなが食べたことのない甘味を作る予定よ。あの甘味を嫌う人はいないわね。それも他の人よりも多く渡すわ」
一瞬の間があったが、兵たちはすぐに組を作り始めた。そもそも少人数で訓練をする時の組があるらしく、すぐにまとまっていく。
その中で欲のない老兵たちは、自分たちが観測や計測をすると申し出てくれた。老兵たちの抜けた分はすぐに話し合って人数を補っている。
「良いこと? 早く、多くよ。そして他の組の邪魔をしてはいけないわ。民たちを危ない目に遭わせるのも禁止。お父様に鍛えられたその脚力を存分に使ってね。では! 始め!」
こうして私は赤飯のために他国の兵たちを使ったのだった。
「あら、カレンさんどうしたの? ……何か、男らしく見えるけれど……」
休んでいた女中たちが私に気付き声をかけてくれたが、ここにはまだオオルリさんの話は届いていないようだ。それにしても男らしいとは、失礼なことを言ってくれる。
「……オオルリさんがついに歩いたわ」
私の言葉に厨房内は一瞬静まり返る。そして女中たちは一気に騒ぎ始めた。
「ついに!」
「良かった!」
「カレンさん、おめでとう!」
最初の頃こそ冷たい態度ばかりとられたが、この女中たちは厨房のみの仕事で他の者とあまり顔合わせをしない。そんな閉塞的な場所に長年いたおかげで、良い意味で結束力が上がり、悪い意味で他の者を排除しようとしていただけなのだ。
決して悪い人たちではないのだ。現に今は私を仲間として受け入れてくれ、涙ぐみ、私の手を取って喜んでいる。
「昼食としてアレを作るわ。けれど本物は作れないわ。時間が足りない。……その代わり、明日本物を作るわ」
アレとはもちろん赤飯のことである。以前、女中にこの国ではどう作っているのかと聞くと、炊く時にマイにアーズこと赤いディーズを少し混ぜ合わせるだけだと言っていた。
そんなものは赤飯好きとしては認められない。私が本物を作って、赤飯の美味しさを伝えねばならない。今日は時間の都合で簡単な赤飯を作るが、それでも違いに驚いてくれるだろう。というか、本音を言えば何をもって本物と言うかの違いが分からないのだが。
「マイとアーズを準備しましょう」
そう言って、その二つを保管している場所に行くと重大なことに気付いてしまった。赤飯を炊いたとして、城中の人に配るのには充分な量がある。けれどそれは一人当たりの量が少量となるだろう。
この城にはクジャという食べ盛りがいる。そして私は赤飯が好きだ。これでは取り分が減ってしまう。
「……トビ爺さんの村は遠いのかしら?」
「え? トビ爺? どうして急に? ……いえ、村はそんなに離れていませんよ?」
急にトビ爺さんの名を出したので、女中たちは不思議そうな顔をしている。
「ちょっと外出するわ」
私はそう言い残し、兵舎へと向かった。
────
お父様とじいやの影響がないからか、兵たちは楽しそうに訓練をしている。その顔は笑顔だが、普段お父様たちが指導をしている時には笑顔なんてない。ほとんど魂が抜けたような顔をしている。
「あれ? カレンさん、どうかしました?」
どうやら兵たちはまだオオルリさんのことを知らないようだ。
「あのね、オオルリさんが少しだけど、ついに歩いたの!」
私の言葉に兵たちは喜びの雄叫びを上げた。ちょうどその時、家臣がそれを伝えようとやって来た。タッチの差で私が早く知らせてしまったようだ。
「それでね、お昼にマイとアーズを使った料理を作るのだけれど」
その一言にまた雄叫びが上がる。この国の人たちは『赤飯もどき』が好きなようだ。
「今日は時間がないから簡単なものを作るけれど、明日最高のものを作ってそれをみんなに食べてもらいたいの。けれど、少し在庫が足りないのよ。誰かトビ爺さんの村まで行ってもらえないかしら?」
そう問いかけると、兵たちは顔を見合わせ一人、また一人と手を上げる。気付けばこの場の全員が手を上げていた。皆トビ爺さんの村へと行ってくれる意思があるようだ。
「まぁ! 全員じゃない!」
そう言って笑うと、一人が口を開いた。
「本当にカレンさんの作る料理は美味しいので、私たちは感動しています。いつもこの国のために頑張ってくれている、そんなカレンさんの手助けをしたいだけです」
少しもじもじとしている様子がオヒシバたちを彷彿とさせる。彼らは、ヒーズル王国の皆は元気だろうか? オオルリさんが歩いた今、私たちが帰国する日は近い。
「ではお願いしようかしら。けれど、普通に頼んだのでは面白くないわね」
そう言うと兵たちは首を傾げる。
「いくつかの組に分かれましょう。そしてどの組が早く多くマイとアーズを持って来れるか競争しましょう。お父様とじいやにしごかれたから、きっと体力も向上しているわ」
自分で言いながら、こういうスパルタな部分がお父様やじいやに似ていると思ってしまう。けれど私はお父様とじいやと違い、飴と鞭の飴を使うのだ。
「一番になった組には、食べたいものを私が作るわ」
兵たちはざわめいている。兵たちの胃袋を掴んだ私にはこういう強みがあるのだ。
「そして明日、私はみんなが食べたことのない甘味を作る予定よ。あの甘味を嫌う人はいないわね。それも他の人よりも多く渡すわ」
一瞬の間があったが、兵たちはすぐに組を作り始めた。そもそも少人数で訓練をする時の組があるらしく、すぐにまとまっていく。
その中で欲のない老兵たちは、自分たちが観測や計測をすると申し出てくれた。老兵たちの抜けた分はすぐに話し合って人数を補っている。
「良いこと? 早く、多くよ。そして他の組の邪魔をしてはいけないわ。民たちを危ない目に遭わせるのも禁止。お父様に鍛えられたその脚力を存分に使ってね。では! 始め!」
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