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スイレンの涙
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休日と言えるのか分からない一日を過ごし、一晩明けた今日は気持ちも新たに働こうと思う。
そんな決意を一人でしていると、イチビとオヒシバが「約束通り記念品を焼いて来る」と、子どもたちに話している。
子どもたちはせっかくの遊具で遊ばず、それぞれの親の元で仕事を手伝っている。子どもたちを見つめながら、もっと自由に遊んでほしいと思っているとエビネに声をかけられた。
「姫様、少しよろしいですか?」
「どうかした?」
エビネは私を手招きし、エビネの後ろをついて畑へと向かった。相変わらず手入れの行き届いている畑は、この国の宝と言っても過言ではない。
「セッサーミンの種を蒔いた畑なのですが……雑草ではなさそうなものが生えて来まして……」
さすがに毎日畑の手入れをし、チキントラクターが使えない場所は手で雑草を抜いているだけあって、見た目で雑草かそうでないかが判断出来るようだ。
「おそらく、この数が多いのがセッサーミンだと思うのですが……あと、これはアーマかと……」
「あら? 種が混ざっていたのね。そのアーマって、糸にする植物?」
以前お母様たちは、アーマよりもチョーマが馴染み深いからと、チョーマで糸を作った。その話題に出たアーマなのかと聞くと、エビネは頷く。
「問題はこのもう一つの植物でして……」
双葉だけだと似通っているので、本葉が出るまで待ったのだろう。アーマだけはすぐに違いが分かるが、セッサーミンと、謎の植物の本葉がとても似ている。
「あれ……これって……」
まだ本葉が出てそんなに経っていないが、微妙に色付いている気がする。地面に手をつき、顔を近付けるとようやくその正体が分かった。
「これは……リーンウン国でシィソと呼ばれるものね。薬味として食べたりするのだけど……おそらく爆発的に増えるわ。プランターに植えたほうが良いかもしれないわね」
顔を上げ、苦笑いでそう告げる。前世の美樹は、ご近所さんから大葉を一株いただき、良かれと思って庭に植えた。すると爆発的に繁殖し、庭だけではなく美樹の家の周辺までも大葉まみれになってしまった。
その話をするとエビネはすぐに人を呼び、三種類の小さな苗を選別し始めた。
「……ねぇエビネ、アーマはあまり馴染みがないと聞いたけれど、全く馴染みがないわけではないのよね?」
「はい。森よりも、町の周辺ではアーマを使う方が主流でした。物々交換に行った際、よく見学をさせていただきました」
それを聞き、私はニンマリと笑う。
「エビネ、セッサーミンよりもアーマの栽培に力を入れてちょうだい」
「分かりました」
まずは花を咲かせ、種で増やしていくしかない。植物の成長が早いこの土地ならば、すぐに立派なアーマ畑になるだろう。
作業をエビネたちに任せ、ヒイラギを探しに浄化設備の建設現場へと足を運ぶ。
「ヒイラギー!」
「姫! どうしたの?」
木の加工のほうが得意なヒイラギだけれど、率先して建設に加わってくれている。
私の声を聞き、現場から離れて来てくれた。
「あのね、また作ってほしいものがあるの」
「分かったよ」
まだ何を作るか言ってもいないのに、ヒイラギは二つ返事で笑顔で了承してくれる。そのことを茶化しながら、新たにほしいものを頼む。
「……というわけなの。あら? 思った以上にこっちの作業が進んでいるのね」
「あぁ、モクレンとベンジャミン様の二人がいると、やっぱりものすごい勢いで作業が捗るよ」
ヒイラギの肩越しに見えた景色を見て呟くと、ヒイラギもそちらを振り向いてそう話す。
「私ったらまだまだ作業が終わらないと思っていたけど、もしかしてこの調子だと数日中に終わりそう?」
「上手くあの二人を競争させたら終わると思うよ。スイレン様にも聞いてみたら?」
ヒイラギのその言葉を聞き、今度はスイレンを呼ぶ。私たちを見つけたスイレンは、道具を置いてパタパタと走って来た。
「どうしたのカレン?」
「お父様とじいやを競わせたら、ここの作業は数日中に終わりそう?」
私の問いかけに、スイレンは小首を傾げながら「競わせなくても終わると思う」と答えた。
「そう。なら私はリトールの町へ行くわ。町の近くの沼から植物をもらって来ないと」
それを聞いたスイレンは表情が少し曇る。
「ねぇスイレン。ブルーノさんといるのが楽しいのは分かるけど、ブルーノさんはリトールの町の人だし、ジェイソンさんは国境警備隊なのよ……そろそろ帰してあげないと……」
私の言葉を聞いたスイレンは、みるみるうちに目に涙を浮かべてしまい、私とヒイラギはあたふたと慌ててしまう。
「……今すぐ行くわけじゃないよね?」
「……今すぐ行こうかと思っていたけど、考え直すわ……」
その私の言葉を聞いたスイレンは涙を拭き、皆にも言わないとと現場へと駆け出した。
「……スイレン……」
「本当にブルーノさんに懐いていたからね。……ただ、ジェイソンさんも心配だな」
その言葉にハッとする。じいやラブのジェイソンさんも、きっと悲しみに暮れることだろう。
そう思いジェイソンさんを探すと、ブルーノさんにしがみついて泣くスイレンから話を聞いたのか、地面に寝そべり両手をバタつかせ、駄々っ子のように泣きわめいていた。
そしてまだ事情を知らないじいやに見つかり、檄を飛ばされ微笑む姿を見てしまい、私とヒイラギは困惑してしまったのだった。
そんな決意を一人でしていると、イチビとオヒシバが「約束通り記念品を焼いて来る」と、子どもたちに話している。
子どもたちはせっかくの遊具で遊ばず、それぞれの親の元で仕事を手伝っている。子どもたちを見つめながら、もっと自由に遊んでほしいと思っているとエビネに声をかけられた。
「姫様、少しよろしいですか?」
「どうかした?」
エビネは私を手招きし、エビネの後ろをついて畑へと向かった。相変わらず手入れの行き届いている畑は、この国の宝と言っても過言ではない。
「セッサーミンの種を蒔いた畑なのですが……雑草ではなさそうなものが生えて来まして……」
さすがに毎日畑の手入れをし、チキントラクターが使えない場所は手で雑草を抜いているだけあって、見た目で雑草かそうでないかが判断出来るようだ。
「おそらく、この数が多いのがセッサーミンだと思うのですが……あと、これはアーマかと……」
「あら? 種が混ざっていたのね。そのアーマって、糸にする植物?」
以前お母様たちは、アーマよりもチョーマが馴染み深いからと、チョーマで糸を作った。その話題に出たアーマなのかと聞くと、エビネは頷く。
「問題はこのもう一つの植物でして……」
双葉だけだと似通っているので、本葉が出るまで待ったのだろう。アーマだけはすぐに違いが分かるが、セッサーミンと、謎の植物の本葉がとても似ている。
「あれ……これって……」
まだ本葉が出てそんなに経っていないが、微妙に色付いている気がする。地面に手をつき、顔を近付けるとようやくその正体が分かった。
「これは……リーンウン国でシィソと呼ばれるものね。薬味として食べたりするのだけど……おそらく爆発的に増えるわ。プランターに植えたほうが良いかもしれないわね」
顔を上げ、苦笑いでそう告げる。前世の美樹は、ご近所さんから大葉を一株いただき、良かれと思って庭に植えた。すると爆発的に繁殖し、庭だけではなく美樹の家の周辺までも大葉まみれになってしまった。
その話をするとエビネはすぐに人を呼び、三種類の小さな苗を選別し始めた。
「……ねぇエビネ、アーマはあまり馴染みがないと聞いたけれど、全く馴染みがないわけではないのよね?」
「はい。森よりも、町の周辺ではアーマを使う方が主流でした。物々交換に行った際、よく見学をさせていただきました」
それを聞き、私はニンマリと笑う。
「エビネ、セッサーミンよりもアーマの栽培に力を入れてちょうだい」
「分かりました」
まずは花を咲かせ、種で増やしていくしかない。植物の成長が早いこの土地ならば、すぐに立派なアーマ畑になるだろう。
作業をエビネたちに任せ、ヒイラギを探しに浄化設備の建設現場へと足を運ぶ。
「ヒイラギー!」
「姫! どうしたの?」
木の加工のほうが得意なヒイラギだけれど、率先して建設に加わってくれている。
私の声を聞き、現場から離れて来てくれた。
「あのね、また作ってほしいものがあるの」
「分かったよ」
まだ何を作るか言ってもいないのに、ヒイラギは二つ返事で笑顔で了承してくれる。そのことを茶化しながら、新たにほしいものを頼む。
「……というわけなの。あら? 思った以上にこっちの作業が進んでいるのね」
「あぁ、モクレンとベンジャミン様の二人がいると、やっぱりものすごい勢いで作業が捗るよ」
ヒイラギの肩越しに見えた景色を見て呟くと、ヒイラギもそちらを振り向いてそう話す。
「私ったらまだまだ作業が終わらないと思っていたけど、もしかしてこの調子だと数日中に終わりそう?」
「上手くあの二人を競争させたら終わると思うよ。スイレン様にも聞いてみたら?」
ヒイラギのその言葉を聞き、今度はスイレンを呼ぶ。私たちを見つけたスイレンは、道具を置いてパタパタと走って来た。
「どうしたのカレン?」
「お父様とじいやを競わせたら、ここの作業は数日中に終わりそう?」
私の問いかけに、スイレンは小首を傾げながら「競わせなくても終わると思う」と答えた。
「そう。なら私はリトールの町へ行くわ。町の近くの沼から植物をもらって来ないと」
それを聞いたスイレンは表情が少し曇る。
「ねぇスイレン。ブルーノさんといるのが楽しいのは分かるけど、ブルーノさんはリトールの町の人だし、ジェイソンさんは国境警備隊なのよ……そろそろ帰してあげないと……」
私の言葉を聞いたスイレンは、みるみるうちに目に涙を浮かべてしまい、私とヒイラギはあたふたと慌ててしまう。
「……今すぐ行くわけじゃないよね?」
「……今すぐ行こうかと思っていたけど、考え直すわ……」
その私の言葉を聞いたスイレンは涙を拭き、皆にも言わないとと現場へと駆け出した。
「……スイレン……」
「本当にブルーノさんに懐いていたからね。……ただ、ジェイソンさんも心配だな」
その言葉にハッとする。じいやラブのジェイソンさんも、きっと悲しみに暮れることだろう。
そう思いジェイソンさんを探すと、ブルーノさんにしがみついて泣くスイレンから話を聞いたのか、地面に寝そべり両手をバタつかせ、駄々っ子のように泣きわめいていた。
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