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水浸し
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引っ越しの手伝いを終えた私は、スイレンたちがいる新たな住居工事の場所へと向かった。とはいえ、それは目の前なのだが。
テクテクとのんびり歩いて行ったが、あまりにも真面目な顔で作業をしているスイレンを見て、邪魔をしてはいけないと思い浄化設備の方へと向かうことにした。
────
浄化設備は棚田状になっているが、まだ住居が少なく排水の量も少ないので、蒸発しているのもあってか上から数段くらいまでしか水が溜まっていない。
それでも植物を植えた段には水が溜まっているので、少し萎れていた植物たちは元気を取り戻しているように見える。
「お父様ー! じいやー! タデー! どんな感じー?」
植物の様子を確認した私は、一番下の段に向かいながら大声で叫んだ。
「カレン!」
私の声を聞いたお父様は、顔を上げて手を振ってくれる。小走りでお父様たちの側へと向かった。
「浄化設備は完成しているぞ!」
お父様は笑顔で胸を張る。今はじいやとタデと共に、まだ水の入っていない浄化設備から砂を取り除き、その周辺に土を撒いているそうだ。
「やはり砂よりも土のほうが、植物がすぐに根付くようだ」
タデはそう言いながら広範囲に土を撒いている。この辺はとにかく砂だらけだったので、あのクローバーですら砂の勢いに負けていたくらいだ。
「せめて浄化設備の周りだけでも土で固めれば、後は勝手に植物が繁殖してくれるでしょう」
じいやも話しながら作業を続けている。
「そうだカレン。こっちを見てみろ」
タデとヒイラギの作業を見ていた私は、お父様の声に振り向く。するとお父様は笑顔で指をさしている。その方向を見ると、思ってもみなかったものがあった。
「……これ……ヤンナギ!?」
「やはりそう思うか」
お父様は「なぜここに?」と言いながらも、小さな木が生えたことに喜んでいる。
そういえばヤンナギは簡単に増える植物なので、上流の取水口周辺に植えたヤンナギの枝が流れてきて、ここで芽吹いたのだろう。そのことをお父様に説明した。
「なるほど。ならば川岸は何もせずとも、いずれヤンナギが立ち並ぶのかもな」
嬉しそうに微笑むお父様と一緒に川を眺めていると、ヤンナギだけではなく水草やクレソンもどきもチラホラと見える。
この国の不思議な力によって、常識では考えられないペースで自然が回復してきていることを喜び、私もじいやたちと共に土を運んで来ては撒く作業を手伝った。
────
その夜、夕食作りをしようと簡易住居に住む老人たちと集まっていると、おババさん一行が現れた。
「あら? おババさんたち、どうしたの?」
「いやはや……やはりしばらくは皆と共に食事をしたいと話し合いましてな……」
苦笑いのおババさんたち一行が言うには、どうやら急に生活スタイルを変えるのは難儀らしく、みんなでワイワイと食事を作ったり食べたりしたいと言うではないか。
言われてみれば、朝も昼もこの広場に集まっていたのを思い出す。
「ふふふっ! 決まりがある訳ではないし、おババさんたちがそう言うのなら、たくさん料理を作ってもらおうかしら!」
そんなことを言っているうちにイチビたち四人組も、おババさんたちと同じようなことを言いながら広場に現れ、あちらこちらから笑い声が響く中、夕食の準備に取り掛かると後ろから声をかけられた。
「「……姫……」」
酷く元気がなく、ハモっている声の持ち主はタデとヒイラギだ。驚き後ろを見ると、二人ともずぶ濡れでさらに驚いた。
「どうしたの二人とも!?」
二人に駆け寄ると、顔を見合わせ言いにくそうに二人が口を開いた。
「……ハコベが火消し用の水を継ぎ足して欲しいと言ったので……」
「……ナズナと料理をしようとしたら……」
二人が言うには、どちらも台所の水を使おうとしたところ、貯水槽から真っ直ぐに噴き出した水をかぶってしまったらしい。
「!! 考えてみたらそうよね!? 私ったら……ごめんなさい!!」
貯水槽からは、蛇口と言う程ではない穴の空いた棒状のものが出ており、ただ栓をしているだけなのだ。
先日お風呂を使った時は、浴槽に早く水が溜まって良いくらいに考えていたが、同じ造りのものが台所にあるのだ。少し考えれば、真っ直ぐに噴き出す水が直撃するのが当たり前に分かる。
「いや、姫の責任ではない……」
「そうそう……私たちの考えも甘かった……」
タデもヒイラギもやりきれないのか、ずぶ濡れになりながら落ち込んでいる。
「今すぐ対策を考えるわ! 二人とも先に戻って着替えて!」
そう言うと珍しく二人はスゴスゴと住居へと戻って行った。
もちろんそのやり取りを見聞きしていたイチビたちが集まる。
「見ていた通りよ……物置に行きましょう」
夕食作りを任せ、私たち五人は物置で対策グッズを探す。あれでもない、これでもないと騒いでいろいろと取り出した中に、良さげな余った素材を見つけた。
「……これしかないわね」
そう言った私の左手には鉄線が、右手には使い道のなさそうだった、ニコライさんから貰った細すぎる蛇腹のステンレスのパイプが握られている。
そしてすぐさま、まずはタデの家へと走った。
「タデ! ハコベさん! ごめんなさいね!」
謝りながら五人で勝手に上がり込むと、ハコベさんは驚いていた。
「すぐに対策をするけど、水浸しになってしまうかもしれないわ」
「それは構わないわ。気にしないから大丈夫よ」
怒るわけでもなく、そう言って笑うハコベさんは天使か何かだろうか? こういう大人の女性になりたいものである。
ここに来る道すがら、対策方法はイチビたちに伝えてある。簡単に言えば栓を抜き、曲げた蛇腹のパイプをはめ込み、力ずくで鉄線で縛るだけだ。
もちろん簡単にいくわけもなく、各住居の台所を水浸しにし、私たちも散々水を浴び大騒ぎの対策工事となった。
……おババさんの予言はこの騒ぎだったのかしら? もちろんこの騒ぎを話のネタにし、夕食は宴のように盛り上がってしまったのだった。これ以上の騒ぎはもう勘弁してもらいたいものだ……。
テクテクとのんびり歩いて行ったが、あまりにも真面目な顔で作業をしているスイレンを見て、邪魔をしてはいけないと思い浄化設備の方へと向かうことにした。
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浄化設備は棚田状になっているが、まだ住居が少なく排水の量も少ないので、蒸発しているのもあってか上から数段くらいまでしか水が溜まっていない。
それでも植物を植えた段には水が溜まっているので、少し萎れていた植物たちは元気を取り戻しているように見える。
「お父様ー! じいやー! タデー! どんな感じー?」
植物の様子を確認した私は、一番下の段に向かいながら大声で叫んだ。
「カレン!」
私の声を聞いたお父様は、顔を上げて手を振ってくれる。小走りでお父様たちの側へと向かった。
「浄化設備は完成しているぞ!」
お父様は笑顔で胸を張る。今はじいやとタデと共に、まだ水の入っていない浄化設備から砂を取り除き、その周辺に土を撒いているそうだ。
「やはり砂よりも土のほうが、植物がすぐに根付くようだ」
タデはそう言いながら広範囲に土を撒いている。この辺はとにかく砂だらけだったので、あのクローバーですら砂の勢いに負けていたくらいだ。
「せめて浄化設備の周りだけでも土で固めれば、後は勝手に植物が繁殖してくれるでしょう」
じいやも話しながら作業を続けている。
「そうだカレン。こっちを見てみろ」
タデとヒイラギの作業を見ていた私は、お父様の声に振り向く。するとお父様は笑顔で指をさしている。その方向を見ると、思ってもみなかったものがあった。
「……これ……ヤンナギ!?」
「やはりそう思うか」
お父様は「なぜここに?」と言いながらも、小さな木が生えたことに喜んでいる。
そういえばヤンナギは簡単に増える植物なので、上流の取水口周辺に植えたヤンナギの枝が流れてきて、ここで芽吹いたのだろう。そのことをお父様に説明した。
「なるほど。ならば川岸は何もせずとも、いずれヤンナギが立ち並ぶのかもな」
嬉しそうに微笑むお父様と一緒に川を眺めていると、ヤンナギだけではなく水草やクレソンもどきもチラホラと見える。
この国の不思議な力によって、常識では考えられないペースで自然が回復してきていることを喜び、私もじいやたちと共に土を運んで来ては撒く作業を手伝った。
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その夜、夕食作りをしようと簡易住居に住む老人たちと集まっていると、おババさん一行が現れた。
「あら? おババさんたち、どうしたの?」
「いやはや……やはりしばらくは皆と共に食事をしたいと話し合いましてな……」
苦笑いのおババさんたち一行が言うには、どうやら急に生活スタイルを変えるのは難儀らしく、みんなでワイワイと食事を作ったり食べたりしたいと言うではないか。
言われてみれば、朝も昼もこの広場に集まっていたのを思い出す。
「ふふふっ! 決まりがある訳ではないし、おババさんたちがそう言うのなら、たくさん料理を作ってもらおうかしら!」
そんなことを言っているうちにイチビたち四人組も、おババさんたちと同じようなことを言いながら広場に現れ、あちらこちらから笑い声が響く中、夕食の準備に取り掛かると後ろから声をかけられた。
「「……姫……」」
酷く元気がなく、ハモっている声の持ち主はタデとヒイラギだ。驚き後ろを見ると、二人ともずぶ濡れでさらに驚いた。
「どうしたの二人とも!?」
二人に駆け寄ると、顔を見合わせ言いにくそうに二人が口を開いた。
「……ハコベが火消し用の水を継ぎ足して欲しいと言ったので……」
「……ナズナと料理をしようとしたら……」
二人が言うには、どちらも台所の水を使おうとしたところ、貯水槽から真っ直ぐに噴き出した水をかぶってしまったらしい。
「!! 考えてみたらそうよね!? 私ったら……ごめんなさい!!」
貯水槽からは、蛇口と言う程ではない穴の空いた棒状のものが出ており、ただ栓をしているだけなのだ。
先日お風呂を使った時は、浴槽に早く水が溜まって良いくらいに考えていたが、同じ造りのものが台所にあるのだ。少し考えれば、真っ直ぐに噴き出す水が直撃するのが当たり前に分かる。
「いや、姫の責任ではない……」
「そうそう……私たちの考えも甘かった……」
タデもヒイラギもやりきれないのか、ずぶ濡れになりながら落ち込んでいる。
「今すぐ対策を考えるわ! 二人とも先に戻って着替えて!」
そう言うと珍しく二人はスゴスゴと住居へと戻って行った。
もちろんそのやり取りを見聞きしていたイチビたちが集まる。
「見ていた通りよ……物置に行きましょう」
夕食作りを任せ、私たち五人は物置で対策グッズを探す。あれでもない、これでもないと騒いでいろいろと取り出した中に、良さげな余った素材を見つけた。
「……これしかないわね」
そう言った私の左手には鉄線が、右手には使い道のなさそうだった、ニコライさんから貰った細すぎる蛇腹のステンレスのパイプが握られている。
そしてすぐさま、まずはタデの家へと走った。
「タデ! ハコベさん! ごめんなさいね!」
謝りながら五人で勝手に上がり込むと、ハコベさんは驚いていた。
「すぐに対策をするけど、水浸しになってしまうかもしれないわ」
「それは構わないわ。気にしないから大丈夫よ」
怒るわけでもなく、そう言って笑うハコベさんは天使か何かだろうか? こういう大人の女性になりたいものである。
ここに来る道すがら、対策方法はイチビたちに伝えてある。簡単に言えば栓を抜き、曲げた蛇腹のパイプをはめ込み、力ずくで鉄線で縛るだけだ。
もちろん簡単にいくわけもなく、各住居の台所を水浸しにし、私たちも散々水を浴び大騒ぎの対策工事となった。
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